第252話
「……何だか島の西側への警備が厳重ですね?」
特別に許可を得られ、ドワーフ王国の観光をおこなうことを許可された俊輔たち。
ドワーフ兵のサロモンによって、色々な場所を案内してもらっていたのだが、俊輔には気になることがあった。
町の西側を案内され、防壁の上から西側の景色を見た時のことだった。
何だか兵たちが多くいて、西側の森を警戒しているかのように見える。
魔物が出ているのかもしれないが、それにしては少し厳重過ぎる人数に思える。
「えぇ、西には危険なダンジョンがあるもので……」
「えっ? ダンジョン?」
どうやら俊輔が違和感を感じていたことの正体は、ダンジョンだということらしい。
しかし、そうなると更に違和感を感じる。
外から栄養を得るために、ダンジョンから魔物が出るということはあるが、ダンジョンが作り出した魔物が外に出て死んでしまえば、その分の栄養が輩出されてしまうということになる。
ダンジョンに知能があるのかよく分からないが、自分で自分を弱らせてまで外から栄養を得ようとするようなことはしない。
そのため、ダンジョンから魔物が出てくるということは滅多にないのだから、厳重に警備するのは変に感じる。
「ダンジョンが魔物を出してくるのですか?」
「いいえ。誰も近付かせないための処置です」
「……えっ?」
ますます分からない。
魔物を出してくる危険なダンジョンというなら分かるが、そうではなく。
単純に、ダンジョンに人を近付かせないための警備だという話だ。
だったら、そこまで警備するのではなく、市民に徹底周知させればいいだけの話のように俊輔は思えた。
「入ったら出ることができなくなるダンジョンのため、万が一にも市民が入らないようにしないといけないため、あそこまでの数になったとのことです」
「……なるほど」
新聞や地域ごとの掲示板などにより、なるべく市民へ危険を知らせているが、それでも好奇心などから入ろうとする者がいるということだ。
特に子供が多く、毎年警備の隙を見て侵入しようとする者がいるらしい。
それに対応するために、警備の数が増えてしまったという話だ。
『あのダンジョンたちと同じ不可侵領域って事か……』
話を聞いて、俊輔はそのダンジョンがどういう物なのかが分かった気がした。
これまで、日向の南の無人島と、人族大陸北部の森に存在していたダンジョンと同じものということなのだろう。
どちらも化け物のの巣窟で、俊輔も苦労させられた思い出がかなりある。
分かっていたら、俊輔も入りたくないような場所だ。
入らないと分からないが、入った人間が戻ってこないのでその危険性が伝わらないのかもしれない。
いくら警備をきつくしても、侵入しようとする者が現れるのはそういったことなのだろう。
「……実は、俊輔殿をお呼びしたのは、そのダンジョンの攻略を願いたいからです」
「……あぁ、だからですか……」
人族の俊輔が、何でドワーフ王国へ入国させてもらえたのかというのは疑問に残っていた。
同盟国のエナグア王国を救ったというのが理由かと思っていたのだが、どうやらそれだけではなかったようだ。
もしかしたら、むしろダンジョン攻略をしてもらうために入国を許可したということなのかもしれない。
「……危険なんですよね?」
「えぇ、かなり……」
危険なことが分かっているのに入ってくれなんて、ちょっと無責任に思えてくる。
同じようなダンジョンを2ヵ所攻略しているとは言っても、簡単に攻略できるようなものではない。
特に、最終ボスなんかは、毎回命の危機を感じるような相手でしかない。
極東の日向近くのダンジョンが青龍で、人族大陸北のダンジョンが玄武だった。
となると、この西にあるダンジョンは、恐らく白虎の可能性が高い。
戦うとなるとかなり気分が重いため、俊輔は断る気満々でいた。
「なぜ自分が?」
「ブラウリオ殿でも手を焼く強力な魔族を倒したという実力に目を付けてのことです」
行く気はないが、何か理由でもあるのだろうか。
