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第273話

「お前は……」「て…めえ……」


 俊輔とオエステは、突然現れた相手を睨みつける。

 2人にとって不愉快な人物だったからだ。


「「エステ……」」


 現れたのは魔族の1人で、エステと呼ばれる者だ。

 俊輔は昔海難事故で殺されかけた相手として、オエステは同じ魔族でも性格が合わない相手として気に喰わない存在だ。


「久しぶりだね。オエステと……」


 2人へとゆっくり近づくエステは、自分の名前を呼んだオエステに挨拶をする。

 そして、その後俊輔の方にも目を向けた。


「……君は誰だ? 僕の名前を知っているようだけど……」


「っ!?」


 自分を知っているような口ぶりだったため、エステは俊輔に目を向けたのだが、どうやら記憶になかったらしく、首を傾げながら問いかけてきた。

 その反応に、俊輔は無言で俯いてしまった。


「て…めえ……、何しに…きやがった……?」


 ボロボロで立つこともできない状態のまま、オエステはエステへと問いかける。

 西地区の管轄は自分のはず。

 他の者たちは、自分たちの管轄意外に手を出さないことになているはずだ。

 それなのに、真逆の位置である東の管轄のエステがこの場にいる意味が分からなかった。


「何しにって……」


 管轄違いの場所に来ていることに対するオエステの問いを聞いたエステは、それまでの笑みから一瞬だけ真剣な表情へと変わった。

 そして、次の瞬間地を蹴る。


「ガッ!!」


「君の命をいただきに……だよ」


 地を蹴ったエステは、オエステとの距離を一気に縮める。

 その途中、腰に差していた剣を鞘から抜き、オエステの胸へ向けて刺突を放った。

 俊輔との戦闘で負傷していたオエステは抵抗することができず、エステの攻撃に胸を貫かれたのだった。


「……何…で……?」


「当然魔王復活のためだよ」


「ぐふっ!!」


 仲は良くなくても、同じ魔王復活を目指す仲間である。

 それなのに、何故このようなことをするのか。

 その疑問を問いかけると、エステはいつものような軽薄な笑みを浮かべて返答し、それと共にオエステの胸に刺さした剣を引き抜く。

 結局その返答を受けても、何故自分を攻撃したのか分からない。

 しかし、胸から大量の出血をしたオエステは、それ以上エステからの返答を聞くことができず、そのまま崩れるように倒れ伏したのだった。


「本当は担当のエリアの魔王を復活させようかと思っていたんだけど、面倒だから諦めたんだ。安心していいよ。セントロたちも一緒(・・)に養分にしてあげるから」


 剣についた血を拭いつつ、エステは死んだオエステに向かって呟く。

 そして、剣を鞘に納めると、魔法の袋に収納した。


「……おいっ!」


「んっ? あぁ……」


 オエステを殺したエステは、一段落着いたとでも言うかのように踵を返そうとした。

 そんなエステに対し、俯いていた俊輔が声をかける。

 完全に忘れた存在になっていたのか、エステは思いだしたような反応をした。


「誰だか知んないけど、彼をあそこまで追い詰めてくれてありがとう。相手する手間が省けたよ」


「覚えてねえか……」


「えっ?」


 どうやらオエステを殺すことが目的だったらしく、エステは弱らせてくれていたことに感謝の言葉をかけてくる。

 しかし、俊輔からしたらそんな事は関係ない。

 自分のことを殺そうとした相手が、ようやく目の前に現れたのだ。

 不愉快なのは、自分のことを覚えていないということだが、それよりこの機会を逃すわけにはいかない。


「ぶっ殺す!!」


「っ!!」


 ようやく会えた報復相手を仕留める機会と判断した俊輔は、オエステとの戦闘で負った怪我の痛みなんてすっかり忘れ、魔力を纏ってエステへと迫った。

 高速接近から、剣を抜いていない状態のエステに斬りかかる。


「おわっ!! ハハッ! 危ないな……」


「くっ!!」


 いきなりの攻撃に、エステは慌ててその場にしゃがみ込む。

 先程まで頭部のあった場所を、俊輔の木刀が横へと通り抜けた。

 ようやく会えたエステを殺そうと、俊輔は力んでいた。

 そのため、攻撃が大降りになって躱されてしまい、僅かに体勢が崩れた。

