第254話
「ここが今回の拠点になる」
「良い感じの所がないからって……」
少しの間拠点探しに行っていた俊輔が戻ってくると、拠点となる場所へと仲間たちは案内されたた。
これまでと違い、丁度いい洞窟のような場所が見つからなかった。
そのため、俊輔は周囲を見渡せる場所に、土魔法で家を作り出してしまった。
超危険なダンジョンだというのにいつもと変わらず非常識な考えをしている俊輔の行為に、カルメラは呆れたように呟いた。
「わざわざ作っちゃうなんてさすが俊ちゃんね」
「おいっ! 能天気だな……」
非常識なのは京子までもだった。
そんな京子の言葉に、カルメラは思わずツッコミを入れる。
戦えば強力な戦闘力を有しているというのに、俊輔がやることを平気で肯定してしまうその神経はどうなっているのか不思議で仕方ない。
「カルメラはこの部屋を好きに使ってくれ」
「……あぁ」
俊輔が作った家の中には、カルメラ用に普通の宿屋のシングル程の大きさの部屋が作られていた。
魔法の袋に入れていたのか、家具なども揃っていて快適な空間になっていて、ここが超危険だということを忘れてしまいそうだ。
「ここから少し離れた所に地下への入り口を発見してある。まずは、どんな魔物が地下に出るのかを確認しよう」
「そうね」「分かった」
1人で動き回ったのだが、地上にはたいした魔物が存在していなかった。
たいしたことないと言っても、魔人大陸で頻繁に出るレベルの魔物のことだ。
俊輔でなければ、たいしたことある魔物であろう。
これまでの経験上、問題は地上にいる魔物ではない。
入り口に入ってからが問題になってくるのだ。
さすがに自分たちが太刀打ちできないような魔物が出るとは思わないが、念のため警戒しつつ、俊輔たちは地下の入り口へと足を踏み入れることにした。
「っ! 来るぞ」
迷路のようになっているダンジョン内を、俊輔たちは慎重に歩を進める。
すると、一定距離までしか広げていない俊輔の探知魔法に、何かが引っかかるのを感じた。
段々とその魔物が近付いてきているのを感じていたため、俊輔たちは戦うのに十分な広さの場所で待ち受けることにした。
「ガアァァーー!!」
「なっ!?」
何に反応したのか分からないが、俊輔が言ったように魔物が近付いてきた。
その魔物は、響くような鳴き声を上げながら俊輔たちの方へと駆け寄って来ていた。
遠くから猛烈な勢いで迫ってくる魔物に、カルメラは驚きの声をあげた。
「な、何だあの魔物は……」
「ミノタウロスだな」
俊輔たちの前に現れた魔物は、人間の体で牛の頭をしたミノタウロスだ。
それが巨大な棍棒を手にこちらへと向かって来ている。
「何を冷静に言ってる!? 鑑定したら普通のミノタウロスと違うのが分かるだろ!?」
ミノタウロスはたしかに危険な魔物だ。
しかし、カルメラが驚いているのはそんな事ではない。
鑑定して見れば、とんでもなく強いというのが嫌でも分かる。
どう考えても普通のミノタウロスではない。
あんなのが普通に出現してくるなんて、やはりここは危険すぎる。
それなのに、俊輔たちは迫り来るミノタウロスにも動じず、いつもと変わらないテンションで自分の質問に答えてきた。
カルメラはあまりにも冷静過ぎる俊輔に、若干声を荒らげた。
「ミノタウロスの亜種って所だな」
「あっ! おいっ!」
1人慌てるカルメラを無視するように、俊輔は腰に差していた片方の木刀を抜いて、ミノタウロスを待ち受けるように構えた。
鑑定の結果から言うと、俊輔の言う通りミノタウロスの亜種というのはたしかだろう。
しかし、亜種にしては強すぎる。
普通のよりも少し強いだけ個体が亜種と呼ばれるのだが、現在こちらへ迫り来るミノタウロスは、普通のよりも倍近くの能力をしているように見える。
とても個人で戦うような相手ではないため、カルメラは1人で戦おうとしている俊輔を止めようと声をかけようとした。
