第292話
「えっ!? 生きてるの?」
「えぇ、キュウ様ならまだご存命よ」
図書館に行った翌日のこと、俊輔が露天風呂に浸かりながら思った疑問をミレーラへ尋ねたら、驚きの答えが返ってきた。
エルフ王国初代国王の従魔である、キュウという名前のケセランパセラン。
それがまだ生きているという話しだった。
「ケセランパセランだったよな?」
「そうよ」
魔物の餌とまで言われるほど弱小の存在のケセランパサランが、何百年もの間生き残っているとは思えなかったのだ。
何かの間違いかと思って確認すると、やはり間違いないようだ。
「そんなに長命のなのか?」
「……キュウ様が特別といったところかしら」
「どういうことだ?」
ミレーラは少し悩んだ後、俊輔の質問に返答する。
特別というのはどう言うことだろうか。
その意味が分からず、俊輔はその意味を問いかけた。
「キュウ様の御子様やお孫様はそこまで長命という訳ではなく、事故や病によって亡くなっているわ。けれど、キュウ様だけは病気にもかからずっと存命でいらっしゃるの」
「本当に特別という訳か……」
魔物の寿命なんて統計がとれていない。
怪我や病気でない限り、死なないのではないかという話も上がっている。
ミレーラの話だと、ケセランパサランが何百年も生きる種類という訳ではなく、単純にそのキュウという単体が長生きしているということらしい。
そういった意味での特別なようだ。
「ロレンシオ王やあの王子の側にいたのは?」
「キュウ様の子孫よ。キュウ様自体はもうお産みになられなくなったけど、その子孫は代々王族には付けられることになっているの」
「へぇ~……」
現国王であるロレンシオと、その息子のフェルナンドの側には小さい毛玉が側にいた。
あのケセランパサランは捕まえてきたのかと思っていたが、どうやらキュウの子孫らしい。
「会ってみたいな……」
転生者である初代と、最も長く一緒にいた従魔。
もしかしたら、何か話が聞けるかもしれない。
そう思うと、俊輔は会って見たくなった。
「……キュウ様はたしかにご存命だけれども、ご高齢で、ある場所から動かないでいるわ。それに、初代様にとって王妃様に次ぐほど重要な存在だったという話よ。この国では敬う存在だから会うのはちょっと難しいかもしれないわね」
「……そりゃそうか」
この国をたった1人から作り上げたこともあり、初代は国民に敬われている。
その初代が王妃以上の時間側に置き、心の支えにした重要な存在。
言わば、俊輔にとってのネグロと同じような存在だ。
そのため、従魔とは言え敬われるのも納得できる。
この国にとって重要な存在に、いくら日向出身だからといって会えるとは思えない。
仕方がないので、俊輔はミレーラの言葉を受け入れた。
「一応ロレンシオ様に頼んでみるわ」
「あぁ、頼む」
会うにしても、王の許可が必要。
命の恩人である俊輔が望むので、ミレーラはロレンシオに聞くだけ聞いてみることにした。
期待が低いとはいえ、会えるというのなら会わせてもらいたい。
そのため、俊輔はミレーラに許可取りをお願いしたのだった。
◆◆◆◆◆
時間は遡る。
俊輔たちがエルフ王国へ向かう船に乗っている頃、魔族たちの間であることが起こっていた。
「エステ!! 貴様何をしている!?」
「怒らないでよセントレ」
エステがアジトとしている小島に、セントロと呼ばれている魔族が詰め寄っていた。
怒り心頭といった様子のセントロとは違い、エステの方は相変わらずにやけた表情をして返答する。
「僕はこれまで通り魔王復活を目指しているだけだよ」
「ならばどうしてほかの四天王を殺した!?」
セントロが魔族を派遣して、エステたち四天王とも言える者たちが東西南北に封印されている魔王を復活するのが共通目的だったはずだ。
それなのに、突然エステがおかしな行動に出るようになった。
元々何を考えているか分からない人物ではあったが、仲間にまで手を出すとは思わなかった。
俊輔たちの前でオエステを殺したエステだったが、その前にスルやノルテといった他の四天王までも殺していた。
その死体の保存庫をセントロに見られたことにより、現在の言い争いになっている。
「答えは簡単だよ。分散して復活を目指すより、1か所に集中する方が良いって考えたんだ。そのために、高い養分となる生贄を捧げるのが一番だろ?」
これまでと同じく、エステの目的は魔王復活だ。
そのためには、これまでのようにチマチマと人間や魔物をダンジョン内に送り込むのではなく、強力な養分となる生物を1か所に送り込むべきだと考えた。
「…………ま、まさか……?」
「その通り。4神の3人。これらが生贄になれば魔王様は復活が一気に近付く」
高い養分の生贄と聞き、セントロはエステが何を考えたのかを理解した。
セントロの反応を見て、エステは笑みを浮かべて正解を答えた。
「き、貴様!!」
その答えを聞いたことで、セントロの我慢は限界を迎えた。
全身から大量の魔力を放出して、エステに殺気をぶつけた。
「……おぉ! さすがセントロ。3人とは違うな……」
強力な殺気をぶつけられ、エステは冷や汗を流す。
しかし、それでも変わらず笑みを浮かべながら、セントロの魔力を評価した。
四天王よりも長い年月を生きるセントロ。
これまで一度もその実力を見たことが無かったが、初めて見たその魔力は、これまで倒した3人よりも1段上だった。
「貴様のその考えは分かった。……ならば、貴様も生贄にしてやる!!」
たしかに、この数年で魔王の封印された東・北・西ダンジョンが攻略され、復活が遠退いた。
この状況で魔王復活を目指すなら、1か所に絞って養分となる生物を送り込む必要がある。
仲間を利用するつもりはなかったが、こうなってしまっては仕方がない。
セントロは殺された仲間の仇を討つのと共に、エステを殺して養分にすることに決めた。
そのため、魔力をさらに高め、セントロは本性である悪魔の姿へと変化した。
「ハハッ! 生憎だけど……」
本性を現したセントロの人間形態の時以上の魔力に、エステも魔力を高め始める。
そして、笑みを浮かべて言葉を続けた。
「こっちは最初からあんたも生贄にするつもりだよ!」
この言葉と共に、エステとセントロの戦いが始まった。




