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第248話

「ピー!!」


 俊輔がブーオと戦っていた頃、京子たちは魔物の相手をしていた。

 魔人族の市民たちを守って、俊輔の従魔のネグロが魔法で無双していた。

 主人である俊輔直伝の魔法は、一発で数体の魔物を消し炭にしている。

 その光景に、魔人族の市民たちは呆気にとられるようにネグロのことを見つめていた。


「……相変わらず、本当に丸烏なのか疑わしいな……」


 呆気に取られているのはカルメラも同じだ。

 ネグロが強いのは分かっているが、魔物としては弱小の丸烏が強いなんて普通に考えればおかしなことだ。

 多くの魔物相手に丸烏が蹴散らしている様を見ると、何だか自分の感覚がおかしくなっているように感じられた。


「ネグちゃんはすごいね……」


 カルメラと違い、京子はネグロを普通に褒めていた。

 幼少期から知っているせいか、ネグロの強さをあまり不思議に思っていないようだ。


「…………」


 空を飛び回る魔物を相手にしているネグロと違い、ダチョウ型の魔物であるアスルは、地上の魔物を地味に倒していた。

 ダチョウと同じく鳴き声を発しないため、あまり派手に思えないのかもしれない。

 そんなことは気にしないのか、アスルはコツコツ魔物を倒していた。


「いい加減疲れてきたな……」


「そう? 私はまだまだ平気よ!」


 ネグロ程ではないが、京子も魔物を倒しまくっていた。

 負けじとカルメラも倒しているが、余裕のある京子とは違い、カルメラの表情にはだいぶ疲労感が漂っている。


「やっぱり、おかしな一味だ……」


 勝手についてきている立場だが、自分が一番普通なのだと思える。

 昔は兄のシモンと共に天才といわれて敵なしの状態が長かったのだが、俊輔たちと一緒にいるとそんな過去が吹き飛んでしまう。

 こんな日が来るとは思ってもいなかったが、これはこれで面白いと思えてくるから不思議だ。

 このメンバーについて行っていれば、自分ももっと強くなれると思えてくるからだろうか。

 いつかは兄を越えるほどの実力を得る。

 そんな思いがカルメラの頭をよぎり、現状を密かに楽しんでいた。






「……あれっ? 魔物の数が減ってきた?」


「本当だ……」


 京子たちと戦闘部隊の者たちのお陰で、避難所目掛けて飛んで来る魔物が減ってきた。

 単純に、ネグロが火力を上げて対応し始めたからなのかもとも思ったが、そう言ったわけでもないようだ。

 京子の思ったように魔物の方が減ってきているのだ。

 それに反応するように、カルメラも同じことに気付いた。


「もしかして、俊ちゃんが大元を絶ったのかな?」


「そうかもな……」


 魔物が来なくなったということは、町のどこかにある魔法陣を破壊したのか、それともその魔法陣を作った者がいなくなったかのどちらかだろう。

 どちらにしても俊輔が何かしたのだろうと、京子は率直に判断した。

 他の人間が対処したという考えが浮かばないところが、京子が俊輔の実力を信用しているということなのだろう。

 最初の頃なら何を言っているのかとツッコミを入れたいところだが、最近だとカルメラも似たように俊輔の実力が桁違いだと納得しているようで、素直に京子の考えに同意した。






「これで3つ目か……」


 京子たちの考えはあながち間違いではないが、半分正解といったところだ。

 魔法陣を破壊していたのは戦闘部隊の隊長のブラウリオだった。

 俊輔に魔族を任せたブラウリオは、魔物の出現を抑えようと、町中を走り回り魔物の出現地点を探し回っていた。

 さすがの実力といったところか、ブラウリオはすでに2つの魔法陣を発見して破壊していた。

 そして今、3つ目を破壊して一息ついたところだ。


「俊輔殿に任せて本当に良かったのだろうか……」


 俊輔の余裕の態度から、魔族の相手を任せることにしたブラウリオ。

 この国を守るのが自分の仕事だというのに、客人の俊輔に任せてしまったことにブラウリオは少し反省していた。

 しかし、自分が戦っていたらギリギリといったところだったと思う。

 魔物を相手に魔力を使ってしまった状態では、さらに分が悪かったかもしれない。


