第255話
「このっ!!」
「ギャウッ!!」
灰色熊を相手に剣を振るカルメラ。
熊の体を見れば分かるように、何度も斬りつけてようやく倒すことができた。
「はぁ~……」
倒れた灰色熊を見て、ようやく長い息を吐くことができ、それと同時にどっと疲れが湧いてきた気がする。
周囲に魔物がいないことを確認し、カルメラはその場へと座り込んだ。
「こんなのばかり相手にしないといけないというの?」
【そうっす!】
疲れた顔をして、側にいる俊輔の従魔のアスルに問いかける。
それに対し、アスルは念話で返答する。
主人である俊輔の指示により、アスルはカルメラの護衛として残っているのだ。
しかし、護衛と言っても、ここで生き残れる程度に強くなってもらうため、魔物の相手はカルメラにやらせている状態だ。
「魔道具が欲しいからってついてくるんじゃなかった」
【今更っすね】
危険なダンジョンだと言っていたが、地下に入っている訳でもないのにこれほどまでの魔物がうろついているなんて思ってもいなかった。
かなりの覚悟はしていたつもりだが、それでもまだ甘かったみたいだ。
こんな魔物を当たり前のように相手にしなければならないことに、カルメラは後悔したように呟いた。
北のダンジョンに入った経験もあったため、アスルにはこれが普通だと分かっていた。
そのため、カルメラの愚痴に対してツッコミを入れた。
「俊輔たちはこれ以上の魔物を相手にしているの?」
【そうっすよ!】
地上の魔物でも、魔人大陸に出現するような魔物が蔓延っている。
そうなると、攻略のために地下に入っていった俊輔たちは、もっと危険な魔物と戦っているということになる。
変異種のオンパレードといったような魔物を想像し、それだけでカルメラとしては身の毛もよだつ思いがしてきた。
「とりあえず、地上の敵は難なく倒せるようにならないとね」
【その意気っす!】
ここで生きていくことの難しさは理解した。
せめて地上にいる魔物を簡単に倒せるようにならないと、1人で行動することもできなさそうだ。
俊輔たちに付いてきたのも、ドワーフ特製の魔道具に釣られただけではない。
死んだ兄のシモン以上に強くなることも、カルメラの目的の1つだ。
こんな危険な地で生き延びられれば、その目的に近付けるはずだ。
強くなるために気合いを入れたカルメラは、立ち上がって次に戦う魔物を探すことにした。
「やっぱり俊ちゃんはすごいわね……」
「ピ~!」
カルメラとアスルを置いて地下に入った俊輔・京子・ネグロだが、そのうち京子とネグロは5階層まで来ていた。
こちらも京子が戦って、俊輔の従魔のネグロが見守る形をとっている。
ダンジョン攻略のために、俊輔は1人で先を進んで行ってしまった。
北のダンジョンで、上の階層の攻略は経験していたため、京子はこの階層の魔物を相手にしてもまだ余裕がある。
しかし、油断すると危険なことは変わりないのだが、俊輔はこの辺の魔物をまるで紙のように斬り殺していた。
そう考えると、やはり自分が選んだ旦那なだけはあると、改めて俊輔の凄さを感じていた。
俊輔を感心したように呟く京子に同意するように、ネグロも大きく頷いた。
「「っ!?」」
ネグロと話しながら5階層を進んでいた京子だが、突如魔物の気配を感じ取り、武器の木刀を構えた。
すると、樹々が生い茂る場所から魔物の大群がわらわらと姿を現した。
「カンパネロの……大軍ね」
どうやら、京子たちが来るのを待ち伏せていたようだ。
気配を消すことに特化した亜種なのか、結構近付くまで気付くのが遅くなった。
湧いてきた魔物により、周囲を囲まれてしまった。
「……面倒ね」
気配を消すのは上手いようだが、鑑定してみるとたいして強い訳ではないようだ。
周囲を囲って、数でボコるという戦法で獲物を狩っているのだろう。
京子の実力なら別に倒せない数ではないが、少々苦労しそうだ。
俊輔を追いたい京子としては、さっさと倒してしまいたいところだ。
「ピッ?」
「んっ? ネグちゃんがやってくれるの?」
「ピー!」
これまで京子が強くなるために手出しをしないでいたため、ネグロは暇だった。
たまには戦闘してみたいと思ったのか、京子にこの魔物たちの相手を任せて欲しいとジェスチャーで伝えてきた。
俊輔に次いで長い関係性があるからだろうか、京子はそのジェスチャーを読み解いた。
正解を出されたネグロは、大きく頷いた。
「じゃあ、お願いするね?」
「ピー!」
ネグロの戦闘となると、魔法による攻撃。
数を相手にするのは得意な方だ。
京子に魔物の殲滅を頼まれたネグロは、フンスとばかりに気合いを入れて魔力を練りだした。
「ピーー!!」
「「「「「ピギャッ!!」」」」」
魔力を練ったネグロは、少し上空から得意のレーザービームを360度目掛けて無数に発射させる。
それによって、カンパネロたちは光線を受けて全身が焼失して消え去ってしまった。
「……魔石ごと消しちゃったんじゃない?」
「……ピ~」
魔石は俊輔が錬金術で使うかもしれないから、出来る限り手に入れておくように言われている。
しかし、カンパネロは魔石も残さず焼失してしまった。
そのことに気付いた京子が問いかけると、ネグロはやり過ぎたといわんばかりに頭を掻いたのだった。
「巨大ネズミか……」
ネグロがやり過ぎていた頃、主人の俊輔はというと、10層のボス部屋に来ていた。
どんな魔物が出るのかと思っていたら、巨大なネズミが姿を現した。
「ギュッ!!」
「っと!」
そのボスらしき巨大ネズミが俊輔の姿を見ると、すぐさま攻撃をして来た。
前足による張り手のような攻撃を、俊輔はバックステップするようにして難なく躱した。
「大丈夫そうだな……」
10層のボスとしては、これまでの東と北のダンジョンと比べると僅かに上というくらいだろう。
これまでのダンジョンよりも、人間や魔物などの生物を吸収してきたのかもしれない。
しかし、上だと言っても僅かな差でしかないため、俊輔はホッとしたように呟いた。
もしもボスが強力なら、京子に戦わせることは考えることになっていたからだ。
この魔物程度なら、京子でも問題なく倒せる事だろう。
「さっさと倒して次へ行こう」
「ギャッ!!」
すぐに巨大ネズミの実力を把握した俊輔は、腰から木刀を抜いて一気に巨大ネズミに斬りかかった。
横一線に振ったことで、巨大ネズミの首に向かって魔力の刃が飛んで行く。
その刃によって、巨大ネズミの首が胴から切り離された。
「よしっ! 次いくか……」
巨大ネズミを倒した俊輔は、体内から魔石を回収した。
これまでの経験から、サクサク行ける階層まで一気に行ってしまおうと考えている。
そのため、巨大ネズミに勝った余韻など興味がないといわんばかりに、俊輔は出現した階段へ向かって足を進めたのだった。




