第256話
「よろしかったのでしょうか?」
ドワーフ兵のサロモンは、予定通りに俊輔たちを危険ダンジョンに送ったことを、玉座に座るドワーフ王国国王のフィデルに報告した。
俊輔たちを送ることは、フィデルが決めていたことのため、サロモンはそれに従った形になる。
しかし、これまで多くの人間が中に入って出てこれなくなっている。
そのことを考えると、サロモンは俊輔たちに申し訳なく思い、不意に呟いた。
「んっ? 何がだ?」
「あの方たちにダンジョンの攻略を任せてしまったことです」
サロモンの呟きに、フィデルは首を傾げる。
あのダンジョンは、攻略しないと魔王が復活すると伝えられて来たが、危険すぎて誰も攻略ができないでいた。
魔王のことを考えると放置しておく訳にはいかないため、誰かを送らなけらばならないというのは何年も前から言われていたことだ。
そのため、フィデルは決まったことにサロモンがためらう理由が分からないでいた。
サロモンの思いとしては、ドワーフの手で管理すべきダンジョンを、客人である彼らに任せたのがためらわれたのだ。
「俊輔殿たちも了承してくれたではないか?」
「えぇ、そうなのですが……」
ドワーフ王国は、攻略できそうな人間を種族に関係なく探していた。
何の変化もなく、魔王の復活は阻止できないと思うようになっていたが、この数年で東西南北にある4つのダンジョンのうち、東と北のダンジョンに異変が起きた。
何者かによりダンジョンが攻略され、危険度が一気に下げることに成功した。
得意の魔道具により、ドワーフ王国はその攻略者を探すべく動いていた。
そして導き出した攻略者が、俊輔たちだった。
「東と北の攻略者は本当に彼らなのでしょうか?」
「捜索班は可能性が高いと判断した。それにもう入ってしまったのだし、彼らを信じて待つしかあるまい」
「そうですね……」
攻略者として導き出された俊輔たち一行。
そんな彼らが魔人大陸に来て、エナグア王国では戦闘部隊の隊長であるブラウリオも苦戦した魔族も倒したという話だ。
そんな彼らがドワーフ王国へ来たがっていると聞いて、フィデルはすぐに受け入れることを決意した。
中には人族だからという理由で止める者たちもいたが、そんな事にこだわっていてはいつまで経っても攻略などできない。
そんな者たちを、フィデルは自己の判断によって抑え込んだ。
そもそも、もう俊輔たちを送ってしまった後だ。
攻略者を探すために組織された捜索班を信じ、俊輔たちが攻略することを待つしかないだろう。
フィデルの言葉に、サロモンは頷くしかなかった。
◆◆◆◆◆
「何っ? 西のダンジョンに……」
「はい。何者かが侵入したとのことです」
俊輔たちがドワーフ島にある西のダンジョンに入ったことは、魔族の者たちにも知れ渡っていた。
西の担当であるオエステは、部下からの報告に眉をひそめる。
このダンジョンの魔王の解放を指示され、色々な生物を送り込んで来たが、ドワーフたちの邪魔により思うように進んでいなかった。
「フンッ! 自分たちで栄養となる者を入れて奴らは何を考えているんだ?」
「全くです」
ダンジョン内で死んだ生物は、吸収されてダンジョンの養分となり、それが封印された魔王へと力が注がれることになる。
ドワーフ島に出現する魔物は、ドワーフ兵によって徹底的に駆除されるため、なかなかダンジョンに栄養となる生物を送ることができなかった。
それなのに、自分たちからダンジョンを成長させようとするような行為に、オエステは嘲笑うように呟いた。
それに部下の者も同意するように頷いた。
「……しかし、以前から30年は経っています。余程の者をいれたのでは?」
オエステの言葉に頷きはしたが、部下の者は若干の違和感を感じていた。
人族の場合、いまだに大なり小なり戦争が繰り広げられているため、国が滅んだりして正確にダンジョンのことが伝来されていないが、ドワーフは人族と違い、あのダンジョンの危険性を理解している。
前回ドワーフ王国が攻略を目指して精鋭を送り込んだのが30年以上前。
それも失敗し、魔王の復活を恐れる彼らが、復活を早めるような下手な人間を攻略に送り込むようなことはしないだろう。
「……攻略できる者と言うことか?」
「もしかしたらですが……」
超難関だと分かっているのに送り込んだということは、今度こそは攻略する自信があるのかもしれない。
それだけ実力のある人間を見つけたということなのだろうか。
「……東と北、ここ数年で2つが攻略されている。あながち間違いではないかもしれないな……」
可能性としては、あり得ないことではない。
この数年で、東と北のダンジョンが攻略されるということが起きた。
攻略できる者など、どこにも存在していないと油断していたのが間違いだった。
東のエステ、北のノルテのように、攻略されてダンジョンの脅威度が一気に落とされるようなことは避けたい。
そう考えると、このまま何もしないという訳にはいかない。
「西の管轄である私は同じ轍は踏んで堪るか! 今以上に魔物を送り込むぞ!」
「はい! 畏まりました!」
オエステの言葉に、部下の男は頷きを返した。
長い年月によって、ダンジョンは魔王への養分を送り込んでいる。
普通のダンジョンなら、核を破壊すれば消滅してしまうことがほとんどだが、あのダンジョンの場合は、魔王へ送った魔力を利用することにより核が再生されるという話だ。
つまり、攻略されればされるほど魔族の悲願とされている魔王の復活は遅れることになる。
人間に代わる存在となるためにも魔王の復活を求めているが、その思いは魔族によって熱量に差がある。
4つのダンジョンのうち、西の担当のオエステは魔王復活の推進派。
攻略されないように外から妨害するには、ダンジョンの領域内に養分となる魔物を送り込むのが手っ取り早い。
ドワーフ兵たちに気付かれないように、量より質で送り込んで来たが、その頻度を上げるしかない。
「……まさか、本当に攻略しないだろうな……」
東と北のダンジョンは、いくら妨害を碌にしなかったからといっても、オエステは攻略されるなんて想像していなかった。
2つのように自分の管轄のダンジョンが攻略されてしまうのではないかと、何となく嫌な予感のするオエステだった。




