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第253話

「本当に京子も行くのか?」


「もちろん! 私は俊ちゃんの奥さんだもん!」


 ドワーフ王国がある島の西に存在する、不可侵領域のダンジョン。

 大昔に封印された魔王が復活するのを阻止するため、俊輔たちが攻略に向かうことになった。

 北のダンジョンの時は止めようもなかったため仕方がなかったが、今回は分かった上で入ることになる。

 危険性を考えるなら、京子にはできれば入って欲しくないというのが俊輔の本音だ。

 しかし、京子は京子で俊輔と離れたくないという思いが強く、一緒に付いて行くということを退くつもりがないようだ。


「まぁ、いいか……」


 領域内に入ったらいつ出れるか分からないため、長期間京子と離れるのは俊輔としても寂しい。

 これ以上止めても無理なようなので、俊輔は京子に一緒に来てもらうことにした。


「カルメラも行くのか?」


「あぁ! ドワーフ特製の魔道具がもらえるんだ。何もしない訳にはいかない!」


 俊輔と、従魔のネグロとアスルたち、それと妻である京子は仕方がないが、カルメラは中に入る必要はない。

 しかし、何もせずに魔道具を手に入れることは、カルメラ自身許せないらしく。

 付いてくる気満々だ。

 人族大陸の魔道具はドワーフ製の類似品でしかなく、性能はどれも当然差がある。

 高性能のドワーフ製は、最低でも人族製の倍はするという話だ。

 たしかに何もせずに手に入れようというのは虫が良すぎる。

 カルメラは、アスルと共に上層で鍛えていてもらえばいいだろう。


「お前らが強くなった要因がこの中にあるのだろ? ならば私も付いて行く!」


 俊輔が人族の中でも飛びぬけた実力を手に入れたのは、確かにこの難関ダンジョンの攻略によるものだろう。

 日向南に存在していた東のダンジョンの場合、何度死ぬ思いをしたか分からない。

 それだけ不可侵領域内の魔物の強さは異常で、最終ボスの強さは毎回とんでもない。

 あんなの相手にしてたら、強くなるのは当然のことだ。

 中に入れば、カルメラもきっと後悔するだろう。


「危険だぞ?」


「構わん!」


「……まあ、大丈夫か」


 俊輔たちが生きて出られたのだから、恐らく大丈夫だと思っているかもしれない。

 最終確認として、俊輔は中に入ると危険だということを伝えたのだが、カルメラはそれでも決意のこもった目をしている。

 最初は安全に行動する予定なので、もしもカルメラが危険だと感じたら、ネグロを着けてやれば平気だろう。

 そう考え、俊輔はカルメラが付いてくるのを了承することにした。


「じゃあ、行ってきます!」


「お気をつけて!」


 一言告げると、俊輔たちはダンジョンのある方向へ向かって歩き出した。

 頼んで来たサロモンを筆頭に、ドワーフ兵たちは整列して敬意を表するように頭を下げ、俊輔たちを見送ったのだった。






「……もう入ったのか?」


「あぁ」


 数m歩くとカルメラが問いかけてくる。

 中に入ったという感覚がないのだろうが、もうダンジョン内に入っているため、俊輔は頷きで返答した。


「薄い膜のようなものが見えるだろ?」


「……あぁ」


 これまで俊輔が攻略してきた東と北のダンジョンと同じだ。

 薄い膜のようなものがドーム状に張られているのが分かる。

 それを指差し、俊輔は簡単に説明することにした。


「あれのせいで、もう外には戻れなくなってる」


「……本当か?」


「そりゃ信じられないか……」


 簡単すぎたのが良くなかったのか、カルメラは俊輔の言うことが信じられないようだ。

 俊輔も初めて東のダンジョン内に入った時、信じられずに確認をしたものだ。

 カルメラも確認しないと納得できないだろう。

 そう思った俊輔は、地面に落ちていた手のひらサイズの石を拾い上げた。


「見てろよ?」


「……?」


 カルメラに一言告げると、俊輔は魔闘術を発動して投球フォームに入る。

