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第247話

「竜……?」


 唐突な俊輔の問いに、ブーオは何のことかと首を傾げる。

 質問内容なんかよりも、ただの人間の俊輔の魔力量に驚いているというのが強いせいもある。


「昔そいつに殺されかけたんでな」


 俊輔がこの質問をしたのは、昔竜に乗った魔族によって乗っていた船を転覆された。

 多くの人間が死に、運よく俊輔とネグロだけが生き残ることができた。

 しかし、流れついた島は脱出不可能の超絶難関ダンジョン。

 そのダンジョンから脱出するために、何度死ぬかと思うような目に遭ったことか。

 その時のことを思うと、いつまで経ってもあの時の魔族の男のことが気に入らない。

 いつか報復をしてやろうと考えていたのだ。

 ブーオは魔族の中でも上位の存在だということだし、もしかしたら知っているかもしれない。

 始末する前に、とりあえず聞いてみることにした。


「……エステ様のことか?」


 竜を操る魔族と聞いたら、魔族の誰もが1人のことを思い浮かべる。

 魔族内の戦力において、1、2を争うほどの能力の持ち主だ。

 しかし、その者は性格が難があり、与えられた任務をこなさないことでも有名だ。

 そのため、魔族内でも腫れもの扱いされている所があるため、ブーオもそれ程ためらうこともなくその者の名前を答えた。


「エステ……」


 どうやら俊輔が求めている魔族の名前はエステというらしい。

 その名前を忘れないよう、俊輔は頭に浮かべた男の顔に合わせるように、その魔族の名前を呟いた。


「エステ様のことを知ってどうするというのだ?」


「とりあえずぶん殴る!」


 返されたブーオの問いに、俊輔は間を開けることなく答えを返す。

 自分が生き残ったのは、運が良かったに過ぎない。

 魔闘術を使うことで、船に乗っていた人間よりも海に呑まれている時間が少なかったのが生存する可能性を引き上げたのではないかと、後になった今では推測している。

 もしも魔闘術が使えていなかったら他の乗船者たち同様に、自分もネグロも死んでダンジョンに吸収されていたことだろう。

 その恐怖を与えておいて、そのままにしておく訳にはいかない。

 最後に見たあのにやけ顔に、一発食らわせないことには気が済まないのだ。


「……クッ、クックックッ……」


「……何がおかしい?」


 俊輔の答えを聞いて一瞬呆けた後、ブーオは急に笑い始めた。

 何が原因なのか分からない俊輔は、その笑いを不快に感じつつ問いかけた。


「お前、エステ様に勝てると思っているのか?」


 俊輔の物言いが、エステを倒すと言っているように聞こえる。

 しかし、同じ魔族だからこそエステの強さを理解しているため、ブーオとしてはその考えが滑稽に思えた。

 冗談で言っていないというのも笑えてくる。


「さぁ? やってみないと分からんだろ?」


 俊輔からずれば、エステの強さがどれほどかが分からない。

 難関ダンジョンを2か所も攻略した経験は伊達じゃない。

 もちろん絶対勝てるとは思っていないが、ぶん殴って逃げるくらいは何とかなると思っている。


「確かにお前の魔力はエステ様に匹敵するかもしれないが、それだけじゃ無理だ!」


「へぇ~、どうしてだ?」


 どうやらブーオはエステの強さを知っているようだ。

 俊輔の魔力に当てられて判断力が鈍っているらしく、何だかベラベラ喋ってくれるようだ。

 エステに関する話は聞いておきたいため、俊輔はそのまま乗っかってみることにした。


「あの方の扱う魔物は魔族の中では最強種ばかり、お前は戦う前に魔物に殺られてお終いだ!」


「そんなにすごい魔物が揃ってんのか?」


 竜の頭に乗っていた所からいって、恐らくエステは竜種の魔物を操るタイプなのだと思っている。

 たしかに、ブーオの言うように竜種の魔物が揃っているとなると、俊輔でもしんどいかもしれない。

