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第278話

「また随分集めたな……」


「本当だね……」


 興味本位から受け入れたビクトリノという牛人族の兵士との試合。

 対決する会場の大きさを見た時から予想できていたが、多くの兵たちが観客席を埋めていた。

 まさに満員とも言うべき客席を選手入場口から見た俊輔は、若干呆れるように呟く。

 その呟きに、京子も同意する。


「ここまで集まったのも、俊輔が日向人というのもあるかもね?」


「日向人だから?」


 ミレーラの言葉に、京子は首を傾げる。

 日向人だとどうして人が集まるのだろうか。


「人族側の日向軍と獣人軍は戦った過去がある。その時、獣人軍は数的には劣勢の日向軍と互角の戦い余儀なくされた。その時の印象から、獣人族は人族でも日向人は別だと考えるようになっているんだ」


「……それって大昔の話だよね?」


 どれほど前の出来事かは分からないが、獣人族と人族が戦ったことがあった。

 その時、日向は人族側の軍に参戦し、獣人族の軍勢と戦うことになった。

 戦力としては獣人族の方が上だったため人族軍は押され始めたが、それを押し返したのが参戦していた日向の者ただったという話だ。

 しかし、京子の言うようにそれはかなり昔の話。

 この世界において真裏に位置する日向とは、それ以来巡り合うようなことは無かったはず。

 それなのに、いまだに日向のことを強い民族だと認めているとは信じがたかった。


「そうだけど、距離的に交わることが無いからこそ、日向人は強いというイメージはいつまでも残っているそうよ」


「へぇ~」


 強い者は評価される傾向の強い獣人だからなのか、日向人を自分たちと同等の戦力を有する民族だとして、ずっと言い伝えらてきたようだ。

 言い伝えられてきたが、長い年月が経っているため本当の所は分からない。

 もしかしたら、モデスト王はそれを確認したかったのかもしれない。

 そのために、試合をするように言ってきたのかもしれない。


「獣人の強さってどんなもんなんだ?」


「……それは自分で確かめれば?」


「それもそうか……」


 これから戦わなくてはならない俊輔は、ミレーラなら獣人の戦闘の特徴をしているだろうと問いかける。

 聞かれたミレーラは、一瞬そのまま返答しようとしてやめた。

 それを俊輔へ教えてしまうのは、何となく不公平に思えたからだ。

 それに、俊輔がビクトリノを相手にどのように戦うのかを見てみたいという好奇心も少しはある。

 ミレーラの考えが表情で読み取れたのか、俊輔もそれ以上聞かないことにした。

 獣人の戦闘なんて戦えばすぐに分かることだ。

 先に知って戦うよりも、知ってどう対応するかを楽しむことにした。


【これより我らがヴァーリャ王国の戦士ビクトリノと、日向人である俊輔の試合を始める!!】


「「「「「オオォォーー!!」」」」」


 魔道具が使われているのだろう。

 会場全体に放送され、客席からは地響きのような声が響き渡った。


「……アナウンサーまで用意してるよ」


 入場した試合場に登場した俊輔は、さっきの放送をした人間を見て呟く。

 この世界にアナウンサーなんて職業があるか知らないが、それに似たことをする人間はいるようだ。


「ではこれにより試合を開始します。お互い相手を死に至らしめるような行為だけはしないようにお願いします」


「了解です」「おう!」


 俊輔とビクトリノを一旦中央に集め、審判役の人間が簡単に注意事項を説明してくる。

 使う武器は、俊輔は木剣、ビクトリノは木製の棒を手にしている。

 いつも使っている木刀でも良いと言われたが、あれは錬金術によって強力に強化してある。

 普通の金属よりも硬くできている武器で戦うのは、訓練用の武器を使うというビクトリノに失礼と思い、俊輔も訓練用の木剣を借りることにしたのだ。

 俊輔ならどんな武器でも魔闘術を調整すれば刃と同じように使えるが、当然殺傷するつもりはないため、審判の言葉に頷きを返す。

 ビクトリノも俊輔と同様に短い返事をした。


「それでは……始め!!」


 注意事項の説明が済むと、審判は両者に一定の距離を取るように指示を出す。

 それを受けて、2人は相手を背にして距離を取った。

 ある程度離れた所で向かい合い武器を構えると、審判は試合開始の合図を送った。


「ハッ!!」


「っ!?」


 開始と同時に動いたのはビクトリノ。

 筋肉に覆われた巨体が、一気に近付いてきた。

 その動きに、俊輔は虚を突かれた。


「速い!!」


 ビクトリノの動きに、京子やミレーラと共に選手入場口から試合を眺めているカルメラが驚きの声を上げる。

 巨体に似合わない高速移動だったからだ。


「っていうか、魔闘術は?」


 俊輔の従魔である丸烏のネグロを手に抱いたまま、京子もカルメラと同じ理由でビクトリノの動きに驚く。

 しかし、すぐ次にビクトリノが魔闘術を使っていないことに気付いた。


「獣人族は他の種族と違って魔力が少ない。だから魔闘術を使わないし、使わなくても強いのよ」


「魔闘術を使わないで?」


「どういうこと?」


 魔闘術を使わないで強いなんて信じられない。

 そのためか京子とカルメラは、順にミレーラへと問いかけた。


「身体能力がとんでもないのよ」


 その問いに対し、ミレーラは端的に答えを返したのだった。






『なるほど、魔闘術を使わずに同等に近い戦いができるって事か……』


 戦っている俊輔は、子供の頃に見た本のことを思いだしていた。

 獣人は多種族よりも魔力が少なく、使いこなせる人間が少ない。

 そのため、日向人のように魔闘術を使うことはない。

 その代わり、獣人は身体能力が他の種族とは比べ物にならないほどに高い。

 魔物を倒した時、人間は全体的な能力が僅かに成長する。

 それまで仮説として何度か上がってきた説だったが、それは獣人が証明された。

 何故なら、その成長が僅かとはいえ、目に見えるほどに成長するのが獣人族だからだ。

 魔力の代わりに身体能力が成長するのが獣人族。

 どれも均等に成長するのが人族。

 魔力以外は人族同様成長するのが魔人族。

 獣人ほどではないが、身体能力が成長するのがドワーフ族。

 身体能力の成長は低いが、その分魔力の成長が著しいのがエルフ族という分類だった。


『身体能力だけにしてはとんでもなく速いが……』


 虚を突かれたのは、魔闘術を発動することなく襲い掛かってきたからだ。

 魔闘術は慣れればすぐに発動できるが、コンマ何秒かはかかる。

 そのほんの僅かな時間を突かれた。

 しかし、俊輔ほどに慣れていると、ビクトリノの攻撃をする前にはもう魔闘術を発動できている。

 少し慌てはしたが、ビクトリノの棒術による攻撃を受けるようなことはしない。

 どれもギリギリのところで躱し続け、バックステップをして一旦距離を取った。


「そろそろ慣れた」


 たしかに魔闘術なしでもビクトリノの動きは速い。

 しかし、攻撃を躱しているうちにどれほどの速さかは大体把握できたため、距離を取った俊輔は一息つき、小さく呟いたのだった。



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