第２６２話
「我らが悲願、魔王様復活を阻止するとは許せん！」
２足歩行のライオンといったような姿をしている１人の魔族が、高高と声をあげる。
近くには仲間らしき数人の魔族たちも存在しており、その周囲には多くの魔物が囲んでいる。
ドワーフ兵たちも町へ近付かせまいと、防壁の上で武器を構えて対峙している。
いつぶつかり合ってもおかしくない状況だ。
「お前ら！ 全員皆殺しにしろ！！」
「「「「「ハッ！！」」」」」
ライオンの魔族の指示に従い、他の魔族たちは自分の操る魔物たちをドワーフ兵へと襲い掛からせた。
どうやらライオン魔族がこの集団のトップらしい。
そして、その部下の魔族たちも動物系の魔族なのか、操るのは様々な動物系魔物だ。
「町に近付けるな」
「「「「「おうっ！！」」」」」
防壁へと向かって来る魔物へ向けて、ドワーフ兵たちは魔法や矢を撃ち放つ。
しかし数が多く、攻撃を逃れた魔物たちは体当たりをして防壁を破壊し始めた。
「ネグ！！」
「ピ～！！」
俊輔の言葉を受けて、ネグロが防壁の上空へと飛び上がる。
そして、おびただしい程の数で防壁へと向かって来る魔物に対して、ネグロは強力な魔法を放った。
ネグロの魔法によって大量の水が出現し、迫り来る魔物たちとドワーフ兵たちが倒した魔物の死体を一気に流しさった。
「なっ！！ 何だあの丸烏は……」
突如現れた丸烏が強力な魔法を放ったことに、魔族だけでなくドワーフ兵たちも驚きの声をあげる。
弱小魔物でおなじみの丸烏が魔法を放っただけでもあり得ないというのに、強力な魔物の大群をあっという間に倒してしまったのだから驚くのも無理ないだろう。
「ナイスだ！ ネグ！」
「ピ～♪」
城から走って追いついた俊輔は、防壁の上に登ってネグロに声をかける。
それを受けたネグロは、空から降りてきて俊輔の手の上に乗る。
一気に魔物を減らしたことを褒めるように、俊輔はワシワシと手に乗るネグロを撫でてあげる。
俊輔に撫でられてネグロは、嬉しそうに声をあげた。
「こんな魔法を使う従魔を持っているということは、ダンジョンを攻略したのは貴様か！？」
「あぁ、そうだ」
とんでもない魔法を放った丸烏が、突如現れた人間にすり寄っている。
それを見て、あの丸烏がその人間の従魔だということを悟ったライオンの魔族は、離れた位置からでかい声で話しかけてきた。
それに対し、俊輔は魔力で声を大きくして返答する。
「おのれ！！ 俺の長年の努力を無駄にしやがって！！」
俊輔がダンジョン攻略者だと知って、ライオンの魔族は怒りで地団太を踏む。
これまで多くの生物をダンジョンに送り、魔王復活を早めようとしてきた。
推測としては、あと数年以内に魔王復活ができると踏んでいたのだが、今回の攻略によって数十年は復活する時期は遅くなった事だろう。
余程苛立たしいのか、踏みしめた地面にひびが入っている。
「お前たち！！ あいつを殺せ！！ 復活したダンジョンの餌にしてやる！！」
「「「「「ハッ！！」」」」」
今回攻略されてしまったが、封印されている魔王がこれまで溜め込んでいた魔力を使うことによってダンジョンは復活するはずだ。
その時に、攻略者であるこの人間をダンジョンの栄養としてやらないと気が済まないライオンの魔増は、他の魔族たちに向かって俊輔を殺すことを指示した。
それに応えるように、部下らしき魔族たちはまたも自分たちの配下の大量の魔物を防壁の破壊をさせるように仕向けた。
ネグロの魔法によって押し流された魔物たちだったが、多少の数は減らせたとは言ってもまだまだ大量に生き残っている。
日向の時のように、あっという間に全滅させるということはできなかった。
それだけ魔族の連れてきた魔物が強力だということだろう。
「みんなは魔物を頼む」
「うん！」「了解！」「分かった！」
魔法陣を使って魔物を呼び出しているため、倒すべきはまず魔族だ。
しかし、魔族たちに近付くには魔物を始末しなければならない。
ダンジョンの魔物に比べれば、迫り来る魔物たちはたいしたことないはず。
彼女たちなら何とかしてくれるだろうと、俊輔はその役目を京子たちに任せることにした。
京子・カルメラ・ミレーラの３人は、俊輔の頼みに返事と共に頷いた。
「ネグ！ アスル！ 京子たちを守ってくれ」
「ピー！」「…………【了解っす】！！」
いくら京子たちがダンジョンで強くなっているとは言っても、数が多くては怪我を負いかねない。
そのため、俊輔は自分の従魔であるネグロとアスルに、彼女たちの援護を頼むことにした。
主人である俊輔の頼みのため、２人（２羽）とも了承の返事をする。
「よっと！」
「「「「「っ！？」」」」」
魔物は京子たちに任せ、俊輔は一足飛びで魔族たちのいる近くへと着地する。
たった１人で自分たちの前に現れた俊輔に、魔族たちは驚きと共に身構えた。
「……まさか我ら相手に一人で挑んでくる気か？」
「そりゃそうだろ？ お前らダンジョンのボスより弱いだろ？ あのライオンの前の準備運動させてもらうよ」
俊輔がゆっくりと木刀を構えたのを見て、魔族たちが問いかける。
ダンジョンを攻略したからといって、この人数相手にして人間風情が勝てるわけはない。
気でも狂ったのかと思ったが、俊輔の返答は明らかに魔族たちを下に見る発言だった。
「「「「「舐めるな！！」」」」」
明らかにふざけた態度に、魔族たちはあっさりキレた。
ライオンの魔族以外の１０人の魔族たちが、人型から本性を現した状態へと変化し、俊輔へと襲い掛かっていった。
「大体、お前らうざいんだよ。毎回毎回旅行先に現れやがって……」
代わる代わる攻撃してくる魔族たち。
それをひらりひらりと躱しながら、俊輔はうんざりするように呟く。
京子との新婚旅行として世界を回っているが、行く先々で魔族が姿を現してくる。
せっかくの旅行を邪魔されて、昔からずっと不愉快な存在だ。
今後も関わってくることがないように、数は少しでも減らしたい。
そのため、俊輔はここにいる魔族たちを全員始末することにした。
「お前ら全員皆殺しにしてやる！」
「「「「「なっ！？」」」」」
獲物を見るような笑みを浮かべ、俊輔は魔闘術の魔力を増量した。
その魔力量に、魔族たちは冷や汗を流して一瞬攻撃の手が止まった。
「怯むな！ 攻めかかれ！」
「「「「「お、おうっ！」」」」」
ライオンの魔族の声によって、俊輔の魔力に圧されていた魔族たちの硬直が解ける。
そしてまたも俊輔へ向かって攻めかってきたのだった。