 その辺もどんな竜種を揃えているのか聞き出そうと、俊輔は質問する。


「俺が知っているだけでも海竜のリヴァイアサン、火竜のファイヤードレイクといった化け物を飼っている」


「へぇ~、他には?」


 海竜と聞いて、俊輔は昔を思い出す。

 船を沈められた時、エステは竜の頭の上に乗っていた。

 恐らくあの時の竜がリヴァイアサンだったのだろう。

 たしかにあんなのが大量にいるとなると、エステと戦うまでにとんでもなく疲労してしまうだろう。

 しかし、何も一回でエステを倒さなければならない訳ではない。

 数匹の竜を殺したら逃げてしまえばいい。

 エステの竜を全部潰して、1対1で戦える状況に持って行けばいいだけだ。

 そのためにも、どんな竜を飼っているのかをできる限り知っておきたい。

 なので、俊輔は説明の続きをブーオに求めた。


「他には……って! 何でそこまで話さなければならないんだ!?」


「んだよ! 気付いちゃったか……」


 調子に乗ってペラペラ喋ってくれていたのに、我に返ってしまったようだ。

 もうちょっと聞き出したかったという思いがあったため、俊輔は本気で残念そうな顔をした。


「まぁいいや、話さないならそろそろ終わりにしよう」


 エステの話を聞きたいから生かしておいたが、京子たちが魔物と戦っているのを助けに行きたい。

 もう用済みとなったブーオを殺そうと、俊輔は木刀を軽く素振りした。


「時間稼ぎをしたかったのはこっちも同じだ!!」


 ゆっくりと迫り来る俊輔に対してそう言うと、ブーオの足下には魔法陣が浮かび上がった。

 話に乗っていたのは、別に俊輔に乗せられたからではない。

 単純に時間を稼ぎたかっただけだ。

 その魔法陣から多くの魔物が飛び出して、俊輔へと襲い掛かってきた。


「……こんなことして何になるって言うんだ?」


 これまで通り鳥系の魔物が出現する。

 その魔物たちを、俊輔は上空へ飛ばせることなくバッサバッサと斬り裂いた。


「ハッ!!」


 右の木刀で魔物の相手をしながら、左手の小太刀の木刀に魔力を込める。

 それをブーオが作り出した魔法陣へと突き刺し、魔法陣を破壊する。

 その僅かな手間だけで、俊輔は魔物が出現するのを抑え込んだ。


「……逃げたか?」


 魔法陣の対応に目を向けていた間に、ブーオはいつの間にか姿をくらましていた。

 どうやら魔法陣を目くらましにして逃げるのが目的だったようだ。




「ハァ、ハァ……」


 魔力をギリギリまで抑え、ブーオは見事に俊輔の前から姿を消した。

 飛んでしまうと魔力を使ってしまうため、ただ全力で走るしかない。


「くそっ!! あんな化け物がここにいるなんて聞いていないぞ!! オエステ様は気付かなかったのか!?」


 ここを攻めるように言ってきたのはオエステという上司だ。

 本来は南のスルという上司に付いているのだが、オエステが他の場所の援護も行わなくてはならなくなったためにブーオは協力をすることになった。

 報告では魔人の領域で気を付けるのは、戦闘部隊隊長のブラウリオだけだという話だった。

 それなのに、ブラウリオなんかよりも危険な人間がいるなんて聞いていなかった。

 情報の引継ぎにミスでも起きていたのだろうか。


「一旦退避して、再度攻め込む機を窺うしかない!」


 俊輔という存在は魔族にとって危険すぎる。

 話した通りエステに勝てるとは思えないが、1対1ならいい勝負するのではないかと思えてくる。

 倒すのならば、四天王の誰かが出ないと無理だろう。

 それこそエステに話せば喜んでくれそうだ。

 まずはこのままエナグア王国から逃げ出そうと、ブーオは全力で走り続けた。


「逃がさねえよ!!」


「っ!!」


 もう少しでエナグア王国の町から出れると思ったところで、俊輔が目の前に現れた。

 そして、驚いた声を出す前にブーオの意識は途絶えたのだった。



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