 俊輔が崩れた隙をついて、エスタはその場から跳び退く。

 突然の攻撃に驚きつつも、いつものように軽薄な笑みを浮かべたままだ。


「すごい速さだけど、オエステとの戦いで弱っているようだね?」


「関係ねえ!」


 高速の接近に驚きはしたものの、自分には対応できる速度だ。

 距離を取ったエステは、改めて俊輔の姿を眺める。

 自分でもオエステを相手にするのは骨の折れる作業だ。

 そのオエステと戦って、無傷のわけがない。

 服の汚れや、僅かに腹を庇っているような動きを見て、エステは俊輔が本来の実力でないことを読み取り指摘してきた。

 エステのその指摘を受けても、俊輔は退くつもりはない。

 またもエステへと接近した俊輔は、先程の力んだ攻撃を反省し、今度はいつものように2刀の木刀による連撃を放ったのだった。


「わわっ!!」


 俊輔の連撃を、エステは鞘から抜いた剣によって防御する。

 手数が多く防戦一方になるエステは、笑みを浮かべつつも必死に対応する。


「ハッ!!」


「っ!!」


 自分の得意な戦闘方法は、木刀による攻撃だけではない。

 連撃の中の1つが防がれたと同時に、俊輔は剣先からレーザー光線の魔法をエステの顔面へと放つ。

 発動の速さ重視で、威力はそこまで込めていなかったが、当たれば当然ダメージを与える。

 それを察したエステは、首をひねってその攻撃を回避した。


「チッ! ……しかし、笑みが消えたな?」


「……なかなかやるね」


 至近距離からの攻撃を躱され、俊輔はエステの反応の良さに舌打ちする。

 しかし、口にした通り、エステの表情からはいつもの笑顔が消えていた。

 躱しはしたが、俊輔の魔法攻撃により頬を僅かに焼かれた。

 それに対する怒りから表情が変わったようだ。

 俊輔にそのことを指摘されたエステは、すぐにまた笑みを浮かべた表情へと戻った。


「んっ? よく見りゃ、お前も怪我しているようじゃないか?」


「まあね。オエステ以外も相手してきたからね」


「オエステ以外?」


 オエステ以外と言われても意味が分からないが、エステは言葉通り何者かと戦ってきたのだろう。

 俊輔が付けた傷以外にも、手に怪我を負っているように見える。

 つまりは、自分と同じ手負いの状態だ。

 それを察した俊輔は、この場で始末するべく、またも地を蹴りエステとの距離を縮めた。


「っ!?」


“ヒュン!!”


 距離を縮めようとした俊輔だったが、エステまであと少しという所で急停止し、すぐさま後方へと跳び退く。

 その次の瞬間、上空から急に何かが飛来してきたのだ。


「……ワイバーン!? あっ!!」


 何が飛来してきたのかと思ったら、翼の生えた竜であるワイバーンだった。

 俊輔がそのことに気付いた時には、エステがワイバーンの背に乗っかっていた。


「誰だか知らないけど、今戦うのは面倒そうだ。目的も果たせたし、今日はお暇させてもらうよ」


「ふざけるな!!」


 目的というのはオエステを殺すことだろう。

 それが済み、エステはワイバーンの飛空能力を利用して、この場から逃げるつもりのようだ。

 ようやく遭遇できたというのに、逃げられてなるものかと俊輔はワイバーンに向かって攻撃をしようとした。

 しかし、俊輔が攻撃をするより早く、エステの合図を受けたワイバーンは上空へと一気に上がっていった。


「バイバ~イ!」


「待てっ!!」


 ワイバーンの巨体が小さくなるほど高く上がったエステは、俊輔へ別れの挨拶をして手を振った。

 その表情と仕草が、俊輔が初めて大陸へ向かおうとした時に乗っていた船を沈める時に見せたのと同じもので、乗っているのがリヴァイアサンかワイバーンかの違いだけだった。

 それを見た瞬間、俊輔の中では怒りが再燃した。

 その怒りに任せ、俊輔は当たらないと分かっていながらも、上空のワイバーン目掛けて魔法を連発した。


「くそっ!!」


 距離が距離だけに当然当たる訳もなく、エステを乗せたワイバーンはそのまま飛び立っていった。

 小さくなっていくワイバーンに歯噛みしながら、オエステとの戦闘による疲労が一気に押し寄せてきた俊輔は、その場で脱力するように座り込むことしかできなかった。



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