第265話
「仲間ごと潰そうなんて、魔族ってのはクソだな」
先程までいた場所にできたクレーターを見て、俊輔は責めるように文句を言う。
魔族同士がどういう関係なのかは分からないが、どうやらこの魔族たちは仲間意識が無いようだ。
「ぐっ……申し訳…ありません」
クレーターを作った猿魔族は、俊輔を倒せなかったことをライオン魔族に申し訳なさそうに呟く。
先程の攻撃で魔力を使い過ぎたせいか、足元がふらついている。
恐らく魔力切れ寸前といった状態なのだろう。
「チッ!」
「っ!?」
猿魔族の謝罪の言葉に対し、ライオン魔族は舌打ちと共に拳を振る。
その拳が顔面に当たり、猿魔族は頭が吹き飛んだ。
「使えない奴め!」
魔力枯渇により、猿魔族はこれ以上の戦闘に役に立たない。
仲間を犠牲にしても倒せないという無様な姿に、心底無価値と判断したようだ。
「……お前魔族の中でも最低な部類みたいだな」
人間を襲うという行為は、魔物や魔族にとって本能に近いものなのかもしれない。
なので、今さらそれに文句を言うつもりはない。
しかし、魔物でも仲間意識があるのが普通だというのに、知能を得た魔族になるとそれすらもなくなってしまうのかと聞きたくなる。
人間でも同じような者はいるが、俊輔としてはそう言った奴らが特に気に入らない。
そのため、俊輔はライオン魔族を睨みつけるように眉をひそめた。
「フンッ! 同じ魔族でも雑魚どもがいなくなったといって調子に乗るなよ」
半分は自分たちで同士討ちしたに過ぎないが、部下の魔族たちが殺られた。
しかし、所詮は下っ端の魔族たちという思いがあるのか、ライオン魔族はなんてことないように呟く。
「貴様を倒すことなんてこのオエステ様1人で充分だ!」
「……口だけじゃないみたいだな」
言葉と共に魔力を放出し始めるライオン魔族。
どうやらオエステという名前らしい。
その放出した魔力は、たしかにさっきまで相手にしていた動物系の魔族たちよりレベルが違う。
その魔力による魔闘術を見る限り、魔族の中でも相当な実力なのだろう。
「ところで……、お前エステとかいう奴知っているか?」
魔族のオエステという名前を聞いて、俊輔はすぐにある人物の顔が思い浮かんだ。
似たような名前の魔族のことだ。
同じ魔族なのだから知っているのかと思い、俊輔は問いかけた。
「っ!? 貴様なんであいつの名を……」
聞かれたオエステは、驚いたように声を漏らす。
ここにはいない魔族の名前を、目の前の人族がどうして知っているのかと不思議に思ったからだ。
しかも、よりにもよってオエステにとって一番嫌いな相手の名前だ。
その名前が出たことで、オエステは更に怒りの表情を強めた。
「少し因縁があってな……。いつかぶっ飛ばしてやろうと思ってるんだ」
昔に乗っていた船を潰され、日向の南にある不可侵ダンジョンに流された。
そして、そのダンジョンの中で何度も死ぬ思いをしたことを思いだす。
その島での生活が、自分が強くなるきっかけになった。
だからといって感謝する思いはない。
ダンジョン攻略のために、何度死ぬ思いをしたか分からないからだ。
船の上で見た、あの時のエステの笑顔は今でも腹立たしくて仕方がない。
次会うことがあったなら、何としてもぶん殴りたい。
「ハッ! 気が合うな。俺もヤロウをぶっ飛ばしてやりてえと思ってるんだ」
俊輔の恨みのこもった目に、オエステも賛成する。
不可侵ダンジョンに生物を送り込み、魔王を復活させるというのが今いる魔族の願いだというのに、エステはそれを真面目にやろうとしていない。
自分も部下任せな所が時としてあったが、エステの場合それすら無い感じで、全くやる気がないとしか言いようがない。
そんな奴が幹部としているのが、オエステとしては気に入らないのだ。
「まぁ、お前があいつに会うことはないがな」
「それはこっちの台詞だ」
お互いエステに関して同じ思いをしている同士のようだが、それはここでの戦いに勝った方にしかありえない。
そのことを言って来るオエステに対し、俊輔もそのまま言い返した。
手甲を付けているところを見る限り、オエステは徒手空拳での戦闘が得意なタイプのようだ。
それに対して、俊輔はいつものように2刀流スタイルで構えを取る。
「ハァー!!」
「っ!!」
先に動いたのがオエステ。
高速の突進力によって、俊輔との距離をあっという間に詰めてきた。
さっきまで戦っていた魔族たちと比べると、倍近い速度で動いている。
その速度のまま左拳によるオエステの攻撃を、俊輔は左手に持つ小太刀の長さの木刀で受け止めた。
オエステの拳が小太刀に当たった瞬間、その衝撃に俊輔は驚く。
本性がライオンの姿からなのか、速度よりもパワーの方が自慢のようだ。
小太刀で受け止めた俊輔は、そのまま抑え込むのは悪手と判断し、力に逆らわないようにわざと後方へ飛ばされる。
「オラッ!」
流れに逆らわずに飛んだ俊輔が着地をすると、オエステは追いかけるようにして接近し、右の拳を振り下ろしてきた。
その攻撃を、俊輔は右へ飛んで躱す。
「地面が……」
俊輔が躱したことで、オエステの振り下ろした拳が地面を殴りつける。
それにより、殴られた地面が抉れると共に周囲にヒビが入り、小さな地震のような震動まで起きている。
直撃すれば骨が折れるだけでは済まないと目に見えて分かる。
恐らく、オエステもそれを俊輔に分からせるために攻撃を止めなかったのかもしれない。
「ダリャッ!!」
「フンッ!」
「っと!!」
攻め重視の性格なのか、オエステはまたも俊輔を追いかける。
そして追いつくと、右ロングフックをかましてきたので、俊輔はそれに小太刀で受け流しながら木刀をオエステの側頭部へと振る。
その攻撃を、オエステは手甲で受け止めて防御した。
「ハハッ! 面白え!!」
「見た目通りの脳筋か……」
一連の攻防の後、2人はお互い距離を取り合った。
そして、短い攻防で実力が伯仲していることを察したオエステは、嬉しそうに笑みを浮かべた。
その笑みを見て、俊輔は面倒くさい相手を見るように呟いた。
「ハッ!!」
「っ!!」
タックルに行くような前傾姿勢になり、オエステは態勢に地面に手を突く。
その状態のまま、オエステは魔法を発動する。
それにより、俊輔の足下が震動する。
「ヒャッハー!!」
地面の震動によってバランスを崩した俊輔に対し、オエステはそのまま襲い掛かっていった。




