第269話
「ダリャ―ー!!」
「ハッ!!」
獅子の魔族であるオエステと戦う俊輔。
戦況は手数の差から、オエステの方が攻め込む形になっていた。
一発一発にかなりのパワーが込められている拳が、俊輔に向かって襲い掛かる。
それを防ぎつつ、俊輔は時折カウンターで反撃をする。
どちらの攻撃も当たらず、膠着状態といってもいい。
「オラッ!!」
「っ!?」
膠着状態だと判断したのか、オエステが攻撃方法を変えてきた。
拳を振り上げ、それをそのまま叩きつけてきた。
やや振りが大きい。
その攻撃を躱した俊輔は、カウンターで攻撃を仕掛けようとした。
しかし、その途中でオエステの意図に気付き、すぐさまその場から後退することを選択した。
俊輔が後退するために地面を蹴った瞬間、地面が爆ぜる。
オエステが振るった拳が、そのまま地面を殴りつけたからだ。
そのまま俊輔が反撃をしていたらその爆発に巻き込まれて、高速で飛び散る石が直撃してダメージを負っていただろう。
いち早く察して行動したことにより、俊輔は無傷でその攻撃を回避することができた。
『……目くらましか? そんなのが……』
地面の爆破と同時に巻き上がった石や土。
それによって、オエステの姿が一旦見えなくなる。
先程の攻撃は、自分の目から逃れるための目くらましだったのかと俊輔は推測した。
しかし、目で見えなくても、俊輔は戦闘中でも周囲の探知をおこなっている。
それにより、オエステがどこから向かって来ているのかは手に取るようにわかる。
「ハッ!!」
「分かってるよ!」
土煙から姿を見せたオエステは、思いっきり右ストレートを放ってきた。
探知でそれに気付いていた俊輔は、小太刀で難なくその攻撃を防ぐことに成功する。
大振りのストレート。
それにより、オエステには隙ができている。
そこを狙うように、俊輔は木刀を振ろうとした。
「っ!?」
俊輔の攻撃が迫る中、オエステは何ら動じる様子がない。
それに若干の違和感を感じた俊輔だったが、今から止まるのは難しいため、俊輔はそのまま一気にオエステの肩口へと振り下ろした。
しかし、その攻撃が当たる前の俊輔の木刀に、手のひら大の石が高速で飛んできて直撃する。
それにより攻撃の軌道がずれ、今度は俊輔の方が隙を作る結果になってしまった。
「オラッ!!」
「クッ!」
“チッ!!”
隙ができた俊輔に対し、オエステはアッパーを放ってきた。
俊輔は懸命に体を捻り、その攻撃を回避しようとする。
それにより、何とか直撃を食らうことは免れた。
ただ、直撃は回避したものの、オエステの拳は微かに掠り、俊輔の頬を斬り裂いた。
「……クソッ! ただの脳筋野郎じゃないって事か」
頬を流れる血を見て、俊輔はまんまとオエステの策にハマってしまったと悔しそうに言葉を漏らした。
オエステは土煙を利用して攻撃を仕掛け、俊輔に反撃させる事が狙いだった。
土煙を上げると同時に石に魔力を込め、自分が俊輔に迫ると同時にその石の魔力を発動させる。
誘導した場所への攻撃のため、予定通り武器に石を当てて軌道をずらしたのだ。
石の魔力も発射させるためだけの量しか込めておらず、おまけに反対方向に動くオエステに集中してしまったため、俊輔も気付けなかったようだ。
「あの状態から躱すなんて、反応の速い奴だな。まぁ、しかし躱しきれなかったようだがな」
隙を作るまで完璧に上手くいった。
そのうえでの攻撃だったのに、オエステとしては躱されたのが意外だったようだ。
それでも、俊輔の頬に傷をつけたことには気分が良さそうだ。
「そういや、さっきの膜みたいな防御はしないのか?」
「……当たりそうになったらするさ」
オエステが言う膜というのは、味方たちを巻き込まないようにこの場まで距離を取るため、攻撃を受けた時のことを言っているのだろう。
あの時俊輔は、直撃を受けてもダメージを受けていない様子だった。
先程の攻撃時も、オエステはその防御をされる可能性も頭のなかにあったのだが、それが来なかったから不思議に思ったのかもしれない。
オエステの質問に対し、俊輔は素っ気ない態度で返答した。
『実は結構集中するから、難しいんだけなんだけど……』
返答した表情とは違い、俊輔は内心で違うことを呟いていた。
オエステの言う膜を種明かしするなら、それほどたいしたことではない。
薄い魔力障壁を何重にもすることで、弾力のあるものに変えていただけだ。
距離を取るためにわざと攻撃を受けることにした俊輔は、この弾力性のある魔力障壁でダメージを緩和していたのだ。
しかも、自らがオエステの攻撃に合わせて流されるように飛ぶことで、さらにダメージを受けないようにしただけだ。
この魔力障壁なら、たしかにオエステの攻撃を防ぐことはできるだろう。
しかし、この魔力障壁は集中する必要があるため、戦闘中に動きながら使うのはなかなか難しい。
わざと攻撃を食らうなんて決めていないと、込める魔力量の調整ミスを起こす可能性がある。
もしも、調整ミスしてしまった場合、オエステのパワーを抑えきれず大ダメージを受けてしまいかねない。
そんなリスクを冒してまで使うような技ではないということだ。
『近接戦ではお互いダメージを与えられそうにない。なら魔法で戦うだけだ」
近接戦をおこなって見ての感想として、俊輔はほぼ互角という判断をした。
しかし、俊輔は慌てる様子はない。
何故なら、魔法があるからだ。
「ハッ!!」
「なっ!?」
剣術も訓練をしているが、俊輔の中では魔法の方が得意だと思っている。
それもそのはず、前世の日本人としての知識が残っているからだ。
近接戦では埒が明かないなら、魔法で仕留めればいいだけのこと。
そのため、俊輔は魔法を発動する。
魔力で作った水を凍らせ、氷の槍を何本も作り出す。
氷を作り出すという高度な魔法を、僅かな時間でいくつもおこなった俊輔に、オエステも驚きの声を上げる。
俊輔の魔法の技術が、相当なものだというのがこれだけで分かるというものだ。
「突き刺せ!!」
作り出した氷の槍を、一気にオエステへと放つ。
「舐めんな!!」
俊輔の放った氷の槍が、色々な角度からオエステへと迫る。
その攻撃に対し、オエステは気合いの声と共に全身に纏う魔力を一時的に増やす。
そして、迫り来る氷の槍を、拳と蹴りで弾き飛ばした。
「ハハッ! どうだ……」
「……なんて奴だ」
氷の槍がなくなったのを見て、オエステはどや顔で俊輔へと視線を向けてくる。
少しくらい傷をつけるかと思っていたのだが、オエステは全部の攻撃を防ぎきってしまった。
肉体の耐久力と、相当な魔力を込めていないとできないことだ
まさかの防ぎ方に、俊輔は敵ながら見事と感じていた。
「でも……、いつまで防げるかな?」
「なっ!?」
防ぎ方はとんでもないが、ならば数を増やせばいい。
そう考えた俊輔は、先程以上の数の氷の槍を作り出した。
それを見て、オエステはまたも驚きの表情へと変わったのだった。




