第275話
「俊輔様御一行がお越しになりました」
危険ダンジョンを攻略して攻めてきた魔族たちを撃退した俊輔たちは、疲労が激しかったためその日はそのまま休むことにした。
ドワーフ王のフィデルの計らいで、王城にある一室に泊めてもらうことができたのだが、ベッドなどの寝具によるもののお陰なのか泥のように眠りについた。
翌日、気分良く朝を迎えた俊輔たちは、玉座の間へと招かれることになった。
「すごいな……」
兵によって玉座の間のドアを開けられると、部屋の中には多くの正装したドワーフたちが俊輔たちを待ち受けていた。
道を作るように左右へと分かれたドワーフたち。
彼らからの大音量の拍手を受けながら王であるフィデルの前まで進んで行くなか、俊輔はあまりの歓迎に戸惑いながら小さく呟く。
「よくぞ来てくれた俊輔一行!」
俊輔たちが王の前に着くと、ピタリと拍手が止み、少しの間をおいてフィデルが話し始めた。
「我が国の西にある危険ダンジョンの攻略。次いで、数体の魔族と大量の魔物の討伐において多大なる成果を上げてくれたこと、ドワーフ王国の代表として感謝申し上げる」
「どういたしまして……」
満面の笑みで迎えたフィデルは、俊輔たちに対して感謝の言葉をかけてきた。
ドワーフは人族に対して警戒心を持っていて、本来ならば人族はドワーフ王国のある島に上陸することすらできないだろう。
今回俊輔たちが入ることができたのは、ダンジョン攻略をしてもらうための特例によるものだ。
東西南北にある危険なダンジョンには地下に魔王と呼ばれる存在が封印されており、攻略によって魔王の復活を阻止する必要がある。
しかし、ダンジョンの魔物が強力なため、これまで多くの人間が攻略失敗の憂き目に遭っていた。
それが攻略されただけでもとんでもないことだというのに、突如受けた魔族による襲撃でも活躍したのだから、評価しない方がおかしいというものだ。
感謝されることは嬉しいが、これだけ大勢の前だと照れくさいという思いが強い。
そのため、俊輔は言葉少なめに言葉を返した。
「俊輔殿たちのお陰で、現在ダンジョンの結界は解かれた。ダンジョン復活までの間に少しでも内部の魔物を倒し、魔王の復活を阻止するよう兵たちを向かわせている」
結界内に侵入してきた人間が死ぬとダンジョンがその遺体を吸収し、その養分の一部が封印されている魔王へと流されて復活のための力へと変わってしまう。
これだけダンジョン内の魔物が強くなってしまっているということは、魔王が復活するための力がかなり集まっていることを示している。
魔王からすると、ダンジョンを攻略されてしまうことは復活するための手立てがなくなるということになる。
そのため、魔王はこれまで復活のために溜め込んだ力をダンジョンを復活させるために使わなければならなくなる。
ダンジョン復活までの間に残っている魔物を狩ることにより、僅かながらでも魔王の復活を遅らせるのが狙いなのだろう。
魔族の出現で遅れていた作業へ、兵たちを向かわせたようだ。
「褒賞としての魔道具は後でカタログを見て選んでいただくとして、他に何か欲しいものはあるかな?」
「そうですね……」
ダンジョンを攻略した場合、褒賞として魔道具をタダでもらうことをフィデルと約束していた。
それに加え、魔族を倒したことによる褒賞も上乗せされ、欲しい魔道具をいくつももらえることになった。
人族大陸にある魔道具のほとんどは、ドワーフ王国が作り出したもののコピー品でしかなく、オリジナル品よりも性能や耐久力の観点からすると劣っている。
もしもドワーフ製のオリジナル品を人族大陸で売り出そうものなら、オークションでかなりの金額が付けられることだろう。
それがタダで手に入る上に、いくつも指定しても良いということだ。
この国に来て発覚した魔道具好きのカルメラではないが、テンションが上がってしまう。
魔道具だけでも嬉しいことだが、フィデルは他にも何か欲しいものをくれるという。
自分たちに必要なものと考え、俊輔はあることを思いついた。
「自分たちがいつでもドワーフ王国に入れる許可を頂きたい」
「……そんなことか? この国を救ってくれた恩人なのだから、そのくらい造作もないことだ」
ドワーフ王国の魔道具は、どれも日を追うごとにバージョンアップを繰り返している。
最新作を手に入れるために、再度この国に入るということができるか分からない。
そのため、俊輔は自由入国の許可をもらうことにいた。
しかし、フィデルからすれば、元々その程度の許可を出すつもりだったため、指示を出せばすぐに通る話だ。
国宝級の魔道具を要求してくる可能性を考えていたフィデルとしては、無欲に近い申し出だったため、すぐにその希望を受け入れた。
「あと、魔王が封印されている南のダンジョンの場所を教えてくれるとありがたい」
魔王が封印されているという東西南北の危険ダンジョン。
その中のうち、北と東西のダンジョンは攻略した。
これでどれくらいの期間だかは分からないが、復活の期間を先延ばしにすることができた。
残るは南のダンジョンのみ。
そこを攻略をするためにも、俊輔は場所を聞くことにした。
「南のダンジョン? 彼女に聞いていないのか?」
「彼女って……、ミレーラ?」
俊輔の問いに、フィデルは何を言っているのかというような反応を示した。
そして、俊輔の側にいる人間を指差して問いかけてきた。
その指先を見てみると、そこにいるのはミレーラだ。
「もしかして……」
「左様。南のダンジョンはエルフ王国に存在している」
ダンジョン内で出会うことになったミレーラと言ったらエルフだ。
そのミレーラを指差したということで思い当たるとしたら、エルフ王国しかない。
その答えが浮かんで確認しようとする俊輔を察してか、フィデルはすぐに肯定の言葉を返してきた。
「そうか……、じゃあミレーラ、案内してもらえるか?」
「いいわよ。私も帰るつもりだったし」
ダンジョン攻略に参加したミレーラだったが、下層で自分以外の仲間が全滅して単独では地上に戻ることができなくなった。
そのせいで何十年もの間ダンジョン内に閉じ込められていたが、俊輔たちに会ったことで脱出の悲願を達成できた。
脱出できたら故郷に帰りたいという思いでいたため、俊輔たちが一緒でも特に構わない。
むしろ、自分を救ってくれた感謝を少しでも返せるのだから申し出たいくらいだ。
「エルフ王国に向かうなら獣人大陸へ渡ってから船で向かうべきね」
「次は獣人大陸か……」
自分にとっての宿敵エステは、封印された魔王の復活を企んでいるようなことを言っていた。
そうなると一番可能性のあるのは、まだ攻略していない南のダンジョンだろう。
その南のダンジョンを目指して、俊輔たちはエルフ王国へと向かうことに決めたのだった。