 何をするつもりなのか分からず、カルメラは首を傾げた。


「ヌンッ!!」


 俊輔の全力投球によって、魔力を纏った石が超高速で飛んで行く。

 カルメラには、その石の飛んで行く姿が辛うじて見えた。

 その石が、先程俊輔が指差した膜のようなものに衝突する。

 膜の方には何の変化もなく、石だけが粉々に吹き飛んでいた。


「なっ?」


「あぁ……本当みたいだな」


 あんなのが自分に当たったら、大怪我をしていただろう。

 しかし、俊輔の豪速球が当たっても、膜は何もなかったように存在している。

 どうやら本当に、攻略以外は脱出不可能なダンジョン内に入ったのだと、カルメラは受け入れたのだった。


「まずは寝床探しとなる安全地帯の探しだ。俺が1人で探してくるからみんなはここにいてくれ」


「うん!」


「えっ? みんなで探したほうが……」


 入ってすぐは森の中で、いつ魔物が襲ってくるか分からない。

 そのため、少し開けた場所へ出ると、俊輔は単独で移動を開始することを告げる。

 その言葉を、京子は納得するがカルメラは不思議そうな表情になる。


「入る前に言っただろ? 俺の指示に従えって」


「あぁ……」


 たしかに入る前に俊輔からはそう言われていたし、カルメラも頷いていた。

 それは分かっているが、寝床探しくらいでそんなに警戒する必要も感じられない。

 カルメラは、なんとなく納得していないように返事をした。


「中には探知を逃れるような魔物もいるかもしれない。だから俺が単独で動くんだ」


「……そんなに強いのか?」


 探知を誤魔化すような魔物なんて、魔人大陸でもなかなか遭遇しないような魔物だ。

 そんなのがいるかもしれないなんて、恐ろしいことこの上ない。

 普段はユルイ俊輔たちの表情が硬いところを見ると、冗談んで言っている訳ではないようだ。

 カルメラは、段々と冷たい汗が背中に流れてくるのを感じていた。


「分からない。だが、俺とネグならまずは大丈夫だろう」


 東と北のダンジョンも攻略した経験上、自分とネグロなら地上の敵くらいなら平気だろう。

 そうでなかったら、あっという間に全滅してお終いになるだけだ。


「ネグ! ここでみんなの警護を任せるぞ!」


「ピー!!」


「じゃあ、行って来る!」


 従魔で丸烏という種類の魔物のネグロを抱きかかえると、俊輔は優しく頭を撫でて指示を出す。

 主人の俊輔に頼まれて嬉しいのか、ネグロはしっかりとした返事をして来た。

 長所でも短所でもある、魔法特化という成長をしたネグロだが、このメンバーの中なら俊輔に次ぐ実力だ。

 俊輔が離れ、もしも魔物が出現した時のことを考えて、俊輔はネグロに仲間を守ることを任せることにした。

 ネグロの返事を受けた俊輔は、準備運動のように体を動かしてから走り出した。


「魔物がいつでても対応できるように、武器をいつでも持てるようにしておいてね?」


「……分かった」


 俊輔がいなくなって、残ったメンバーの空気がピリッとした気がする。

 京子も北のダンジョンに入った経験がある。

 その時は、俊輔の従魔でダチョウ型の魔物であるアスルと、じっくりと実力を上げることに専念するくらいしかできなかった。

 今回は少しでも攻略の役に立てればと思っている。

 前回の経験から、京子は腰に差した木刀に左手を添えながら、カルメラへと忠告をした。

 俊輔だけでなく、京子もいつもと違いピリついている。

 2人の反応はカルメラには過剰に感じられる。

 だが、経験者の言葉に従わず、勝手なことをする訳にはいかない。

 ダンジョンに入る前に、カルメラは俊輔から攻撃よりも防御に専念するように言われていた。

 なので、用意していたバックラーを手に持ち、周囲を警戒することにした。


『……やっぱり失敗だっただろうか?』


 まだ入ったばかりだが、四六時中こんなに警戒しなければならないのかと考えると、カルメラは今更になってついてきたことを密かに後悔し始めていた。



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