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第257話

「ハァ~……」


「どうしたの? カルメラ」


 不可侵領域とも呼ばれる危険ダンジョンに入った俊輔たち。

 1ヵ月経った日の夕食時、カルメラが表情暗く大きくため息を吐いた。

 それが気になった京子は、心配そうに問いかけた。


「出てくる魔物が最高レベルできつい……」


 俊輔たちの強さを知りたいという思いがあって付いてきたカルメラだったが、最初からかなりの苦労を強いられていた。

 何せここの魔物は、大陸の中で1番危険といわれている魔人大陸と同等レベルの魔物ばかりが出現してくるのだ。

 なるべく単体を相手に戦い始め、少しずつ数を増やしても大丈夫なように訓練を重ねてきた。

 俊輔の従魔でダチョウ型魔物のアスルが補助として付いているが、それでもカルメラは毎回必死な思いをして魔物を倒してきた。

 気の休まる時がないことで、ストレスが溜まっているのかもしれない。


「ここにきてようやくお前たちが普通じゃない理由が分かったわ……」


 休みなく緊張状態でいる自分とは違い、この中に入っても俊輔たちはこれまでと変わらないように過ごしている気がする。

 いくら同じようなダンジョンに入った経験があるといっても、俊輔たちのようにはなかなかなれず、それだけ実力差があるのだとカルメラは改めて感じていた。


「酷い言われようだな……」


 カルメラの言いようは、自分たちがまともな人間でないと言っている気がする。

 人外認定されたような気がした俊輔は、カルメラの意見に不満そうに呟く。


「そうよ!」


「おぉ! 京子言ってやれ」


 カルメラの意見に不満をもったのは、京子も同じだったようだ。

 援護を期待した俊輔は、京子に反論するようにを煽り立てる。


「おかしいのは俊ちゃんだけよ!」


「おいっ!」


 味方してくれるのかと思ったのだが、京子は自分と同じ扱いにされたことを不満に思ったらしく、カルメラに文句を言った。

 京子の思わぬ意見に、俊輔はツッコミを入れた。


「冗談は置いておいて、攻略はどこまで進んでいるんだ?」


 俊輔たちがいないと、カルメラは1日中魔物による緊張を受け続けている。

 護衛代わりに俊輔の従魔のアスルが付いているとは言っても、気が休まる時はない。

 そのストレスをぶつけて少し気分が軽くなったカルメラは、俊輔たちの攻略具合を尋ねることにした。


「私とネグちゃんは19層。明日は20階の階層主を倒しに行くつもりよ。ね?」


「ピー!」


 東と北の時と同様に、ダンジョンは地下へと階層が広がっている。

 京子とその護衛代わりにつくネグロは、その中で19層まで進んでいた。

 10の倍数階にはボスのような魔物が出現する。

 そこら辺に出る魔物よりも強いため、体調万全で挑むのが最適だと考えている。

 そのため、京子たちは今日挑むのをやめて戻ってきたようだ。

 京子に同意を求められたネグロは、肉を食べるのを一旦やめて返事をした。


「……私が2、3層で苦しんでいるというのに、もうそこまで……」


 地上にいる魔物に慣れるまで何日もかかったカルメラは、ようやく地下へと入るようになったばかりだ。

 しかも、時折アスルに助けてもらっているので、1人で自由に動き回れているという訳ではない。

 なんとか強くなって攻略に関わりたいと思っているが、京子たちとの実力差がなかなか縮まっていないことを感じ、若干落ち込んだような反応をした。


「そうか……、20層は泡蟹だ。泡に色んな能力を付与して攻撃してくるから気を付けろよ」


「うん!」


 京子やカルメラと違い、俊輔は単独行動をしている。

 1人で先に進む俊輔は、20層のボスを体験済みだ。

 20層のボスは巨大な蟹で、口から泡を吹いて攻撃してくるため、俊輔は泡蟹と名付けていた。

 泡蟹は、吐き出す泡に魔力を込めることにより、敵にダメージを与えてくる。

 その攻撃に気を付けないと結構な痛手を負いかねないため、俊輔は京子へ攻略のアドバイスをした。


「ネグは京子のことを頼むな?」


「ピー!」


 恐らくあの泡蟹ならネグロでも倒せるだろう。

 魔法特化の戦闘スタイルのネグロなら、泡蟹のしてくる泡攻撃なんて全て打ち壊しそうだ。

 しかし、この戦いは京子の修行もかねているので、俊輔はネグロに危険な時以外は手を出さないように言っている。

 あくまで京子の護衛役としてネグロについてもらっているのだ。

 出来れば主人である俊輔と一緒にいたいのだが、他ならぬ俊輔の頼みのため、ネグロは元気に返事をした。


「俊ちゃんは?」


 はっきり言って、京子は自分が攻略できると思っていない。

 この世界のダンジョンには、ゲームなどのように安全地帯がなく、あえていうのであれば俊輔が作り出した地上にある拠点だけが安全地帯といえる。

 東西南北にある危険なダンジョンは、転移魔法がないと攻略できない。

 地下へ地下へと進んで行っているが、毎回京子は俊輔の転移魔法によって送り迎えしてもらっている状況だ。

 転移魔法を覚えない限り攻略は無理だろう。

 その転移魔法を使える俊輔は、一体どこまで進んでいるのか気になり、カルメラから引き継ぐようにして京子は俊輔の攻略具合を尋ねた。


「俺は43層まで攻略した」


「「43層!?」」


 俊輔の言葉を聞いた京子とカルメラは、合わせるように大きな声をあげて驚いた。

 1ヵ月で43層なんて、1日1階層以上の速度で攻略していっているということになる。

 階層ごとに種類の違う魔物が出るため、その階に慣れるのに何日もかかるものだ。

 それをあっさりと攻略していっている俊輔に、驚かない方がおかしいというものだ。


「まだ1ヵ月なのに……」


「なんて速度だ……」


 東と北の2つを攻略しているとは言っても、あまりにも速すぎる。

 俊輔の非常識の実力に、京子とカルメラは唖然とした。 


「やっぱり俊ちゃんはおかしいよ!」


「だな!」


 さっきは冗談で言っていたのだが、俊輔の異常さに京子とカルメラは今度は本気で言ってきた。

 強力な魔物ばかりが存在するダンジョンを、平気で攻略していっているのだからそう考えてもおかしくない。


「……ひでえ」


「ピー……」


 真面目に攻略をしているだけなのに異常者扱いを受け、俊輔は若干傷ついたように呟く。

 その俊輔を、ネグロは慰めるように声をかけた。


「ネグ……」


 従魔に慰められた俊輔は、現実逃避するようにネグロを撫でて癒されることにしたのだった。



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