第268話
「「…………」」
京子たちが魔物たちと戦っていた頃、俊輔はオエステと対峙していた。
無言で睨み合い、少しの間静かに時間が流れた。
「ハッ!!」「ダッ!!」
当然開始の合図など無く、2人は同時に相手に向かって地面を蹴った。
お互い魔闘術を利用しつつの接近のため、一瞬のうちにお互いが目の前へと迫り来る。
「ハァッ!!」
「クッ! オラッ!!」
「ッ!!」
オエステの身長は180cm前後、170cm程度の俊輔よりも10cm程でかいが、木刀を持っている分俊輔の方が間合いは遠い。
そのため、俊輔は接近すると同時に右手の木刀で斬りかかる。
その攻撃に対し、オエステは俊輔に迫りながら左手の手甲で迫り来る木刀受け止めると、今度はお返しとばかりに右の拳を俊輔の腹へと打ち込んで来た。
腹へと迫る攻撃を、俊輔は小太刀の木刀で受け、後方へと跳んで威力を受け流した。
『パワーがすごいな……』
オエステの攻撃を防いだ左手に、ビリビリとした振動が残る。
とんでもない威力が拳に込められていることが分かる。
攻撃を利用して距離を取った俊輔は、声や表情に出さずオエステの攻撃に驚いていた。
「ガァー!!」
距離を取って先程の攻防から相手の戦力分析をしていた俊輔に対し、オエステは間を置くことなく攻めかかってきた。
魔族特有のイケイケ気質とでもいうのか、最初から本性を現しているオエステは攻めながら分析する戦い方のようだ。
「フンッ!」
「何だ? こんな攻撃……」
迫り来るオエステに対し、俊輔は手の平大の水球を放つ。
発射速度はとんでもなく速いが、たいして魔力が込められていない所を見ると、受けた所で痛みを感じないことは明白だ。
躱すことすら無意味と感じたオエステは、その水球を受けつつ俊輔への接近を続けた。
「っ!?」
「ハッ!!」
「ぐっ!!」
接近する時間を短縮するために水球を無視したようだが、それは失策だ。
俊輔の狙いはその後に放った電撃だ。
それに気付いたオエステは俊輔へ迫るのを中止し、電撃に対応するために距離を取ろうと、急遽右へ方向転換した。
それを見た俊輔は大ダメージを与えることを諦め、魔力が集まる途中の段階で電撃を放つ。
放たれた電撃は濡れたオシアスに向かって飛んで行き、そのまま体を感電させる。
距離を取られたことでたいしたダメージを与えることはできなかったようだが、僅かに動きを止めることに成功した。
「シッ!!」
「ガッ!!」
「チッ!」
電撃を放ったと同時に走り出していた俊輔は、オエステの一瞬の停滞を見逃さない。
その隙を利用して強めの一撃を与えるため、右手の木刀を振り下ろして脳天を狙った。
攻撃が脳天に直撃するあと少しの所で、オエステの停滞が解けてしまい、両手の手甲による防御がギリギリで間に合ってしまった。
あと少しという所で防がれてしまい、俊輔は思わず舌打をした。
「フンッ!!」
「ウッ!!」
脳天への攻撃を防がれたが、オエステは停滞が解けたと同時に両手を交差するようにして防御したため、胴体部分がガラ空きになっていた。
そこを逃すまいと、俊輔は前蹴りを打ちきこんだ。
攻撃は成功し、腹に一撃が入ったオエステは小さく呻き声を上げた。
『硬いな……』
腹を蹴ったことによる反応から、少しはダメージを与えることができたとは思う。
しかし、蹴った時の感触からすると、いまいち手ごたえを感じなかった。
というのも、オエステの体が金属かのように硬い感触だったからだ。
僅かに後退させただけのオエステをその場に残し、俊輔は一旦距離を取った。
「フンッ!」
俊輔が離れたのを確認したオエステは、体に纏う魔力を一瞬だけ火に変えて、肉体に浴びた水を蒸発させて消し去った。
濡れたままではまた感電させられて攻撃を受けてしまう可能性がある。
それを阻止するためにやったのだろう。
「細かい攻撃してきやがって!」
体に浴びた水分を飛ばしたオエステは、笑みを浮かべつつ腹をさする。
その様子を見る限り、俊輔が思った通りたいしてダメージを与えられなかったようだ。
『面倒なことになりそうだな』
蹴った時の感触からいって、オエステの肉体はかなり強靭なようだ。
それも面倒だが、それと同時に回復力の方が気になった。
距離があったのと、途中段階の電撃だったため、それほど長い時間動きを止めることはできないということは分かっていた。
しかし、一撃与えるのには充分な時間は得られると思っていたのに、その一撃が防がれてしまった。
色々な魔物を相手に同じような攻撃をして来たことがあるため自身があったのだが、つまりはこれまで自分が戦ってきた魔族や魔物よりも、オエステは魔法攻撃に耐性があるのかもしれない。
俊輔としては二刀流の剣術の戦闘に自信があるが、魔法と併用しての戦闘が自慢だ。
その魔法の効果がいまいちだとなると、戦い方も微妙に変えないといけないかもしれない。
「ハァッ!!」
これからの戦い方を考えている俊輔に対し、オエステはまたも攻めに動く。
魔法防御に自信があるからのこその突進のようだ。
「オラオラッ!」
「フッ! ハッ!」
あっという間に俊輔へと接近したオエステは、そのまま拳を振り回す。
俊輔はその攻撃を両手の木刀を使って防ぐ。
攻撃のオエステ、防御の俊輔という構図になっていた。
「ダリャ!!」
「っ!!」
両拳による連打を防いでいると、オシアスは最後にアッパーを放ってきた。
それを木刀をクロスして防いだ俊輔は、そのまま数m後方へと吹き飛ばされた。
「……おい! その木剣はどうなってやがるんだ?」
「……どういう意味だ?」
殴り続けて吹き飛ばしたオエステは、何となく訝し気に問いかけてくる。
問いかけらえた俊輔は、何故木刀のことが気になっているのか分からず問いかけ返した。
「いくらお前が魔力で強化しているからって、俺の攻撃を受けても折れやしないじゃねえか」
『……なるほど』
どうやら先程の攻撃は、俊輔に当てることよりも防御させることが目的だったようだ。
自分の攻撃力なら、防がれたとしてもその武器を破壊できるとオエステは思っていたのだろう。
しかし、その狙いが外れ、俊輔の武器にはヒビ1つ付いていない。
そのことが気になったための質問のようだ。
「そんなの当たり前だ。この2本は強化に強化を重ねた逸品だからな」
東と北と西の危険なダンジョンを攻略するには、強力な武器が必要だった。
そのために、俊輔はダンジョン内で出現する魔物を倒し、その魔物から取れる素材を利用して錬金術を使用して武器を強化してきた。
ただの木刀が、今では鉄なんかよりも硬くなっている自信がある。
だから、いくら強力な攻撃だろうと、壊れる心配なく防御に使用できるのだ。
「へぇ~、面白い。お前を倒してそれを手に入れるのも楽しそうだな」
「やれるもんならやってみろ!」
自信満々の俊輔の言葉に、オエステは笑みを浮かべる。
そして、どうやらこの木刀に興味を持ったようだ。
まだどちらが有利ともなっていない状況だというのに、オエステは勝つ気でいる発言をした。
それを聞いた俊輔は、若干挑発するように返答したのだった。




