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第284話

「魔族の監視は我が国の兵に任せるが良い」


「お願いします」


 元々、あのダンジョンがあることから、エルフの国では魔族の出現には注意していた。

 しかしながら、これまで以上に警戒することを国王であるロレンシオは約束してくれた。

 エステが現れた時のため、俊輔たちが警戒するという手はあるが、それを四六時中というわけにはいかない。

 ならば、この国の監視に任せ、自分たちはエステが現れた時に備えて体調を整えておこうと、俊輔はロレンシオの申し出を受け入れた。


「もしも魔族が現れた時、すぐに知らせが届くようそれを持っていてくれ」


「……これは?」


 監視の件はあらかじめ分かっていたからか、ロレンシオは部下に合図を送り俊輔へある者を渡す。

 手のひらサイズのカードのような物で、小さい電球のようなものが付いている。

 何かの魔道具のようだが、それを受け取った俊輔はどういう物か分からず首を傾げた。


「これと対になる魔道具で、こちらのボタンを押せばそちらの魔道具が点灯するようになっている」


「なるほど」


 俊輔に対し、ロレンシオはすぐ近くにいる宰相らしき人間の手を指さす。

 その宰相らしき者が上げた手には、俊輔が渡されたのと同じくらいの大きさをしたものにボタンが付いた物が持たれていた。

 そして、確認のために宰相らしき者が持っているボタンを押すと、俊輔の持っている魔道具の電球が点灯した。

 これが魔族出現の合図になることを確認した俊輔は、ロレンシオの説明に納得した。 


「それを持っていれば、もしもの時には分かるだろう? いつ来るかもしれない敵に気を張っていては万全の状態でおられまい。多少町中を見て回るくらいはできるはずだ」


「ありがとうございます」


 エステがいつ現れるか分からないが、常に気を張っている訳にもいかない。

 それを見越して、ロレンシオは用意してくれたようだ。

 俊輔たちからしても、せっかく来たエルフの町を見て回りたいという気持ちがあった。

 なので、俊輔はこの心遣いに感謝した。


「それで、そのエステという魔族が現れた時の対処はどうするつもりだ?」


「……エステは俺に任せて欲しいと思っています。奴の呼び出す魔物の相手を、他のみんなで対処する形でお願いしたいと思います」


「分かった。そのように兵たちに指示しておこう」


 魔族が現れるまでの監視は引き受けるとして、ロレンシオは魔族が現れた時の対処をあらかじめ決めておくことにした。

 その問いに対し、俊輔は少し考えてから返答した。

 俊輔からすると、エステは因縁ある相手だ。

 何としても自分の手で仕留めたい。

 そのため、エステの相手を請け負うことを申し出た。

 何やら決意のこもった目をしていることから、ロレンシオはその申し出を受けることにした。


「しかし、お主1人で大丈夫か?」


「何とかしてみせます!」


「うむっ、心強い返事だ」


 エステという魔族は、魔族の中でもかなりの強力な存在だという話だ。

 そんな存在を1人で相手にして、俊輔が倒すことができるのかロレンシオは不安になる。

 しかし、俊輔は自信ありげに返事をする。

 ドワーフ王国に攻めてきたオエステも、ほとんど俊輔が倒したも同然だ。

 エステがオエステよりも強いとしても、桁外れの強さをしているように見えなかった。

 それに、これまで3つの危険ダンジョンを攻略してきたことも自信になっている。

 その俊輔の返事に、ロレンシオは笑みを浮かべた。


「エステもそうですが、もう1つ問題が……」


「問題とは?」


 エステの相手に関しては自分が何とかするつもりだが、俊輔にはもう1つ気がかりな部分があった。


「エステの奴は、水竜にワイバーンを操っていました。もしかしたらそういった魔物を使役する力の魔族なのかもしれません。そのことを参加する兵の方たちにお伝えください」


「竜種……、最悪の想定をしておくべきか」


 魔族は魔物を使役する存在だ。

 そして、魔族の本性に近い系統の魔物を使役することが分かっている。

 それを考えると、エステの使役していたのは竜種。

 主人のエステよりも強いとは思えないが、それでも魔物の中でも最強である竜種を相手にするのはかなり危険だ。

 そのことを知った上で、エルフの兵たちには戦闘に参加してもらうことを求めた。

 戦う相手が竜種ということで、ロレンシオは一旦固まる。

 しかし、すぐに俊輔の言いたいことを理解し納得の言葉を呟いた。


「我が国の実力者を用意しよう。ただ……」


「……? 何か問題でも?」


 魔王の復活は、この国だけでなく世界のためにも絶対に止めなければならない。

 あらかじめ情報が手に入れられるのと、俊輔たちの協力を得られるのはありがたいことだ。

 エルフの全戦力をもって止めなければならないのだが、ロレンシオは何か迷うような素振りを見せた。

 その反応に、俊輔は何かあるのか不思議に思った。


「我が国最強の者がいるのだが、その者が少々問題があってな……」


「はぁ……?」


 ロレンシオの言葉に、俊輔は曖昧に返事をするしかなかった。


「私の息子なのだが……」


「陛下の御子となると、王太子殿下ですか?」


「あぁ……」


 この国の王であるロレンシオの息子となれば、王子ということだ。

 それがこの国の最強の戦力というのなら、王としても父としても自慢のはず。

 それなのにどことなく言いにくそうにしているため、俊輔の側に立つミレーラが思わず問いかけた。

 彼女もエルフの人間だが、帰ってきたのは数十年ぶりだ。

 ロレンシオが結婚したのも、子供がいることも知らなかった。

 自国の王に跡継ぎがいるなんてめでたいことだ。

 ミレーラは嬉しく思ったのだが、ロレンシオの変な反応で首を傾げるしかなかった。


「初代様の再来とまで言われた神童だったのだが、自分と対等に戦えるものがいなくなってからはフラフラ出歩いてばかりでな……」


「それは何とも……」


 つまりは、天狗になって怠けるようになっているということだろう。

 俊輔は精神年齢的には大人だったため、天狗になるようなことはなかったが、その王子の場合、立場が恵まれているがゆえにある程度意見が通ってしまうため、そうなってしまったのかもしれない。

 しかし、それを言われたからと言って、俊輔にはどうしようもないので苦笑するしかなかった。


「すまんが、息子のフェルナンドの鼻を折ってくれると助かるのだが……」


「えっ? それはどういう……」


「軽く手合わせをしてくれないか?」


「えっ? いや……」


 どんな人間なのかは分からないが、鼻を折ってくれって言われても相手は王子だ。

 エステがいつ来るかも分からないのに、余計な体力を使っている場合ではない。

 その頼みを断ろうとしたのだが、頼んで来たのはこの国の王だ。

 そう簡単に断っては申し訳ないので、俊輔は仲間のミレーラに王をなだめる援護を頼もうとした。


「……よく分からないが、私からも頼む」


「…………了解しました」


 援護を頼もうとしたのだが、逆にミレーラからも頼まれることになってしまった。

 ミレーラからすれば王がこんな頼みをしているのだから、結構な面倒になっているのだろう。

 それを解消できるなら、自分としても頼みたいと思ったようだ。

 これでは断る訳にもいかないため、俊輔は内心嫌々ながらも、ロレンシオの頼みを受けるしかなかった。


『獣人国でもそうだったが、ここでもそうか……』


 エルフの王国とは言っても、獣人の血も受け継がれている。

 それが原因なのかは分からないが、結局また試合をおこなわなくてはならなくなってしまった。

 面倒なことになったことを、愚痴りたくなる俊輔だった。



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