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第289話

「それまで!」


「「「「「ワァーーー!!」」」」」


 フェルナンドが倒れた所で、王であるロレンシオが声を上げる。

 その言葉を聞いて、戦いに見入っていた観客たちから大きな歓声が上がった。


「手間を取らせて悪かったな」


「いえ、王子相手に申し訳ありませんでした」


 王太子であるフェルナンドの天狗になった鼻を折ってくれということで受け入れた試合だったが、いつの間にか違うことが目的となってしまった。

 そのせいで余計に力が入ってしまい、少々強めの攻撃をフェルナンドに入れてしまった。

 手応えからいって、恐らくフェルナンドの肋骨は何本か折れているだろう。

 性格に少し難があっても王太子。

 骨折程度なら回復魔法でどうにかなるとはいえ、もう少し手加減して勝つことができたかもしれない。

 そのため、俊輔はロレンシオに対してやり過ぎたことを謝罪した。


「あいつには丁度いい薬だ。気にする必要はない」


「そうですか……」


 少しやり過ぎたと思ったのだが、ロレンシオが気にしていないようなので安心した。

 伸びていた鼻が折れたのかは分からないが、とりあえず京子に近付かなくさせることができたのだから俊輔としても一安心だ。


「あいつが約束を破るとは思わないが、お主の奥方に近寄ってくるようならまた打ちのめしても構わん。他の者にもそう言っておく」


「……王太子なのに宜しいのですか?」


「あぁ」


 試合前にフェルナンドは京子に言い寄っており、そのことで俊輔と賭けをおこなっていた。

 目の前でおこなわれていたのだから、当然ロレンシオも知っている。

 俊輔が勝った以上、フェルナンドがその約束を反故にするとは思えないが、もしも約束を違えて京子に近付くようなら好きにするように、ロレンシオはお墨付きを与えた。

 俊輔からすると頭のおかしな奴という印象だが、フェルナンドは王太子だ。

 父であるロレンシオがそんなことを言ってくるとは思わず、俊輔が確認する意味で問いかけると、ロレンシオは頷きを返した。


「これであいつの悪癖も治まるはずだ……」


「……悪癖?」


「なに、こっちの話だ」


「はぁ……?」


 俊輔の問いに頷いた後、はどことなく安心したように呟いた。

 聞き取りにくいロレンシオの呟きに俊輔が反応するが、はぐらかすように返答してきた。

 なんとなく追求しにくい雰囲気に、俊輔はそれ以上突っ込むことができなかった。


「それでは王城で……と言いたいところだが、フェルナンドがいては気が休まらんだろ。宿屋を手配するから、そこで体を休めてくれ」


「ありがとうございます」


 昨日は王室内に泊まることができたが、フェルナンドがいるとなると気が休まらない。

 約束を守るか完全には信用できないからだ。

 そのことを察してくれたのか、ロレンシオは宿屋を手配してくれたようだ。

 それを受け、俊輔は感謝してその宿屋へと向かうことにした。






「おぉ、広い! しかも露店風呂付だ!」


 ロレンシオに予約を入れてもらった宿屋に向かい、部屋に案内された俊輔はテンションが上がっていた。

 その宿と言うのが、かなり大きく、部屋もかなりの広さ。

 従魔のネグロやアスルも入れて、しかも専用の露店風呂付きというのだからテンションも上がるのも仕方ない。


「早速入るか?」


「ピ~♪」


「…………【入るっす】♪」


 露天風呂にテンションが上がった俊輔は、早速ネグロたちと共に露天風呂に入ることにした。

 主人の影響か、ネグロやアスルもお風呂が好きだ。

 俊輔に誘われて、2匹は嬉しそうに返事をした。


「あぁ~……」


「ピ~……」


「…………」


 体を洗って露天風呂に入ると、俊輔と2匹の従魔は気持ちよさそうに声を漏らした。

 アスルなんて念話を使うのを忘れてしまっているくらいだ。


「俊ちゃん! いいお湯だね?」


「おぉ! そっちも入っているのか?」


「まあね」


 俊輔たちの声で気付いたのか、壁の向こうから京子の声が聞こえてきた。 

 隣は京子とカルメラが泊っている部屋で、壁の向こうはこちらと同じ露天風呂になっているようだ。


「今日はありがとうね」


「……何が?」


「最後の言葉嬉しかったよ」


「……あぁ、そいつはどうも……」


 京子から壁越しに感謝の言葉をかけられるが、俊輔からすると何のことだか分からない。

 しかし、次の言葉で理解した。

 フェルナンドを倒した時に言った、「京子は俺のカミさんだ! 王子だろうと絶対渡さん!」という言葉のことだ。

 あの時は頭に血が上っていたので思ったままに言ってしまったが、今考えると何だか恥ずかしく思えてきた。


「ピ~……?」


「……大丈夫だ」


 俊輔が恥ずかしさから顔が赤くなっていると、従魔のネグロが首を傾げてきた。

 のぼせたのかと心配になったようだ。

 その心配を否定するように、俊輔はネグロを撫でる。


「それにしてもいい宿だな……」


「そうだね。なんでも、この宿は初代エルフ王のアドバイスを受けて作られた老舗の宿だって話だよ。日向の感じも入っている所を見ると、よっぽど王妃様のことを愛していたんだね」


「……そうかもな」


 日向から大陸を渡り、遠く離れたこのエルフの島へと流れ着いた日向人。

 それがエルフ王国初代国王の王妃だ。

 エルフは長命なため、当然のように王妃は先に亡くなった。

 その後、初代国王は他に后を迎えることはなかったという話だ。

 短い期間といっても、王妃と過ごした日々が濃密だったのかもしれない。

 この国が一夫一妻を好む傾向にあるのは、初代国王と王妃の関係から来るもののようだ。

 この宿も、王妃との思い出を忘れないために日向のテイストが入っているのだと感じられる。


「そう言えば、日記のレプリカを見せてもらえるって話だったな」


「明日にでも見に行こうか?」


「そうだな」


 壁越しに話しているうちに、初代の歴史のことが気になってきた。

 たった1人からの建国記なんて、何だか面白そうだ。

 その日記のレプリカが、図書館で見られるとロレンシオから聞いていた。

 そのため、俊輔たちは、明日はそれを見に行くことにした。


「「ハァ~……」」


「ハハッ!」「フフッ!」


 話が一旦途切れると、露天風呂の気持ち良さから声が漏れた。

 その声が隣の京子と被り、2人は思わず笑ってしまった。

 昼間にフェルナンドと戦闘したのが嘘だったかのように、俊輔たちはのんびりした時間を過ごしたのだった。



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