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第279話

「慣れた……だと?」


「あぁ」


 俊輔の呟きに、ビクトリノが反応する。

 その表情は試合開始から何だか楽しそうだ。


「では、本当かどうか試させてもらおう」


 俊輔の言葉に反応したビクトリノは、武器である棒を構える。

 そして、発達した下腿三頭筋に力を込める。


「ハッ!!」


『速度が上がった!?』


 獣人特有なのか、ビクトリノは爆発的な速度で俊輔へと迫る。

 これまでよりも更に加速したような移動速度だ。

 身体能力だけでこれほどの速度が出せるなんて、驚きの一言だ。


「フンッ!!」


「っと!!」


 俊輔に接近したビクトリノは、振り上げた棒を振り下ろす。

 脳天に振り下ろされた棒を、俊輔は体を横にずらしてギリギリのところで回避する。


「ハッ!!」


「わっ!!」


 振り下ろした棒を途中で引いて、そのまま横に薙いでくる。

 その攻撃を俊輔はしゃがみ込むことによって躱す。


「オラッ!!」


「っぶね!!」


 横薙ぎの攻撃の勢いを利用して旋回し、しゃがんだ状態でいる俊輔のこめかみ目掛け、ビクトリノは後ろ回し蹴りを放つ。

 その攻撃を、俊輔はバックステップすることで回避する。


「躱してばかりでは勝てないぞ?」


「分かっているさ」


 バックステップして距離を取ることを阻止するように、ビクトリノが追いかけつつ話しかける。

 その言葉に対し、俊輔は笑みを浮かべながら返答する。


「フンッ!」


「フッ!」


 俊輔へ向けて連続で突きを繰り出す。

 その攻撃を、俊輔は息を吐きつつ木剣で防ぐ。


「ハッ!!」


「くっ!!」


 連続突きが防がれてビクトリノの体が流れた所を、俊輔の木剣が襲い掛かる。

 モーションは小さいが、木剣に込められている魔力から当たると痛手を受けると察したビクトリノは、転がるようにして必死にその攻撃を避け、立ち上がると俊輔から距離を取った。


「魔闘術なしでその速度はすごいな」


「それはどうも」


 身体能力だけでの戦闘なら、俊輔はビクトリノには勝てないだろう。

 しかし、幼少期から使い続けている魔闘術をもってすれば、その差は引っくり返せる。

 魔闘術なしでこの強さは驚きはしたが、これなら問題なく勝てそうだ。

 それにしても、獣人の身体能力の高さには驚かされた。

 俊輔がお世辞抜きにそのことを称賛すると、ビクトリノは律儀に返答してきた。


「どうやら勝てると思っているようだが、まだ早いぞ」


「へ~、何かまだあるんだ?」


「あぁ、全力で行く」


「そいつは楽しみだ」


 先程までの動きで、俊輔にはまだ余裕があることが感じ取れる。

 そのために戦闘中でもありながら称賛するようなことを言ってきたのだろう。

 しかし、ビクトリノには奥の手があるらしく、どうやらそれが見られるようだ。

 これ以上何があるのか若干楽しみな俊輔は、木剣を構えつつビクトリノの出方を窺うことにした。


「……ハーッ!!」


「っ!?」


 気合いの言葉と共にビクトリノが動き出す。

 先ほど言っていたことは本当だったらしく、これまでよりさらに加速した移動速度だ。


「速度が上がった!?」


「まだ全力じゃなかったのか!?」


 更なる加速に驚いたのは俊輔だけではなかった。

 選手入場口から観戦している京子とカルメラも、驚きの声をあげていた。


「いや、あれは……魔闘術!?」


「えっ!?」「何っ!?」


 ビクトリノの移動速度を見たミレーラが、驚きつつもその原因に気付いた。

 魔力に愛された種族ともいえるエルフだからすぐに気付いたのだろう。

 ミレーラにいわれ、京子とカルメラもすぐにビクトリノが魔闘術を使っていることに気付いたのだった。


「くっ!! わっ!!」


 魔闘術を使ったビクトリノは、とんでもない速度で攻撃を繰り出してくる。

 俊輔は、その攻撃を木剣を使って必死に防御と回避に専念する。


「ハッ!!」


「ぐっ!!」


 必死に防御と回避をしていた俊輔の鳩尾目掛けて、ビクトリアは突きを繰り出す。

 その攻撃を木剣で防ぐが、ビクトリノの魔闘術で上がっていたのは速度だけでなく威力もだった。

 木剣で受け止めたのにもかかわらず、俊輔は数m飛ばされた。


「イテテテ……どういうことだ? 獣人は魔闘術を使わないのではないのか?」


 これまで以上の速度と威力により、木剣を持っていた右手が痺れる程だった。

 防御したのに飛ばされた俊輔は、軽く右手を振りつつビクトリノに問いかける。


「確かに獣人は魔力が少ない。しかし、少ないだけで無い訳ではない」


「……なるほど。それもそうか」


 俊輔の問いに対し、ビクトリノは返答する。

 それを聞いた俊輔は、納得の声をあげた。

 たしかに少ないと無いでは意味が違ってくる。

 少しでもあれば、それを使った魔闘術が使えるのも当然というものだ。


「元々身体能力が高いのだから、少しの魔力の魔闘術で充分って事か……」


「そうだ」


 魔闘術といっても、ビクトリノが使っているのは少量の魔力による少しだけの身体強化しているに過ぎない。

 同じ魔力量で身体強化したとしても、俊輔ならたいした変化はないだろう。

 しかし、身体能力の高いビクトリノの場合、その少しの魔力量でもかなりの変化が起きたのだろう。


「けど、魔力が少ない分使える時間も少ないだろ」


「確かにそうだが、魔力切れを起こすまでに勝負を決めればいいだけだ」


「なるほど」


 獣人の魔闘術なんて想像していなかった。

 たしかにすごいが、すぐに弱点が思い浮かぶ。

 魔力が少ないのだから、長時間使っていることができないということだ。

 それを指摘した俊輔に、ビクトリノは短期決着に持ち込むつもりのようだ。

 ビクトリノの攻撃を躱し続けて時間稼ぎをすれば勝てるだろうが、それで勝ったとしても自慢できない。


「じゃあ、俺も本気を出そう」


「……そいつは楽しみだ」


 このままでは苦戦する。

 そう考えた俊輔は、真剣な顔をしてビクトリノに武器構えた。

 これまでの雰囲気から代わった俊輔に、ビクトリノは真面目な顔をして答えを返す。


「ハッ!!」


「っ!? 消え……」


 これまで以上の魔力を纏い、今度は俊輔から動き出す。

 その見失う程の速度に、ビクトリノは驚きの声を上げた。


「……!!」


「クッ!!」


 ビクトリノの死角から刺客へと動き回り、俊輔は真横から攻めかかる。

 その攻撃に対し、ビクトリノは野性の勘とも言うべき反応を示す。

 上段から振り下ろされる俊輔の木剣に、武器の棒を使ってカウンターを合わせようとした。


「っ!?」


 微かに見えた俊輔に合わせた攻撃だったが、ビクトリノのカウンターは空を切る。

 その攻撃が当たる瞬間に、俊輔がまたも消えたように移動したのだ。


「シッ!!」


「っ!!」


 いなくなった俊輔を探そうとしたビクトリノだったが、それをする前に俊輔は背後へと回っていた。

 それに気付いて振り向いたビクトリノに対し、俊輔は木剣を突きだす。


「……参った」


 振りむいてビクトリノが攻撃を出す前に、俊輔の木剣が首元で止められた。

 それを見て、ビクトリノは自分の敗北を認めたのだった。



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