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第276話

「そうか。もう旅立たれるか……」


「はい」


 オエステ率いる魔族の集団を倒した俊輔たちは、数日の休息をした後、許可を得てフィデルと謁見した。

 謁見の内容は、旅立つことへの挨拶をするためだ。

 国を救ってくれた英雄ともいえる俊輔たちがいなくなってしまうことに、フィデルは心底残念そうに呟いた。


「仕方がないか……魔王など復活されてはかなわんからな」


 出来ればこの国にいてもらい、再度復活したダンジョンの攻略をしてもらいたいところだ。

 しかしながら、他のダンジョンを使ってエステという魔族の幹部が魔王の復活を企んでいるということを聞けば、俊輔たちを止める訳にもいかない。

 魔王が封印されたダンジョンを攻略できる人間なんて、フィデルには思い至らないからだ。

 封印されている魔王が復活すれば、例え離れていると言ってもこの国にまで被害が及ぶようなことになるかもしれない。

 それに、エルフ王国はこのドワーフ王国と同盟国に当たるため、何もしない訳にもいかない。

 そのため、フィデルは渋々と言ったように俊輔たちの出立を受け入れたのだった。


「魔王復活阻止のためにエルフ王国へ向かうのですが、獣人王国の港から海路を進むのが一番近いという話でした」


「うむ。一番近いとなるとカンタルボス王国になるな」


 エルフ王国は、人族大陸と獣人大陸の間に存在していて、一番近いのがカンタルボスという王国だという話だ。

 俊輔たちはそのカンタルボス王国へと向かって、そこからエルフ王国へと船で向かうことにしたのだが、そうなると1つ問題が出てきた。


「カンタルボス王国並びにエルフ王国、そこまでに通行する国の入国・通行の許可を得たるためのご協力をお願いしたいのです」


 俊輔たちは人族だ。

 他の種族と人族の間には隔意がある。

 これは、人族側の先人たちがこれまでのおこなってきたことによるもののため、仕方がないとしか言いようがない。

 これをすぐさま改めるような国は、はっきり言っていないだろう。

 それだけ長い間、人族は多種族へ迷惑をかけてきたのだから。

 しかし、今回の場合、魔王が復活すれば人族どころか他の種族にとっても被害が及ぶことになりかねない。

 人族全てを許すように言うつもりはないが、せめて自分たちが通行するための入国と通行の許可を出してもらいたい。

 そのためには、人族以外の種族と関係のあるドワーフ王のフィデルに頼むしかないため、俊輔たちはフィデルに頭を下げることにした。


「おぉ、それなら大丈夫だ。実は君たちの出発はもう少し後だと思っていたが、もしもの時のために連絡を入れておいた」


「えっ? 本当ですか?」


 頭を下げた俊輔たちは、フィデルから返ってきた言葉に驚く。

 自分たちが言うのも何だが、この国のために体を張ったという思いはある。

 入国と通行の許可も、頼めば何とかしてくれると思いはたしかにしていた。

 しかし、あらかじめ許可の申請を出してくれているとは思ってもいなかったため、思わず聞き返してしまった。


「あぁ、今日か明日にでも返答が来るだろう」


「ありがとうございます」


「なに、この国の恩人の頼みだ。この程度大したことはない」


 数日待つことを覚悟していたが、どうやらその必要もないようだ。

 あらかじめエルフ王国へ行くようなことは言っていたが、まさか先んじて許可を取る手筈を整えてくれていたフィデルに、俊輔たちは感謝した。

 その感謝の言葉に、フィデルは嬉しそうに返答した。

 この程度で恩を返せたとは思わないが、少しでも返せた思いがしたからだろう。

 翌日の朝、フィデルの言葉の通り、獣人王国のいくつかとエルフ王国から、俊輔たちの入国・通行を許可する書状が届いたのだった。






「では、またお会いできる日を楽しみにしています」


「あぁ、その時は前もって連絡を入れてくれ。君たちなら歓迎する」


「ありがとうございました」


 善は急げと、俊輔たちは許可が下りたその日のうちにエルフ王国へ向けての行動を開始することにした。

 エルフ王国へ向かうために、まずはドワーフ王国の南にある獣人大陸へと向かう。

 ドワーフ王国から船で川を渡り、ヴァーリャ王国という国へと渡る。

 そのための船に乗る前に、俊輔たちはドワーフ王のフィデルへと別れの挨拶を交わした。

 わざわざ港にまで見送りに来てくれたことに感謝しながら、俊輔はドワーフ王国を後にすることになった。


「もっと観光したかったな」


 少しずつ離れていくドワーフ王国に、俊輔は少し残念そうに呟く。

 ドワーフ王国のある島に入ってから半年近い期間滞在したというのに、そのほとんどはダンジョン内で魔物との戦闘漬けであり、観光した時間はとても少ない時間だった。

 ドワーフの魔道具を使った生活スタイルに、俊輔は前世の日本のことを思いだすことが多かった。

 動力が電気か魔力かの違いでしかないため、そう思うようになったのかもしれない。

 懐かしい思いから、ドワーフ王国での居心地は俊輔の中ではかなり良かった。

 もっと居たいという思いから、そうつぶやいたのかもしれない。


「また来ればいいんじゃない?」


「そうだな。許可証も貰えたし」


 残念そうな俊輔の言葉に、京子は慰めるように話しかける。

 京子からすると、世界でも最先端の魔道具生活は驚きの連続だった。

 しかし、この驚きは新鮮で、俊輔とは違った意味での楽しみだったといえる。

 俊輔と違い、ちょっと魔道具生活疲れを感じていたが、京子も期間を置いてまた来たいと思っていた。

 その慰めを受けて、俊輔もいつものように明るい笑顔を京子へと返した。

 以前フィデルから渡された許可証。

 あれは魔道具になっているらしく、持ち主以外使えないことになっているらしい。

 それをそのまま返さず、ツギクル時のために持っているように言われた。

 どうやら、この許可証があることで、入国審査をパスできるようだ。

 人族でも特別待遇を与えられ、また入国できるのだから、また行けばいい。

 俊輔はその時を楽しみにすることにした。


「さて、獣人王国か……」


「どんなところか楽しみだね?」


「あぁ」


 世界広しと言えど、この世界で自分たち以外に3大陸旅行をした人間なんてどれほどいることか。

 この世界の3大大陸のうち、最後の大陸へと近付くにつれて、俊輔と京子は先程までの寂しさよりも楽しみが勝るようになっていった。

 この世界において、獣人他陸は日向の真裏の国。

 2人とも獣人を見たことなんてないため、どんな者たちがいるのか楽しみにしつつ、船が到着するのを待ったのだった。



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