「まぁ、彼なら勝てそうだったし仕方ないか……」


 強者は強者を知ると言う所か。

 初めて俊輔と会った時、自分以上の何かを感じ取っていた。

 人族だから注意しなければと少し警戒していたのだが、それもすぐに霧散した。

 というのも、部下に聞いた話では、俊輔は1人の少年の指導を開始したという話だった。

 その少年が特殊な存在だということも聞いていた。

 ビダルという少年で、魔力が無いといわれていたそうだ。

 魔人族は同じ祖先をもつとは言っても、人族以上の魔力を持って生まれてくるのが普通だ。

 しかし、極稀にそう言った人間が生まれるということは聞いたことがある。

 そう言った類の少年だと思っていた。


「決勝に来るまで育てちゃうんだもんな……」


 ビダルという少年が、魔力無しといわれていたのはどうやら違ったようで、俊輔のお陰で魔力が使えるようになったようだ。

 ブラウリオは国中の人間を知っている訳ではないし、そう言った少年がいたとしても鍛えてあげる立場の人間ではない。

 とは言っても、有能な少年を見過ごしていたことを俊輔の手によって気づかされたということになる。

 別にそれに腹を立てている訳ではない。

 もしも自分が俊輔よりも先にビダルという少年に会っていたとしても、その能力を見抜けていたかは怪しいところだったからだ。


「さて、次に行ってみるか……」


 戦闘部隊隊長の自分にできることは、魔物の出現を抑えて市民に被害を負わせないようにすることだけだ。

 少しの休憩で息を整えられたブラウリオは、他の魔法陣の破壊へ向かうことにした。






「あれっ?」


 4つ目の魔法陣を発見したブラウリオだったが、すぐに異変が起きた。

 見つけた魔法陣が消え去ったのだ。


「もしかして俊輔殿が……」


 魔法陣を破壊していないにもかかわらず消えたということは、魔法陣を発動した者が死んだということになる。

 つまりは俊輔があのブーオという魔族を倒したということだ。


「速~な……」


 自分よりも強いと分っていたが、あの魔族を相手にこんな早く倒してしまうとは思ってもいなかった。

 どうやら俊輔の強さは、自分の想像以上だったようだ。

 あまりの強さに思わず呆れてしまう。


「取り合えず、残りの魔物を始末しておこう……」


 魔法陣は消えたようだが、呼び出されて出現した魔物は消える訳ではない。

 少しでも早く市民へ非難指示の解除をおこなうべく、ブラウリオは魔物たちの駆除を始めることにした。






「京子!」


「あっ! 俊ちゃん!」


 ネグロのお陰もあり、京子たちが魔物を粗方倒し終わっていた頃、魔族を倒した俊輔が戻ってきた。

 俊輔の顔を見た瞬間、京子の顔がほころんだ。


「ピー!」


「うぷっ!」


 京子が俊輔に近付くより早く、ネグロが先に俊輔に向かって飛んできた。

 魔物退治を頑張ったことを褒めてもらいたかったからか、ネグロはそのまま俊輔の顔面に抱き着いた。


「分かった。分かった。よくやったぞ!」


「ピピ~♪」


 顔面に抱き着いたネグロを引きはがし、俊輔はネグロを抱いて頭を撫でてあげる。

 褒められたネグロは、嬉しそうに鳴き声を上げたのだった。


「アスルもご苦労さん!」


「…………♪」


 ネグロに隠れてしまったようだが、アスルも魔物の死体の山を作っている。

 得意の蹴撃で倒したのだろう。

 アスルも褒めて欲しそうだったので、俊輔は頭を撫でてあげた。


「ずるい! 私も!」


「……分かったよ」


 従魔たちばかり褒めてもらえて、何となく焼きもちを焼いた京子は、2匹に続くように頭を出してきた。

 少し離れているとは言っても、避難してきている人たちがいるので、俊輔は照れくさそうに京子の頭も撫でてあげたのだった。


「……カルメラは?」


「なっ!? 冗談はよせ!! 馬鹿!!」


 ワイワイやっている俊輔たちを、カルメラは冷めた目で見ていた。

 それを茶化すように俊輔が言うと、カルメラは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。



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