ダンジョンから魔物が出てきているというのなら考えなくもないが、別に一時しのぎの方法はある。
その方法を教えて、済ましてしまうという選択も俊輔は考え始めていた。
「西のダンジョンは、魔王が封印された上にできているのです」
「……魔王?」
東西南北の四神に加えて魔王なんて言葉が出てきたことに、俊輔はゲームの世界かとツッコミを入れたくなる。
転生したことだけでもおかしなことだというのに、こんなことになるなんてまるで長い夢を見せられているような気分になる。
とは言っても、ここは現実。
魔王と聞いたら、なんとなく放って置くという訳にはいかなさそうだ。
「……放って置いたらやっぱり問題あるんですか?」
「放って置いたら、いつの日か魔王が復活するでしょう。封印の上にダンジョンができたのは、恐らく魔王が自身の回復のために作ったのだと思われます」
「回復?」
分かっていたことだが、放置していたらまずいことになりそうだ。
どれほどの強さかは分からないが、魔王なんて存在は、封印しておけるならそのままにしておきたいのは誰もがそうだろう。
しかし、ダンジョンをそのままにしておけば、何年後になるか分からないが、確実に復活することになる。
その時に俊輔が生きているかどうか分からないとは言っても、子や孫、子孫たちには被害が及ぶ可能性があるということだ。
いくらドワーフ王国が日向から遠いとは言っても、危険なことに変わりはない。
「ダンジョンを攻略すれば、その復活もかなり遅らせることができるでしょう」
「なるほど……」
ダンジョンから回復するための力を得ているということは、ダンジョンと魔王にはつながりがあるはず。
なので、ダンジョンが弱ればその分魔王への力の流入が止まり、復活も長引かせることができるということだろう。
「……もしかして、他にも魔王っていたんですか?」
「かつては4人いたと聞いております。それが東西南北に封印され、同じようになっているという話です」
「そうですか……」
これまで東と北のダンジョンを攻略をして来たが、どうやらそれは魔王復活を阻止する行為に繋がっていたようだ。
いつの間にか、俊輔は世界を救うことに力を貸していたということらしい。
そうなると、色々と分かってきたことがある。
魔族たちが人間を殺そうとしてくるのは、この魔王の封印と関係あるのかもしれない。
人間を殺し、死んだ人間をダンジョン内に放り込めば、ダンジョンに栄養を与えることに繋がる。
その栄養がダンジョンから魔王に流れ、復活を早めることができるのだろう。
『あのエステとか言うのも、それが狙いだったのか?』
俊輔が子供の時、船を転覆させられて東のダンジョンに流れ着いた。
それをおこなったのが、エナグア王国で倒したブーオが言っていたエステとかいう者だ。
東のダンジョンの場合無人島のため、島の側を通る船を転覆させて送ることで、乗員の命をダンジョンの栄養にさせていたのかもしれない。
「行こうよ、俊ちゃん!」
「えっ? 何で京子はやる気なんだ?」
「だって、実力アップには強い魔物を倒さないと!」
倒した敵が強ければ強い程、色々な能力が上がる。
ゲームで言う所のレベルアップのような感じだ。
京子も北のダンジョンに入ったことだあるため、彼女にとっては訓練に適した場所という意味合いが強いのかもしれない。
「報酬は好きな魔道具をいくつかお渡しします」
「行くぞ! 俊輔!」
「……現金な奴め」
サロモンの言葉に、今度はカルメラが乗ってきた。
彼女の場合、魔道具に目がくらんだということだろう。
町中で色々な魔道具に目を輝かせていたカルメラらしい。
「仕方ない。行くか?」
「うん!」「あぁ!」
世界のためにという訳ではないが、子や孫のためにと考えると行くしかなさそうだ。
なるべく安全に進めば、何とかなるだろう。
やる気の2人に乗るように、俊輔はまたも不可侵領域のダンジョンに足を踏み入れることにしたのだった。




