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第271話

「ウラッ!!」


「くっ!!」


 纏っている魔力が上がったことにより、オエステの移動速度が1ランク上がった。

 オエステの急接近による右ストレートを、俊輔はギリギリのところで回避した。

 体調不良と攻撃によるダメージがなかったら、俊輔は初見でその速度に反応できなかったかもしれない。


「ハッ!!」


「っ!?」


 攻撃を躱されたオエステは、すぐさま地面に手を突き土魔法を発動させる。

 それにより、躱したばかりの俊輔に向かって数発の石が弾丸のように飛んできた。

 纏っている魔力をそのまま発動に使用しているのもあってか、魔法の発動速度まで上がっている。


「このっ!!」


 飛んでくる石弾を、俊輔は両手の木刀を使って弾き飛ばす。


「フンッ!!」


「ぐっ!!」


 俊輔が石弾を弾き終わると共に、いつの間にかオエステが真横から接近してきていた。

 石弾に意識を向けていたのは僅かな時間。

 オエステのことも注意していたが、その僅かな時間が狙いだったようだ。

 横からきたオエステの右フックに、俊輔は左手の小太刀の長さの木刀で防ぎにかかった。

 なんとか拳を受け止めたが、速度だけでなくパワーまで上がっている。

 受け止めた片腕だけでは抑えきれず、俊輔はそのまま数m吹き飛ばされる形になった。


「このっ……馬鹿力が!!」


「誰が馬鹿だ!!」


 防御したのに吹き飛ばされた俊輔は、空中で大使を立て直して着地をすると思わず文句が出た。

 その文句に対し、追撃するつもりのオエステは、接近しながらツッコミを入れる。

 そのツッコミが微妙にズレている所に、俊輔としてはツッコミを入れたいところだ。

 しかし、そんな事言っている場合ではない。

 防御した左手が軽く痺れているというのに、乱打戦なんてやってられない。


「ハッ!!」


 時間を稼ぐため、俊輔は魔法を放つ。

 接近してくるオエステの進路を妨害するように、土の壁を作りだす。


「フンッ!! この程度!!」


 目の前に立ち塞がった土の壁に、オエステは警戒感から少し速度を落とす。

 しかし、そんな事で止まるような性格ではなく、オエステは土壁をぶん殴って破壊しようとする。


「おわっ!」


 殴って壁を破壊したオエステは、慌てたような声と共に前のめりになるように体勢を崩した。

 というのも、硬いと思って殴った壁は、全く手ごたえを感じないほどにスカスカな壁だったのだ。

 無駄に力を込めた分、バランスを崩したのだ。

 バランスを崩したオエステを残し、俊輔はしれっと距離を取った。


「ふざけた真似しやがって!」


「お前と違って頭を使ってるって言って欲しいね」


 すぐに体勢を立て直したオエステは、距離を取って左手の握りを確認している俊輔へと凄む。

 土魔法での防御は、硬ければ硬い程良いと先入観を持っているからそう言うことになるのだ。

 まんまと策に引っかかったオエステに、俊輔は小馬鹿にするように言葉を返した。


「野郎!!」


 またも馬鹿にするような俊輔の態度に、オエステは若干イラッとしつつ地面を蹴る。

 態度を見る限り、俊輔の痺れていた手は治ったようだが、自分の魔力アップによる移動速度に付いてこれていない。

 それならば、慣れる前に俊輔へと攻撃を当てようと、オエステは再度俊輔へと接近を試みた。


「ハッ!」


 迫り来るオエステから距離を取るように動くが、その距離はドンドン縮まってくる。

 ならばと、俊輔は走りながら魔力球を放って攻撃をする。


「フンッ!」


「やっぱりだめか……」


 飛んでくる魔力球なんてお構いなしというかのように両手で弾き飛ばしながら、オエステは俊輔との距離を詰めようと追いかけ続ける。

 走りながらの攻撃では、魔力を圧縮して威力を上げるためのためができない分威力が弱い。

 そのため、牽制の意味で放った魔力球が、全く意味をなしていない。

