第274話
「ハッ!!」
「ギャッ!!」
もう何匹目になるだろうか。
京子は襲い来る魔物の首を木刀で斬り飛ばす。
「邪魔ね……」
魔物の死体の山ができ、戦うには邪魔になってきた。
まだ他にも魔物がいるようなので、京子は魔法の袋に魔物の死体を収納してスペースを作った。
俊輔と共に北と西の危険ダンジョンに入ったため、京子もかなりの実力者になっている。
かなり危険な魔物でも苦ではないが、如何せん数が多いため多少の怪我は免れず、京子は手足に小さい怪我を負っており、動き続けているせいか顔には疲労の色が見える。
「……何か数が減ってる?」
カルメラやミレーラたちは魔物を相手に戦っている。
ドワーフ兵たちも同様だ。
しかし、疲労で気付かなかったが、周りを見渡したことで何だか魔物が減っているように感じた。
「もしかして、魔物の出現が治まっている?」
これまで倒しても倒しても減っている様には感じなかった。
それが分かるように減っているということは、魔物の出現自体が減っているということになる。
そうなると、京子には何を意味するのか分かった。
「ということは、俊ちゃんが魔族を倒したってこと?」
魔物の出現が治まったということは、それを呼び出している魔族が倒されたということだ。
その魔族と戦っているのは俊輔。
つまり、俊輔が魔族たちを倒したということだ。
「さすが俊ちゃん!!」
俊輔なら何とかしてくれると分かっていたが、やっぱり思った通りの結果になったようだ。
夫の成果に嬉しくなり、京子は思わず両手を上げて喜んだ。
「そうと分かったら、私も残りを片付けないと!!」
これ以上魔物が出現しないというのなら、魔力を計算しながら戦う必要はなくなったということ。
そう考えた京子は、残っている力を惜しむことなく、残っている魔物を倒すことにした。
「フゥ~……」
魔物の出現がなくなり終わりが見えたことで、京子は力をセーブする必要がなくなった。
そのため、残りの魔力を使って一気に数を減らし、あっという間に魔物を倒しつくした。
周囲を探知しても魔物の気配を感じなくなったことで、京子はようやく肩の力を抜くことにした。
「終わったな?」
「えぇ」
京子が一息ついて汗を拭っていると、カルメラが話しかけて来た。
カルメラも多くの魔物の相手にしたせいか、顔には疲労の色が窺えた。
しかし、何とか抑えきれたことによる達成感の方が勝っているようで、何だか清々しい表情にも見えた。
「随分倒したわね?」
「お前の方が相当だがな……」
カルメラは魔法の袋を所持しておらず、倒した魔物はドワーフ兵たちによって取り除かれていた。
わざわざ分かりやすくしてくれていたらしく、カルメラが倒した魔物は一か所に集められて、どれだけの数が倒されたかは一目瞭然だ。
その集められた魔物の山を見て、京子は感心したように呟いたが、京子が魔物を倒すのを横目で見ていたため、カルメラは自分以上倒していると分かっていた。
京子は戦いながら魔法の袋に収納していたようだが、恐らく自分の倍近い数を倒しているはずだ。
そのため、カルメラはそのまま言葉を京子へ返した。
「でも、ミレーラの方が上よ」
「いや、それを言うなら、あの子が一番じゃないかしら?」
たしかにカルメラよりも倒したが、上には上がいる。
ダンジョンで仲間になったエルフのミレーラは、ドワーフ兵たちを守りながらも京子以上に魔物を倒していた。
ミレーラは深層で1人何十年と生き残っていた程の実力者だ。
実力ではまだ勝ち目がない。
そう思って京子とカルメラが話していると、話が聞こえていたらしくミレーラも入ってきた。
「「あの子?」」
京子とカルメラは、ミレーラ以上に魔物を倒していた者が他にいたか思い至らなかった。
そのため、首を傾げながらミレーラの指さした方角へと目を向けた。
「「あぁ……」」
「ピー!」
京子とカルメラは、目を向けてすぐに理解した。
ミレーラが指さした相手は、俊輔の従魔である丸烏のネグロだった。
こちらに飛んでくる可愛らしい姿とは裏腹に、ネグロはいつものように魔法で無双していた。
小さい体というのに、どこにあれだけ魔力を有しているのか首を傾げたくなる。
本当に弱小でお馴染みの丸烏なのかと疑いたくなる。
「ご苦労様。ネグちゃん」
「ピ~♪」
飛んできたネグロは、京子の差し出した手の上に降りる。
そして、労いの言葉と共に頭を撫でてあげると、嬉しそうな声で鳴き声を上げた。
「アスルもお疲れ!」
「…………♪」
ネグロに続くように、俊輔の従魔のアスルもこちらへと向かってきた。
京子に褒められているネグロを、何となく羨ましそうにしていた。
それを読み取ったのか、カルメラは京子の代わりに褒めてあげた。
ダンジョン内ではいつも一緒にいたことから、カルメラはアスルと仲良くなっていた。
危険な時に、何度か助けてもらうことがあったからかもしれない。
褒めてもらいたかったアスルは、カルメラに頭を撫でられて満足したような表情をしていた。
「あっ!?」
「「んっ?」」
魔物を倒し終えたことで気分良く話しをしていると、京子が何かに気が付いたような声を上げた。
それに釣られるように、カルメラとミレーラも京子の視線の先を見た。
「俊ちゃん!!」
視線の先にいたのは、森の方から歩いてくる俊輔の姿だった。
服や体は泥だらけになっているが、大きな怪我をしている様子はない。
あったとしても、回復魔法が使えるのだから治してきたのかもしれない。
「んっ?」
「何か……」
「様子が……」
歩いてくる俊輔に、京子は違和感を感じる。
カルメラとミレーラも、同じように違和感を感じる反応をした。
「……どうしたの? 俊ちゃん」
「あぁ、ちょっとあってな……」
違和感の正体は、俊輔の表情だ。
魔族を倒したはずなのに、なんとなく表情が浮かない。
そんな俊輔に、京子が心配そうに声をかけるが、俊輔からは歯切れが悪い反応が返ってきた。
「ピッ?」
「ネグ……」
京子と同様に主人のことが心配になったのか、ネグロは俊輔へと飛びつく。
ネグロを受け止めた俊輔は、浮かない表情の理由を話す気になったようだ。
「エステの奴が現れたんだ」
「ピッ!?」
俊輔の言葉に、ネグロは驚きの反応をする。
主人の俊輔と自分を、東の危険ダンジョンに送り込んだ張本人。
憎きエステがこの島に現れたというのだから、驚くのも当然だ。
「でも、逃げられちまった。悪いな……」
「ピ~……」
エステのせいで、自分もそうだが、ネグロは片翼を失う大怪我を負って死にかけることになった。
あの時の恨みを晴らす機会を失って、俊輔は悔しく思っているようだ。
そのことを察したネグロは、気にするなと言うかのように俊輔へと声をかけた。
「そうだな。しかし、次会ったら今度こそぶっ飛ばしてやる」
「ピー!」
ネグロに慰められたことで気持ちを切り替えたのか、俊輔は表情を和らげた。
俊輔の表情が良くなったことで、ネグロはその意気だと言うかのように声を上げたもだった。




