第291話
「どうしたの? ずっと黙っているけど」
図書館からの帰り道。
京子はずっと黙っている俊輔のことが気になった。
「いや、何でもない」
「……そう?」
京子の問いかけに対し、俊輔は首を振って否定する。
しかし、長い付き合いから、京子はその表情で俊輔が何かを考え込んでいるということが察せられる。
何を考えているのか分からないが、その反応から教えてくれないようだ。
夫婦の間で隠し事はなしなんて考えを、京子は持っていない。
いくら夫婦だからといって、元々は他人同士。
何もかも包み隠さずにいることが正しいとは思えない。
もちろん大きな隠し事は許せはしないが、小さな隠しごとは追及しないのが夫婦円満の秘訣だと俊輔の母である静江から教わっていた。
そのため、京子はそれ以上追及するのをやめることにした。
『悪いな……』
京子が自分の表情を見て察したのと同じ理由で、京子が気になっているのは反応を見れば分かる。
しかし、自分が今考えていることを伝えるのは憚られる。
エルフの初代国王が転生者なんて、言ったところで信じてもらえないだろう。
京子ならもしかしたら信じてくれるかもしれないが、そうなるとどうしてそのことに気付いたのかを聞かれることになる。
その理由をこたえるには、今度は自分も転生者であるということを説明しなければならない。
結婚する時も迷ったが、結局伝えないことにした。
前世は可もなく不可もなくと言った人生だったからか、それほど思い入れがない。
そのため、今さら話したくないし、思い出したくない。
話して信じてもらえたとして、それで何か変わる訳でもないのなら、話さなくても構わないだろう。
『それにしても5歳でたった1人か……きついな』
京子のことは置いておいて、俊輔はエルフ初代国王の歴史のことを思いだしていた。
転生してどこから記憶があるのか分からないが、内容から読み解くに、幼少期からの可能性が高い。
そう思った理由は、エルフの兵が使用する銃だ。
小さい頃から銃を使った戦闘をおこなって、無人島だったこの島を生き抜いたと言う所からだ。
エルフは幼少期から他の種族よりも魔力量がずば抜けている。
町中を行き交う子供を見てもそれが分かる。
しかし、魔力はすごいが、身体能力が低いのが難点。
5歳のエルフの少年が、生き残るために作り出した武器が銃だった。
魔力を使って弾を発射させることで、エルフの少年が身を守る術を手に入れた。
今では、エルフの兵は銃か剣を武器に魔物と戦うように訓練を重ねているという話だ。
それまで戦闘は皆無と言われていたエルフの少年が、何で急に銃なんて武器を思いつくのかと思うが、転生者だと分かると納得できるというのもだ。
『もしかしてわざとああやって書いたのか?』
エルフの初代が転生者だと分かった理由は他にもある。
歴史書の中には初代直筆の文があった。
その中には料理のレシピも書かれており、その料理名に俊輔は引っかかった。
『オムライスにハンバーグって……』
そのレシピの中に、オムライスやハンバーグなどが書かれていた。
共に和製英語で、この世界に似たような料理はあっても同じ名前の料理はない。
特にオムライスは、オムレツにライスを合わせた日本の料理だ。
それを見た瞬間から、俊輔はもしかしてと読み直した感じだ。
それらの料理が和製英語だと分かってやっていたのか、それとも気にしなかったのか分からないが、読み直すと所々で似たような箇所を見つけることになり確信したといったところだ。
「すごいな……」
図書館から宿屋に帰るまで初代のことを考え込んでいた俊輔は、宿屋の部屋に戻っても続いていた。
露天風呂に浸かると、余計にそのことを思いだしてしまい、俊輔は一人呟いた。
初代国王はたった1人から、家族を作り、仲間を増やし、国になっていく。
そんなこと転生者だからってできることではない。
俊輔も腕っぷしには多少自信を持っているが、さすがに国を作るなんて考えられないことだ。
同じ状況だったとしたら、自分は生き残れるかも分からない。
「ピッ?」
俊輔の呟きに、一緒に風呂に浸かる(浮かんでいると言った方が近い)ネグロが首を傾げる。
図書館は従魔の進入は禁止だったため、今日は宿に置いてけぼりをくらったからか、戻ってきた俊輔にベッタリと言った感じだ。
そんなネグロに、俊輔は何でもないと言うように首を横に振った。
「そう言えば……」
ネグロを見ていて、俊輔はあることが思い浮かんだ。
それは、初代国王の従魔であるケセランパセランのことだ。
魔物の寿命は分かっていないことが多い。
人間や他の種類の魔物に殺されるか、もしくは魔物特有の病にかかって死ぬかなどのことが無い限り長い時間生きるということしか分かっていない。
ネグロも、たまたま俊輔が助けたから生き残っているが、もしも俊輔が助けなかったら、生まれてすぐに他の魔物に喰われていたことだろう。
エルフの初代国王の従魔はケセランパセラン。
ネグロのような丸烏よりも弱い、別名魔物の餌と言われる魔物だ。
現国王のロレンシオや、俊輔に負けたフェルナンドも、一匹のケセランパセランを側に置いていたところを見ると従魔にしているのだろうか。
「流石に死んでいるか?」
初代国王が死んでから何百年もの時間が経過している。
いくら何でも生きているとは考えにくいため、俊輔はもう死んでいるのだろうと結論付けた。
「転生した理由も書いてなかったな……」
初代国王が転生者だと気付いて、俊輔はあることが気になっていたことがある。
この異世界にどうして転生したのかということだ。
ラノベだと死んですぐに神様や女神様に会うことが多いのだが、俊輔は転生する時に会った覚えはない。
「何か理由でもあれば良かったんだけど……」
日本で死んでこの世界に転生してもらえたのは嬉しいが、どうしてこうなったのかはいまだにわからない。
転生してもらえたことへのお礼として何かできることがあればしたいところだが、お告げのようなものもないのでどうしようもない。
「もしかして、ダンジョンの攻略をさせるためか?」
これまで自分は、魔王が封じられているというダンジョンの攻略をして来た。
転移なんて魔法がなければ、どこも攻略なんてかなり難しいダンジョンだった。
その転移の魔法も、前世の記憶から作り出したような魔法だ。
そう考えると、もしかしたら自分が転生した理由はそれだったのではないかと思えてきた。
「……まっ、これまで通りで良いか」
本当にそうだとしたら、その通りにダンジョンを攻略してきた。
しかし、結局の所確認しようのないことだ。
そのため、分からないというのならこれまで通りに生きていくしかないと、俊輔は考えることにしたのだった。