 分かっていたが、このまま逃げるだけでは意味がないことを理解した俊輔は、足を止めて打ち合うことを選択するしかなかった。


「やっと追いかけっこは終わりか!?」


 足を止めた俊輔に、オエステは嬉しそうに話しかける。

 「うるせえよ!」と言いたくなるのを押しとどめ、俊輔は迫り来るオエステに向けて構えを取った。


「オラッ!」


「ムンッ!」


 距離が縮めると共に、オエステは左ストレートを放ってくる。

 魔族による特有のパワーに、移動速度まで加わった左ストレート。

 さっきのように片手で防げば、また痺れてしまう。

 そうなると、攻撃だけでなく防御にまで支障が出るため、俊輔は両手の木刀でその攻撃を受け止めた。


「拳はもう一個残っているぜ!!」


「くっ!!」


 言葉通り、左ストレートを防がれたオエステは、右手でフックを放ってきた。

 俊輔はその攻撃をスウェーで躱す。

 なんとか右フックを躱すが、その拳は掠り、俊輔は僅かに左頬から出血した。


「まだまだいくぜ!」


「くっ! ふっ!」


 俊輔に僅かに傷をつけたことに気を良くしたのか、オエステはそのまま連撃を放ってきた。

 それを俊輔は両手の木刀を駆使して防御に徹する。

 少し前なら責められたらカウンターを打てていたが、パワーアップしたオエステの速度について行くのに必死のため、とても攻撃なんてできる状態ではない。

 防御しながらも動き回って、反撃の機会を窺おうとするのだが、オエステがそうはさせないと攻め立て続けた。


「ここだっ!!」


「っ!?」


 オエステが攻めて俊輔が防御する。

 それがしばらく進み、俊輔は時間経過と共に少しずつオエステの速度に慣れて対応できるようになっていた。

 しかし、防御に回っていたことで、木刀で攻撃を防いでいた両手は鈍い痛みが蓄積していた。

 それを見越していたのか、オエステは大振りのアッパーを交差した木刀に向かって放ってきた。

 下からの強力な攻撃により、ダメージが蓄積した両手では抑えきれずかち上げられた。


「オラよっ!!」


「がっ!?」


 完全に腹がガラ空きになった俊輔に、オエステはアッパーを打った時のひねりを利用したソバットを放ってきた。

 咄嗟に腹に魔力を込めるが、強力な一撃が俊輔の腹へと叩き込まれた。


「ぐっ!」


 嫌な音がするのと同時に、俊輔はそのまま猛烈な勢いで吹き飛んで行った。

 そして数本の樹をなぎ倒し、地面へ打ち付けるように何度も跳ねた後、ようやく俊輔は止まった。

 その体は、細かい斬り傷と泥だらけの状態だ。


「ぐぅ……」

 

「おぉ! 生きてる! 生きてる! お前みたいに俺とまともに打ち合える奴なんてそういない。久々楽しめているんだから、そう簡単に死んでくれるなよ?」


 腹の痛みに耐えながら立ち上がると、オエステは嬉しそうに話しかけてくる。

 完全に優位に立っているからか、その態度には余裕が見え隠れしている。


「はっ! 馬鹿が……」


「……何?」


 立ち上がりはしたものの、俊輔は口から血を流している。

 額には汗を掻き、表情は僅かに歪んでいる。

 相当なダメージを負っているのが丸分かりだ。

 そんな俊輔が煽るような発言をして来たことに、オエステは怒りよりも訝し気な表情へと変わる。


「……強がりか? まあいい、終わらせてやる」


 俊輔の態度に疑念が浮かびつつも、オエステはゆっくりと俊輔へと歩を進めた。

 おかしな攻撃(二酸化炭素中毒)で死ぬかと思わされたお返しに、ジワジワと甚振るつもりでいたのだが、まだ何かをしてくる分からないと警戒したオエステは、すぐに終わらせることにした。


「ハハ……」


 オエステが迫り来るなか、俊輔はその場から動かない。

 動かないのではなくて、先程受けたダメージで動けないようだ。

 そんな絶体絶命のピンチというような状況で、俊輔は僅かに笑みを浮かべたのだった。



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