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第293話

「やっぱり駄目だったか……」


 エルフ王国初代国王の従魔との面会。

 それを現国王であるロレンシオにミレーラを通して頼んでみたのだが、答えはNOだった。

 ミレーラからの答えを聞いて、俊輔は納得するように呟いた。

 この国において、たった1人から国を作り出した初代国王はかなり崇拝されている。

 その従魔も丁重に扱われているのだろうと考えていたからだ。

 無人島に1人流れ着いた少年の、孤独になりそうな心を支えた従魔だ。

 王妃よりも長い間初代の側に居た貴重な存在だ。

 断られても仕方がない。


「いや、ロレンシオ様はキュウ様の返答次第で決めるつもりだったのだが、そのキュウ様の体調が優れなくてな……」


「えっ……」


 ミレーラの続きの言葉を聞いて、俊輔は思わず反応する。

 許可が出ないのは、体調不良による所らしい。


「恐らくだけど、ご高齢によるものだと思うわ」


「そうか……それは仕方がない」


 その従魔は数百年以上もの年月を生きているのだ。

 むしろ、弱小魔物として知られているケセランパサランが、そもそもそんなに長い間生きていられることの方が不思議なのだ。

 どこか体調が良くないと言っても不思議ではないため、俊輔はミレーラの説明に納得した。


「すまんな」


「謝る必要はないよ。最初から会えるか分からないでいたんだから……」


 俊輔の残念そうな表情に反応したのか、ミレーラが謝る。

 たしかに会えたら嬉しいとは思っていたが、元々相手はこの国にとって重要な存在だ。

 いくら日向の人間を当別視してくれているとが言っても、そう簡単に会えるとは思っていなかった。

 なので、別にミレーラが謝ることではないため、俊輔はミレーラに気にしないよう答えた。


「そのキュウ様のこと置いておいて、観光案内を頼むよ」


「分かった」


 エステがいつ攻めてくるか分からない状況だが、俊輔と京子はいつものように観光を忘れていない。

 むしろ、こんな時だから今のうちに楽しんでおこうと考えているのかもしれない。

 そのため、俊輔はミレーラに案内をしてもらうことにした。


「……とは言っても、私は数十年ぶりに帰ってきた身だからな……」


「そう言えばそうだった」


 ドワーフ王国にある危険ダンジョンの攻略隊に参加し、下層まで進んだが仲間は全滅。

 地上に戻ることもできなくなり、ミレーラは何十年も1人でサバイバルを続けていた。

 そこに運良く俊輔と遭遇し、故郷であるこの国に帰ってこられたのだ。

 もしも俊輔たちが攻略に乗り出さなかったら、今もダンジョンの下層でサバイバルを続けていたかもしれない。

 そんなこともあって何十年かぶりに帰ったため、町中は変化に対応できていない。

 案内をしたくてもできないというのが現状だ。

 俊輔もそのことが分かっているため、ミレーラの言葉に納得した。


「ミレーラさんの知り合いは?」


 ここは長命なエルフが住む国。

 数十年いなくなっていたとはいえ、ミレーラの知り合いが全員死んでいるとは思えない。

 なので、京子はミレーラの友人なら案内してくれる人がいるかもしれないと考えた。


「そうしたいのは山々だが、私の知り合いは町はずれにいるのでな……」


 王であるロレンシオに尋ねた所、友人は少数だが生きているそうだ。

 その者たちも自分と同様、エルフの特徴を強く受け継いでいたからだろう。

 その中の誰かに案内してもらいたいところだが、生憎ミレーラの実家はこの町の外れの方。

 友人たちもその周辺に住んでいるため、城の周辺の案内と言っても、来てもらうだけでも時間がかかってしまう。

 そのため、ミレーラは京子の案を薦めない。


「自分たちで散策するしかないんじゃないか?」


「そうだな……」


 どうするべきか考えている俊輔たちに対し、カルメラが話しかける。

 俊輔たちの旅に同行しているカルメラは、最初のうちは観光なんてしている俊輔たちのことを変な目で見ていたが、ここまで来ると慣れたというか染まったというか、観光するのが当たり前のようになっている。

 そんなカルメラの変化に気付いているかどうか分からないが、俊輔もカルメラの案に賛成した。


「ムッ!!」


「ゲッ!!」


 自分たちで良い店を探し出すのも、観光の楽しみの1つである。

 町中を観察しながら散策を始めた俊輔たちだったが、ある人物と遭遇したことですぐに足を止めることになった。

 その者と目が合った途端、俊輔の表情が少し険しくなった。


「王太子が町中ぶらついていて良いのかよ?」


「遊んでいる訳ではない。町の調査も私の仕事だ」


 俊輔が言ったように、遭遇したのはこの国の王太子であるフェルナンドだ。

 お供を2人連れているとは言っても、どっかの暴れん坊将軍ではあるまいし、王太子が何をしているのだ。

 妻の京子に手を出そうとしたこともあって、俊輔のフェルナンドに対する印象は最悪だ。

 王太子とは分っていながらも、ついついきつい口調になってしまう。

 フェルナンドとしても、今度こそと惚れた女性を賭けて負けた相手のため、俊輔を快くは思っていない。

 勝負して負けたためか、口調に関しては別に気にならない。

 しかし、まるで遊んでいるかのような物言いは納得できないため、俊輔の発言に返答した。


「ちゃんと仕事できるのかよ?」


「失礼な! これまでだってちゃんとしていたわ!」


 フェルナンドの父であるロレンシオ王の話では、問題児だと聞いていた。

 そのこともあってか、俊輔の中でフェルナンドは仕事もしないボンクラ跡取りかと思っていた。

 仕事も部下に任せて何もしていないのかと思って問いかけると、フェルナンドは心外と言うように強めの口調で反論した。


「聞いた話だと、ナンパ癖以外は優秀なようよ」


「へぇ~……」


 疑いの目でフェルナンドを見つめる俊輔に、ミレーラが小声で伝える。

 久々に戻ってみたら、王太子に問題があるのでは不安でしかない。

 その不安からロレンシオ王に尋ねてみた所、どうやら仕事に関しては問題なくこなせるほど優秀なようだ。

 悪癖のせいで一部の人間に良くない印象を持たれているが、王太子でありながら分け隔てなく国民に接する彼は人気があるようだ。


「ただの色ボケ王子じゃなかったのか……。まぁ、俺はそう簡単に優秀な人間と認めないけど……」


「そうね……」


 人間は無くて七癖、有って四十八癖。

 フェルナンドにとって、その内の1つがナンパ癖のようだ。

 そう考え、国民はフェルナンドを許しているのかもしれないが、俊輔はすぐにそう思うことはできない。

 国に戻ったばかりのミレーラも俊輔と同じ位しかフェルナンドのことは知らないため その気持ちが分からないでもない。

 俊輔との試合で負けたこともあり、これからはその悪癖もなくなるだろう。

 そのため、ミレーラは俊輔と同様に、フェルナンドの今後を見ることにしたのだった。



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