しかし、そんなカルメラの肩に手を置いて、京子は止めに入った。
まるで、このまま俊輔に任せても大丈夫だというかのようだ。
「ヌンッ!!」
「ブモッ!?」
迫り来るミノタウロスに対し、俊輔も地を蹴って接近をする。
俊輔の接近にミノタウロスはその場に停止し、持っている棍棒を上段から振り下ろしてきた。
接近速度そのままに、俊輔はミノタウロスの攻撃を僅かに右へと移動して躱す。
そして、攻撃をして隙だらけになっているミノタウロスの胴を、持っていた木刀で横一閃にして斬り裂いた。
自分の体がズレるように崩れ落ちていくことに不思議そうな声を出しながら、ミノタウロスは上下に真っ二つになって地面に倒れた。
「…………」
ミノタウロスを倒した俊輔は、斬った感触を確認するように木刀を持つ手を見つめる。
そして、少し無言で考え事をするようにした後、木刀に付いた血を振り払った。
「ここは前回よりも上かもな……」
「えっ!?」
危険領域に2度入った経験から、俊輔はさっきのミノタウロスでここの難易度を測っていた。
これまでの2回でもミノタウロスの亜種の出現はあった。
出現階層の差は少しあるが、これまで戦ったミノタウロスよりも斬った時の抵抗力を感じた。
このレベルの魔物と何度も戦った俊輔だから分かる違いなのだろう。
この発言に、京子が反応する。
北のダンジョンに入ったが、あそこで出現した魔物はどこの階層でも一瞬も気を緩めない相手ばかりだった。
それよりも上の魔物ばかりだとなると、相当気合いを入れないといけないかもしれない。
「……あんなのを相手にしないといけないのか?」
さっきのミノタウロスの強さに、カルメラは少し顔を青くして固まっていた。
危険だということは聞いていたが、ドワーフの魔道具と俊輔たちの態度で甘く見ていたのかもしれない。
今更ながら、このダンジョンに入ったことによる危険性に気付いたのかもしれない。
「怖気づいてももう遅いからな?」
そんなカルメラに、俊輔は少し突き放すような言葉をかける。
ここに入ることの危険性は伝えていたし、何度か確認も取っていた。
それでも入ると決めたのはカルメラだ。
脱出したいなら、ダンジョンを攻略するしかない。
「カルメラはネグと、京子はアスルと、俺は一人での行動を基本とした方が良いな」
「了解!」「ピー!」「……【了解っす】!」
「わ、分かった」
ダンジョン内に入る前から、俊輔の発言には従うように言っていた。
東と北のダンジョンを攻略した経験があるから当然だろう。
そのため、京子、ネグロ、アスルは、俊輔の指示に従うようにすぐさま返事をし、まだ冷静になれていないからなのか、カルメラは僅かに遅れて頷きを返した。
ダンジョン攻略は、俊輔が1人で請け負う。
このメンバーの実力から言って、1番のネックはカルメラだ。
彼女の実力だと、地上に漏れ出ている魔物でも危険なレベルかもしれない。
なので、俊輔が信頼しているネグロをつけておけば大丈夫だろう。
京子はここの危険性を分かっているので無茶をすることはないと信じているが、何が起きるか分からないため、単独行動をさせる訳にはいかない。
そうなると、アスルと共に行動させるのが適切だろう。
「ここからは3班に分かれて行動することが増えるが、重要なのは危険と感じたら退くことだ。これだけは忘れるなよ!」
「うん!」「ピー!」「……【はい】!」「了解!」
これからは、それぞれのレベルにあった攻略を開始することになる。
その中で生き残るのに1番重要なのは、退くことを躊躇わないことだ。
死んだらこのダンジョンの栄養になって終わり。
そのことを意識して慎重に行動すれば、とりあえず生き残ることはできるだろう。
俊輔のその指示の意味を深く理解し、それぞれ返事をしたのだった。




