第261話
「という具合に、俺が攻略する間、彼女に仲間の強化に参加してもらいました」
ダンジョン内で遭遇したミレーラ。
30年間生き残っただけあって、かなりの戦闘力を持っていた。
しかし、俊輔の実力を知り、これまでの緊張の糸が切れたのか、攻略に力を入れることをやめた。
俊輔がネグロと共に攻略に向かうので、その代わり30年生き残った術を京子やカルメラに教えてもらうことにした。
その甲斐もあってか、京子たちのレベルアップができたように思える。
「ミレーラ……、30年前にダンジョン攻略に向かった団体にそんな名前が……」
ドワーフ王国の宰相は、昔の資料を持ってきて調べ始める。
魔王復活を阻止するためにダンジョン攻略を目指したが、なかなか成果が出せないでいた。
そのため、同盟国から実力者を募って、集団による攻略を目指してもらったのだが、中に入った者は帰ってくることはなかった。
「ありました! エルフの女性でミレーラ。たしかにあります」
資料を見ていた宰相が、ドワーフ王フィデルに話す。
ダンジョンに入る前に記録していた名簿の中に、確かにエルフの女性の名前があった。
彼女の言うように、30年間ダンジョン内で生き残っていたということだ。
「30年もの間1人で生き残っていたか……」
何もかもが驚きの話だ。
まずは、30年前のメンバーが1人残して全員死んでしまったこと。
魔人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族の4種族。
その中でも実力のあるメンバーたちで組んだ団体だった。
入った人間が誰も脱出できないことからダンジョン内がどうなっているか分からないが、魔物の強さが尋常じゃないということは分かっていた。
しかし、彼らならきっと攻略してくれると思っていたのに、ほぼ全滅なんて信じられない。
次に、生き残っていたミレーラも驚きだ。
仲間と共にダンジョン深くまで入ってしまったことで、戻ることも進むこともできなくなってしまった中、1人でずっと魔物に警戒しながら生きるなんて、その精神力の強さに驚嘆する。
最後の驚きは、その30年でも攻略できなかったダンジョンを攻略した俊輔だ。
しかも、俊輔は東と北のダンジョンまで攻略しているという話だ。
魔族が魔王復活に暗躍するこの世界において、彼が人類にとって唯一の救いなのかもしれない。
「よく生き残った。攻略は俊輔殿の成果だが、それに助力したことに感謝申し上げる」
「……ありがとうございます」
申し訳ないが、フィデルは30年前の人間は誰も生きていないと思っていた。
それが、1人とは言え生き残ってくれていたことを嬉しく思う。
しかも、ダンジョン攻略による魔王の復活を遅らせることに助力することになったのだから、王という立場関係なくフィデルは感謝の言葉とともにミレーラへ頭を下げた。
まさか1国の王に頭を下げられるとは思っていなかったため、ミレーラは戸惑いながら返答することになった。
「俊輔殿たちには本当に感謝申し上げる。手に入れたい魔道具があれば好きなだけ言って下され」
30年前の彼らが帰還しないことで、フィデルは魔王復活阻止は半ば諦めていた部分があった。
それが、たまたま現れた人族によって攻略された。
ドワーフをはじめとする他種族にとって、人族は迷惑をかける国という印象しかなかったが、今回のことで少しは見直した。
ただ、日向という国はエルフ王国初代国王の妻も日向だったということから、同じ人族でも別という印象を持っていたので、他の人族の国への対応を変えるつもりはない。
魔道具で釣るようなことになってしまったが、魔王復活の阻止をしたのだから安く済んだと言っていいだろう。
魔道具なんかで良いのなら、好きなだけ持って行ってもらいたい。
「よっしゃ! 頑張った甲斐があったぜ!」
東のダンジョンは青龍、北は玄武だったこともあり、今回の最下層エリアのボスは白虎だった。
やはり、四神を模したボスで速さに手こずることになったが、何とか倒せたと言ったところだ。
ドワーフオリジナルの魔道具なんて、人族では手に入れることなんて無理だと言われている。
それが好きなだけなんて、攻略した甲斐があるというものだ。
「陛下!!」
「どうした!?」
感謝の言葉を伝え、これから魔道具のカタログでも見てもらおうと思っていた所へ、兵士が慌てたように玉座の間へと入ってきた。
せっかくの楽しい気分が台無しになったような気分だ。
しかし、兵士の様子からただ事ではないと感じ取ったフィデルは、すぐに兵へと問いただした。
「魔族が攻めてきました!」
「何っ!?」
「「「「っ!?」」」」
魔王復活の阻止をおこなったばかりだというのに、またも問題が発生した。
まさかの発言に、フィデルだけでなく俊輔たちまでもが驚きの表情へと変わった。
「こんな時に!?」
攻略がされたことで、現在脱出不可能な結界が消えている状況だ。
地下に封印されている魔王の力によって、ダンジョンは数日間破壊された核の回復に充てられることになる。
その間、脱出不可能な結界が消えているため、少しでもダンジョンの内部の調査をおこなっておきたい。
結界回復の後、再度攻略を目指した時に役に立つかもしれないためだ。
その貴重な時期に、突然の魔族の出現。
最悪なタイミングに、玉座の間にいた者たちの空気は一気に凍てついた。
「ったく! 相変わらず迷惑な奴らだ……」
「俊輔殿!? 行ってくれるのか?」
魔族の出現を聞いた俊輔は、軽い準備運動をしながら呟く。
そして、すぐに玉座の間から出ていこうとする。
その姿を見て、フィデルは魔族と戦いに行こうとしていることに気付く。
いくら強いといっても、俊輔はダンジョンの攻略をしたばかり。
怪我などは回復魔法で治っているだろうが、疲労が残っているはずだ。
そんな状態で、当たり前のように戦いに行こうとしていることに驚きを覚える。
「もちろん。魔族は毎回旅行の邪魔をしてくる奴なので……」
「旅行? ……ともかく助かる。我が国の兵と共に魔族を倒してほしい」
「任せてください」
理由はよく分からないが、どうやら魔族と何か因縁があるような物言いだ。
魔族を倒せるならありがたいと思い、フィデルは俊輔へ魔族の退治をお願いした。
「行ってきます」
フィデルへ軽く会釈し、俊輔たちは玉座の間から出ていったのだった。




