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第249話

「この度は侵入した魔族の討伐をしていただき感謝いたします」


「いえ、困った時はお互いさまですので……」


 魔族のブーオと多くの魔物を倒した翌日、俊輔たちは王城へと招かれることになった。

 そして、エナグア王からの感謝の言葉と共に、勲章のような物をもらえることになった。

 その勲章を見せれば、他種族でも自由に魔人大陸に入ることができるというものだそうだ。

 ドワーフ族や獣人族、エルフ族などの人間で持っている者はいるが、人族ではごく少数の人間しか持っていないそうだ。


『使う時が来るのかな……』


 北から南へ縦断するように魔人大陸を縦断してきたので、エナグアの後はドワーフ王国か獣人大陸に向かう予定だ。

 また魔人大陸にくるようなことがあるか分からないため、勲章をもらえたのは良いが使う時があるのか俊輔は内心疑問に思っていた。

 当然口に出すべき内容ではないので、恐縮したような態度で勲章を受け取った


「魔人最強と言われて、私は驕っていたかもしれないですね……」


「そんなことないんじゃないですか。初遭遇の魔族にしては相手が悪かっただけだと思いますよ」


 勲章をもらえた後、戦闘部隊の隊長であるブラウリオと話す機会があった。

 ブーオとの戦闘で、勝てるか微妙だったことが彼の中では反省点になっていたようだ。

 慰めになるか分からないが、魔物の相手で魔力を消耗してから魔族との初遭遇だったのだから、俊輔としては仕方のないことなのではないかと思えた。

 俊輔が初めて会った魔族は全然弱かったので、ブラウリオの運が悪かったと思うしかない。


「運が悪かったですか……」


「…………」


 よくよく考えたら、責任ある立場の彼からすると運が悪かったで済ます訳にはいかない。

 ブラウリオが負けたら、魔人全てが魔族の餌食になるかもしれないのだ。

 自分の言葉は慰めになってかったと、俊輔は若干気まずい思いになった。


「そうですね。そう考えて次に生かすしかないですね!」


「……元気が出てよかったです」


 どうやら俊輔が思っていたより、ブラウリオは前向きに考える人間だったようだ。

 元気が出たようなので、俊輔はひとまず安心した。


「どちらかというと、私は運が良かったと思っていますよ」


「えっ?」


 負けそうだったというのに、運が良いという風にとらえるなんてポジティブ過ぎる。

 俊輔もなるべくポジティブに考えたいと思ってはいるが、さすがに同じように考えられない。

 そのため、ブラウリオの言葉が意外に思えた。


「魔族が来た時に俊輔殿がいたのですから……」


「ハハ……」


 ちょっとわざとらしい口調で、ブラウリオが臭いことを言ってきた。

 予想外の誉め言葉に、俊輔は照れ臭そうに笑うしかなかった。


「そう言えば、武道大会の方はどうなったのですか?」


 元々、武道大会の準決勝に起きた問題から大きくなった事件だった。

 ブラウリオの息子のフェリクスが実力的には一番強かったが、ブーオから貰った薬物で正常な状態でなくなったヘロニモによって右腕を失う大怪我を負っていた。

 再生魔法で元に戻すにしても、1年近くかかるような怪我だ。

 しかも、フェリクスはブラウリオに負けを宣告されていたので、ビダルは決勝をする相手がいない状態での中断となっている。

 ブラウリオに殺される形になってしまったが、放って置けばヘロニモはあのまま薬物によって死んでいただろう。

 片腕でも戦えなくもないので、ビダルとフェリクスで決勝を戦うのだろうか。


「ヘロニモ君が薬物を使ったとは言っても、準決勝でフェリクスは負けました。勝ったヘロニモ君もあのようなことになってしまったので、ビダル君の優勝で大会は終わりになります」


