第290話
「ここよ」
「へぇ~、結構大きいな」
ミレーラの案内され、俊輔たちはエルフの王国にある図書館へと足を運んだ。
他の建物よりも大きめで、結構力を入れているように見える。
「どんな資料が集められているんだ?」
「私はそんなに来たことないから詳しくは分からないけど、世界各地の文化や魔法、あとはこの国の研究資料なんかがあるんじゃないかしら?」
「多種多様だな……」
どんな資料が保管されているのか気になり俊輔が問いかけると、ミレーラは少し悩みつつ返答した。
人族や魔人族、獣人にドワーフ族といった、それぞれの種族のことを記した書物もあれば、同じ種族でも地域によっての違いなど、色々と取りそろえるようにしているそうだ。
「ミレーラさんはあまり来たことないの?」
「学校の勉強のために利用したことがあるだけね。何だか、本に囲まれているのが落ち着かない気がして……」
「フ~ン……」
これだけ立派な図書館があるというのに、どうしてあまり利用しなかったのか疑問に思った京子が問いかけ、ミレーラは返答する。
その返答で、京子はなんとなく納得した。
というのも、自分も似たような感覚を持っていたからだ。
戦姫隊に入った時、篤に色々と書物を読んで勉強するように言われたが、それを放置して剣の練習をしていたことが多かった。
要するに、頭を鍛えるより、体を動かすのが好きなタイプなのだろう。
「ん? 日向の分野もあるのか」
図書館内を案内されていると、俊輔は棚の一か所に目が留まった。
そこには、俊輔たちの出身国である日向の書物が並べられていたのだ。
「初代王妃様の関係上、日向の資料はなるべく手に入れるようにしているそうよ」
エルフ王国を創った初代国王は、島に流れ着いた日向の女性と恋に落ちて結婚したという話だ。
普通の人族である王妃は、当然国王よりも先に亡くなった。
しかし、その後も国王は妻を迎えることはなかったという話だ。
それだけ王妃を愛して忘れられなかったからだ。
その話が受け継がれていくうちに、エルフ国民が日向という国に興味を持つようになったそうだ。
そのため、日向に関する資料が見つかると、手に入れるようになったそうだ。
「そう言えば、初代様は何度かお忍びで日向にも行ったことがあるらしいわよ」
「えっ? じゃあ、俺らの祖先と会った事があったかもしれないのか」
「そうかもしれないわね」
エルフの王が日向に来たという話は聞いたことはない。
しかし、特徴である耳さえ隠せば、ただの人族に見えなくもない。
お忍びということは、誰にも知られることが無かったのかもしれない。
知られていたとしても秘匿されていただろうし、平民にまでその話が広まらなかったのかもしれない。
「そう言えば、エルフの歴史書のレプリカがあるって聞いたけど?」
「えぇ、初代様の日記のようなものも書かれている書物よ」
現国王のロレンシオと面会した時、エルフの歴史書のようなものがあるということを聞いていた。
今日ここに来たのは、その歴史書を見てみたいと思ったからだ。
たった1人から国を作り上げたエルフの物語なんて、面白そうだと思ったからだ。
原本は宝物庫にしまわれているそうだが、レプリカを見る許可を得ている。
そのため、俊輔はその歴史書を見せてもらうことにした。
「すいません。歴史書のレプリカをお願いします」
「はい」
レミーラは、その歴史を出してもらおうと司書の女性にお願いする。
それを受けた司書の女性は、奥の部屋へと向かって行った。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
奥の部屋へと向かった司書の女性は、一冊の本を俊輔たちの所へ持って来た。
司書の女性に感謝し、俊輔たちはその歴史書を読むことにした。
「酷いな……」
最初の方に書かれていた内容は、かなり重いものだった。
エルフが絶滅しかけた理由などが書かれていた。
元は人族大陸に住んでいたエルフ族。
平和を愛し、争いを好まない人種だったそうだ。
しかし、欲深い人族たちはそれに付け込んだ。
エルフの集落に攻め込み、多くの者を奴隷として扱うようになった。
奴隷とされた者たちは、散々好き勝手にもてあそばれたあと、ゴミように捨てられたという内容が事細かに書き記されていた。
エルフの集落からは離れていて関わりなかったとはいえ、同じ人族の日向人としては申し訳ない気持ちになる内容だ。
「……すごいな」
次に俊輔が感心したのは、初代国王のことだ。
人族の手から逃れ、最後のエルフとなった5歳の少年が無人島にたどり着き、そこで成長して国を作り上げていった。
たった5歳の少年が無人島で1人生き抜いたこともすごいが、そこから国を作り上げるところまで行くのがすごいことだ。
国ができても人族に攻め込まれるなど、そこからも苦労が絶えなかったようだ。
色々と困難を乗り越え、今のエルフ王国の礎を築き上げた初代が、現在も国民に尊敬されている理由が分かった気がする。
関係ない俊輔からしても、すごい人物だと感心しっぱなしだ。
「……本当にすごい人だ」
「そうでしょ?」
歴史書を一通り読み終えた俊輔は、再度感心するように呟く。
自分の国で尊敬される国王が、他の国の者に褒められることが嬉しいのか、ミレーラは自慢するようにドヤ顔をした。
「私はやっぱり王妃様との話かな……。落ち込んで、いつの間にか日向に行っちゃうなんて、相当忘れられなかったんだろうな」
京子としては、やはり王と王妃の話の方が好みだったようだ。
種族を越えた愛というのが、ロマンチックだと感じたようだ。
お忍びで日向に行ったという話だが、王妃が亡くなったことを受け入れるために、王妃の故郷を見に向かったという話だ。
息子である2代目国王に国を任せて1人でいなくなってしまったというのは、さすがにぶっ飛んだ行動力だ。
「確信した……」
「んっ? 何をだ?」
「いや、独り言だ」
「……そうか?」
歴史書を司書に帰し、宿へ帰ることにした俊輔たち。
その帰り道、俊輔は小さく呟く。
その呟きに気付いたカルメラが問いかけるが、俊輔は誤魔化すように返答した。
そのため、カルメラはそれ以上聞くことはできなかった。
『……エルフ王国、初代国王は……』
歴史書を見て俊輔が確信したことは、エルフ王国初代国王に関することだ。
それは、
『転生者だ』
ということだった。




