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第266話

「もらった!!」


「くっ!」


 地面の震動によって体勢を崩している俊輔。

 その隙をついて、オエステが殴りかかってくる。

 魔闘術によって強化された右拳が、轟音を立てるように無防備な俊輔へと迫り来る。

 そして、オエステの拳が直撃し、俊輔はかなりの距離を吹き飛ばされていった。


「……何だ? 今のは……」


 先程の感触を不思議に思い、オエステは小さく呟く。

 自分の拳が俊輔に当たると思った直前、何か膜のような物に当たったことで威力を抑えられ、殴った感触はあっても大ダメージを与えたという確証が得られなかった。

 これまで感じたことないような感触に戸惑いながらも、オエステは俊輔の後を追いかけていった。


「オラッ!!」


「っ!!」


 飛ばされた俊輔が着地する。

 そこに追いついたオエステが、追撃とばかりに左拳を突き出してきた。

 その攻撃を受け、俊輔はまたも吹き飛ばされた。


「…………」


 たしかに自分の攻撃は、あの人族に当たっている。

 しかし、またも感じた手の感触に、オエステは納得いかない表情のまま俊輔の後を追いかけた。


「……ここでいいか」


「……?」 


 着地した瞬間にまたも殴りかかろうかと思っていたが、俊輔の呟きにオエステは足を止めた。

 どういう意味なのか分からないが、まるで意図して攻撃を受けていたかのような物言いだ。


「……なるほど、どうもおかしいと思ったぜ」


「……何だ、気付いたか?」


 樹々が開けた周囲を見渡して、オエステは俊輔が何が言いたいのか理解した。

 あの程度の殴った感触で、ここまで飛ばされて来るなんておかしい。

 しかも、かなりの距離飛んで来るような攻撃を受けたはずなのに、俊輔は何ともないような表情で立っている。

 つまり、ここまで来るためにわざと飛ばされてきたと言うことだ。


「あっちと距離が取れて安心したか?」


「あぁ、みんなに被害が行くのは迷惑だったんでな」


 オエステの問いに、俊輔が返答する。

 ここまで飛ばされて来た理由。

 それはつまり、仲間との距離を取ってオエステと戦うためだ。

 魔物と戦う京子たちとドワーフ兵たち。

 そこから少し離れた位置で動物の魔族たちを倒し、次にオエステと戦うことにしたのだが、魔闘術の魔力を見る限り充分な距離ではないと判断した。

 自分とオエステが戦えば、もしかしたら京子たちに魔法の流れ弾が飛んで行ってしまうかもしれない。

 それを回避するべく、俊輔は攻撃を受けたようにしてあの場から離れることを決めたのだ。


「道理でダメージを受けた様子もないし、殴った感触がおかしかったわけだ」


 殴った感触は微妙で、俊輔はピンピンしている。

 あの感触でここまで飛ばされるような奴が、部下たちを倒せるわけがない。

 あの膜のようなものは分からないが、ここまで飛んでくるために殴られたのなら納得できた。


「地魔法を利用した戦闘方法。たしかに他の魔族とは違うな」


「そりゃどうも」


 魔物や魔族でも魔法を使った戦闘方法をおこなったりしてくるが、ただ魔法を放ってくるだけということが多い。

 それに引きかえ、先程のオエステの使い方は普通の人間のようにうまく使いこなしている。

 本性を現した状態でも、ある程度の冷静さを持っているということだろう。

 そう言った意味では他とは違うため、俊輔は素直にオエステのことを褒め、オエステは受け流すように返答をした。


「離れるのが目的だったのはいいが、良かったのか?」


「……何がだ?」


「俺の魔物はそんじょそこいらの魔物じゃない。今頃お前の仲間やドワーフたちは血祭りになっている所だろうぜ」


 先程の俊輔の防御のことは理解できていないが、わざわざここまで来たことの理由は分かった。

 オエステとしても、配下の魔物たちが巻き添えで死んでしまったら、自分がこの人族を倒した後に動かなければならない。

 そうならないためにも、この状況はこっちとしても助かることだ。

 しかし、この人族にとっては本当にこうした方が良かったのか疑問に思える。

 俊輔の倒したとは言っても、魔族たちが出現させた魔物は目の前にいる人間たちに襲い掛かっている。

 それだけでも大量だが、それにプラスするようにオエステの配下の魔物たちもドワーフたちを攻めている。

 特に自分の配下の魔物の実力には自信のあるオエステは、離れたことで仲間を助けに行けないことを示唆した。


「……それはないな」


「何?」


 煽るようなオエステの問いに、俊輔は平然とした様子で返答する。

 あまりにもあっさりとした返答のため、オエステはその自信の根拠を疑問に思った。


「俺の仲間たちはお前の出した魔物なんかより強いからだ!」


 俊輔の返答はシンプルなものだ。

 自分の仲間たちを信用しているからこそ、自分はオエステを引き連れて離れたのだ。






「俊ちゃん……」


「心配なのは分かるが、あいつなら何とかするだろ」


「あぁ、彼なら放って置いても大丈夫よ」


 離れた所で魔族と戦っていた俊輔。

 一旦周囲の魔物を倒しきった京子は、俊輔が殴られて飛んで行ってしまったことに心配そうな声をあげる。

 そんな京子に、カルメラとミレーラが声をかける。

 京子ほどでの付き合いではないが、彼女たちも俊輔の強さを理解している。

 その俊輔がそう簡単にやられるとは思えなかったため、先程の光景を見てもあまり心配していない様子だ。


「そうね。こっちはこっちで頑張らないと」


 カルメラとミレーラの言葉を受け、京子は気持ちを切り替える。

 目の前には、数多くのアニマル型の魔物が勢ぞろいといったところだ。

 俊輔が魔族の数を減らしてくれたことにより、無限のように魔物を出現させていた魔法陣の多くが消え去った。

 しかし、出現してしまった魔物は倒さないとどうにもならない。

 ドワーフ兵と共に戦ったことで数は減りつつあるが、獅子などの魔物が背後に控えている。


「ネグちゃんよろしくね?」


「ピー!」


 超危険なダンジョンで鍛えたとは言っても、いまだに自分よりもネグロの方が強い。

 そのため、京子が期待の言葉をかけると、ネグロは嬉しそうに返事をする。


「…………」


「あっ! アスルも期待してるよ」


「……【了解っす】!」


 京子がネグロの頭を撫でると、俊輔の従魔のアスルも期待したように見つめていた。

 それに気付いた京子は、すぐにアスルにも期待する言葉をかける。

 その言葉を待っっていたアスルは、素直に受け取り嬉しそうに念話で呟き、羽をバタつかせた。


「頑張りましょう!」


「あぁ」「えぇ」


 京子たちが一息ついている間、ドワーフ兵たちが魔物と戦ってくれている。

 今の所死人は出ていないが、大怪我を負うもの少数ながらいる。

 彼らに任せておく訳にもいかないので、ほんの僅かの一時休憩を済ませた京子たちは、また迫り来る魔物たちと戦い始めたのだった。



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