 ヘロニモの強さが薬物によるものだったとは言っても、フェリクスは負けは負けということらしい。

 父でありながら、ブラウリオは随分きつい判断をしたようだ。


「へぇ~、じゃあビダルが戦闘部隊の研修生になれるんですか?」


「はい。そのようになります」


「そうですか……」


 武道大会の優勝者は、戦闘部隊の研修生になれることが決定しているという話だった。

 つまり、ビダルが念願の研修生になることができるということだ。

 色々あったので、それはなしになるのかと思ったが、どうやらそうではなかった。

 その報告が聞けて、俊輔は思わず笑みを浮かべた。


「師匠としては嬉しい結果ですか?」


「えっ? ん~……」


 俊輔の笑みを見て、自分が指導した子供が優勝できたことを喜んでいるのだとブラウリオは感じた。

 魔力無しといわれていた少年が、俊輔のたった1ヶ月の指導で優勝という栄誉を勝ち取ったのだから嬉しいと思うのは当然のことだ。

 しかし、それを指摘すると、俊輔は何だか悩むような反応をした。


「ビダルを指導したとは言っても師匠と呼べるか分からないし、決勝まで行ったのは元々ビダルの才能でもあったように感じるし……」


 始めて会った時のビダルは、魔力が使えなくても基礎的な訓練をしっかりとしていた。

 その基礎的な部分に、使えずにいた魔力がプラスされただけのように思える。

 俊輔は、ビダルが魔力を使えるようになる助力をしたに過ぎないと思っている。

 そのため、師匠と思われるのはなんとなく違うような気がしているのだ。


「ビダルの優勝は嬉しいけど、微妙な感じですね」


 たしかにビダルが優勝ということになったのは嬉しい。

 しかし、結局はビダル自身の成果だと思えるため、自分のお陰とは言い難いというのが俊輔の本音だ。


「……私としては、俊輔殿の見る目には感服していますよ」


「そうですか?」


 戦闘部隊に引き抜くために、一応ブラウリオも子供たちの才能の発掘もおこなっている。

 しかし、最近ではフェリクス以上に才能のある人間を見ることがなく、少々おざなりになっていたかもしれない。

 ビダルのような存在が隠れていたなんて知る由もなかった。

 観光目的で来ていたというのに、俊輔はすぐにその才能を見い出した。

 実力だけでなく、才能の発掘という面でも自分の方が負けていたと素直に認めるしかない。


「フェリクスも腕が治る頃には、ビダル君に差をつけられているかもしれないですね」


「彼は問題ないんじゃないですか? 才能あるし、今回挫折も味わった。それにライバルのいない状況にビダルが突如現れた。今後また成長するんじゃないんですかね?」


「……俊輔殿にそう言われると、父親としては嬉しい限りですね」


 もしもヘロニモの件がなければ、優勝していたのはフェリクスだった可能性が高い。

 成長力を考えるとビダルの方が高いかもしれないが、これからどこまで強くなるかは俊輔にも分からない。

 しかし、今後の戦闘部隊は、その2人の成長次第にかかっているような気がしている。

 フリーパスの勲章も貰ったことだし、それを見にまた来るというのも、もしかしたらいいかもしれないと俊輔は思っていた。






「ビダル!」


「師匠!!」


「優勝おめでとさん!」


 王城での色々が済み、俊輔は町に出てビダルの所へと足を運んだ。

 優勝したことのへの褒美を渡すつもりでいたからだ。

 声をかけてきた俊輔の顔を見た瞬間、ビダルは嬉しそうに駆け寄ってきたが、優勝のことを俊輔が言うと少し複雑な表情をした。


「優勝といっても、実力的にはフェリクスに負けてたし、あんなことになったから何だか納得できないでいます」


「確かにな。だが、それはこれから払拭すればいい。フェリクス以上になるか、そうでないかは、お前の努力次第だ」


 ビダル自身も、他の人間も、ヘロニモの件がなければという思いがよぎるのだろう。

 しかし、俊輔の言うように、それを払拭するのはビダル自身による所だ。


「優勝の褒美と、戦闘部隊の研修生になれた記念にこいつをやる」


「これ……」


 俊輔が渡したのは、いつも俊輔が腰に差しているものと同じ木刀だ。

 優勝する、しないにかかわらず、いい試合をした時にプレゼントするため、錬金術で強化しておいた俊輔の特注品だ。


「試合や訓練用に使っていたのとは桁違いに丈夫なもんだ。こいつをお前の好きに使え」


「あ、ありがとう…ございます」


「おいおい! 嬉しいなら笑ってくれよ!」


 稽古の時に見ていたからか、ビダルは俊輔の木刀に興味を持っていた。

 魔力の纏い方で、敵を殺しも生かしもする武器というのがビダルの心に刺さったのかもしれない。

 師匠である俊輔からのプレゼントに、認められたような思いがしたビダルは、自分がようやく優勝できたのだと感じられたのかもしれない。

 もらった木刀を握って泣き出したビダルを、俊輔は笑顔で頭を撫でて泣き止むのを待ったのだった。



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