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第244話

「この姿になると感情が高ぶるから嫌いでしてね……」


 変身を終えたブーオは、これまで通りの口調で呟く。

 言葉では嫌がっているが、口調は何だか楽しそうに聞こえる。


「ガーゴイル……」


「その通りです」


 変化したブーオの姿を見て、ブラウリオは何の魔物なのかがすぐに分かった。

 飛膜のようなものが翼が背中にあり、その翼で飛翔して攻撃をしてくる怪物で、知能が低いが倒すのに苦労する魔物で有名だ。

 そのガーゴイルが、変身前と同じようにスーツを着用しているのは、何だか違和感を感じる。


「この姿が私の魔族としての本性です」


「ピエロから少し変わっただけじゃねないのか?」


 知能を付けたガーゴイルというのが、どうやらブーオの本性らしい。

 たしかに変身して姿が変わったが、さっきのピエロから変わったのは背中の翼と、悪魔や鬼と言った角の生えた顔に変わっただけで、それ以外は特に変わったようには感じない。

 何のための変身だったのかは、ブラウリオには分からない。


「姿以外がどう変わったかは、あなたが試してみれば宜しいのではないでしょうか?」


 変身した意図を掴めていないブラウリオに、ブーオは挑発するように手招きする。

 口調が変わっていないが、見た目が違うせいでブラウリオは内心調子が狂う。


「ではそうしよう!!」


 どう変わったのかは分からないが、このまま睨み合っているだけでは何の進展もない。

 ガーゴイルなら、上空から手の爪による攻撃を放ってくるのかと考えられるが、背中の翼はたたまれていて飛び立つような様子はうかがえない。

 これまで同様に、杖に仕込んだ剣で戦うつもりのようだ。

 そのため、ブラウリオはわざと挑発に乗るようにして、一気にブーオへと接近を図った。


「ハッ!!」


 ブラウリオは、接近しつつ上段に構えた剣をブーオの脳天目掛けて振り下ろす。

 すぐ目の前にブラウリオが来ているのに、ブーオは避けるどころか受け止めようともしていない様子だ。


「っ!?」


 ブラウリオの剣がブーオを斬り裂くと思った瞬間、ブーオは消えるよに姿を消した。

 どうやったのかは分からないが、剣を回避されたことに驚きつつもブラウリオは探知ですぐに左側にいることを察知する。


「ハッ!!」


「おっと!」


 探知で分かっているならそこへ攻撃をすれば良い。

 そう考えたブラウリオは、剣から左手を離し、探知した場所へ魔法を放った。

 大ダメージというよりも足止めを狙うような威力の火球を、ブーオは後方へと跳び退いて躱した。


「ハッ!!」


「ほっ!」


 距離を詰めるまでの時間稼ぎを目的とした火球を高速で打ち出す。

 しかし、かなりの速度で放った火球なのに、ブーオは受け止めるどころかまたも後方へと回避した。


「避けるのが上手くなったのか?」


 どうやら変身によって速度がかなり上昇したようで、目で追うのがギリギリだ。

 だが、目と探知を使えば反応できない速度ではない。

 面倒という意味ではたしかにランクは上がったが、ブーオがそれだけで勝てると思っているのなら考えが甘い。

 そう思ったブラウリオは、嘲笑するように話しかける。


「フフッ! そちらは挑発がお上手ですね?」


「何っ?」


 ブラウリオの言葉に対し、ブーオは冷静に対応する。

 その余裕の態度に、ブラウイオの方がイラッと来た。


「それならこれでどうだ!」


「おぉ! すごい数ですね……」


 単発でダメなら複数で勝負。

 ブラウリオはいくつもの火球を浮かべ、それを一気に放出した。

 逃げ道も塞ぐようにいくつもの火球が飛んでくるなか、ブーオは変わらず余裕の態度のままだ。


「フッ!!」


「なっ!!」


 避ける気がないブーオの態度に、何を考えているのか分からない。

 しかし、複数の火球が仕込み杖の間合いに入ると、軽く息を吐くと共に鞘から抜き去り剣を振りまわす。

 すると、火球は手前で弾けて、ブーオには何の手傷も追わせることはなかった。

 反応や移動の速度だけでなく、剣速までもが上がったようだ。

 無傷で終わったことよりも、ブラウリオはその振りの速さに驚いた。


「さて、私の実力の一端(・・)を分かって頂けたようなので、そろそろ勝負と行きましょうか?」


「チッ!」


 ブーオの言葉に、ブラウリオは思わず舌打を撃つ。

 実力の一端(・・)ということは、まだ何かあるということなのだろう。

 速度だけでも面倒なのに、他にも何かあると考えると勝つのは結構きついかもしれない。


「行きますよ?」


「っ!! くっ!!」


 わざわざ確認するように問いかけてからブーオは行動を開始する。

 余裕のつもりなのだろう。

 一気に近付いたブーオは、その速度を生かすように突きを放つ。

 その攻撃をブラウリオは剣を使って何とか弾く。


「どんどん行きますよ?」


「くっ!! ぐっ!!」


 突きを止められたら一旦後退し、ブーオはまたも確認してから動き回る。

 今度はブラウリオの目から逃れるように左右へと移動をし、死角から接近したブーオは抜刀しつつ横薙ぎを放ってきた。

 その剣を止めることはできたが、そうなることを予期していたかのようにブーオのローキックがブラウリオの内太腿に入る。

 速度に意識が行き、剣にばかり目が行ってしまうせいで打撃にまでは反応できない。

 ローキックを食らったブラウリオは、痛みで軽く顔をしかめた。


「ハッ!!」


「ぐっ!! うっ!!」


 剣による攻撃と打撃による攻撃。

 それが交互に襲い掛かる。

 一撃でも食らえば致命傷になりかねないため、どうしても剣の攻撃にばかり集中してしまう。

 そのため、打撃の方に反応できず、腹や足に攻撃を受けてしまう。


「くっ!! チマチマと……」


 速度は上がったが、パワーの方は上がっていないようだ。

 打撃を何発も受けているが、すぐさま戦闘不能になるような威力ではない。

 パワーの上昇がなかったのはいいが、このままではなぶり殺しのようになってしまう。

 もしかしたらそれが狙いなのだろうか。

 陰湿な考えに、いら立ちは募る一方だ。


「ハッ!!」


「ここだ!!」


 ここまでで、ブラウリオはなんとなくブーオのパターンが読めてきた。

 剣を止めた後に攻撃をしてくるのは、ガードをしてがら空きになった場所だ。

 それを利用して、ブラウリオはわざと右の脇腹が空くように剣の攻撃をガードする。

 思った通りに左足を上げたのを確認したブラウリオは、その蹴りに反応するように魔法を発動させる。

 足下に仕込んでいた魔法によって、地面の土が石礫として浮き上がる。

 そして、開けておいた脇腹を防ぐように土壁を作り、蹴り足を痛めさせようと考えたのだ。


「残念!!」


「がっ!?」


 その言葉と共に、振り上げた足の軌道が他へと変わる。

 ミドルキックがハイキックへと変わり、ブラウリオの顔面にクリーンヒットした。

 予想外の攻撃に、ブラウリオは崩れるように片膝をついた。


「くっ!!」


 直撃で脳を揺らされたらしく、目が回る感覚だ。

 このままでは斬られると思ったブラウリオは、何とか立ち上がり首を振る。


「おやおや……、これではあっさり終わってしまいそうですね」


「舐めるな!!」


 いいようにやられ、笑みの混じったような口調をされて腹が立つ。

 このまま負ける訳にはいかない。

 そのため、ブラウリオは何とか回復する時間を稼ごうと魔法を放つ。

 ブーオの接近を防ぐように、数十個もの火球を自分の周囲に出現さる。


「そんな火球なんて、数が多くても意味ないですよ!」


 ブラウリオの反応に対し、ブーオは嘲笑うように剣を振る。

 その言葉通り、ブラウリオの周りの火球は斬り裂かれ、防御の意味がなくなってしまった。


「抵抗はおありですか?」


「くそっ!!」


 まだダメージが回復せず、体がいまいち反応しない。

 この状態はかなり危険だと分かっていても、回復するまではどうしようもない。

 しかし、当然ブーオは待ってくれない。

 万事休すの状態のブラウリオは、悔しそうに呟くことしかできなかった。


「終わりです!!」


 エナグア王国最強も所詮は自分には勝てない。

 そのことに愉悦を感じながら、ブーオは止めを刺すべく地を蹴った。


「いや、まだだ!」


「なっ!? ぐっ!!」


 ブラウリオまであと少しと言う所で、ブーオの右から声がかかる。

 そちらに目を向けると、足の裏が顔の前に迫っていた。

 ブーオは何とか首をひねって躱そうとするが、間に合わずに直撃する。

 その蹴りで吹き飛ばされたブーオは、空中で体勢を立て直し、何とか着地に成功した。


「間に合ってよかった」


「俊輔殿!!」


 急に助けに入ってくれた者に目を向けると、その者は安堵したように呟いた。

 その者の顔を見て、ブラウリオは驚きの声をあげた。

 助けに入ったのは、国の客人として入国許可を与えていた人族の俊輔だった。



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