第243話
「ハァ、ハァ……」
「流石ですね。1人でこれほどの数の魔物討ち果たすなんて……」
武闘大会の会場となる闘技場内は、多くの魔物の死体が転がっている。
魔法陣から出現する魔物を町中へ逃がさないようにするため、戦闘部隊の隊長のブラウリオは一人奮闘していたためだ。
動き回っている状況が続いているため、ブラウリオは少し息切れをしている。
ピエロの魔人が作りだした魔法陣からは絶えず魔物が出現してきており、全く終わりが見えてこない。
出てくる魔物はこちらも鳥系の魔物が多く、飛び立たれるとそのまま町中へ行ってしまうかもしれないため、飛べる魔物を優先に始末していっていた。
そんな中、魔物を呼び出している張本人のピエロの魔族は、魔物の死体の山を椅子代わりにしてブラウリオの戦いを眺めていた。
しかも、自分の呼び出している魔物が大量に殺されているというのに、ブラウリオの戦いを褒めるように笑みを浮かべながら拍手を送っていた。
「……そのにやけ面気に入らないな」
「それは失礼! 私はこの通りピエロです。笑っているのが基本でして……」
魔物を倒している自分を、高みの見物をするような態度をしているのが気に入らない。
その不快な感情をそのままぶつけると、ピエロの魔族は軽く頭を下げて謝罪をしてきた。
しかし、とても心がこもっているような声色ではなく、それが更にブラウリオの心をイラ立たせすことになった。
「フゥ~……、これ以上体力を使うのは得策じゃないな……」
「おやっ? 何か考えがあるようですね」
出現し続ける魔物を倒しているが、いつまで経っても打ち止めになる気配がない。
そして、ピエロの魔族自身が攻めて来るわけでもない。
ピエロの魔族との戦いのことを考えると、このままジリジリ体力を削られているのはよろしくない。
そのため、ブラウリオはこの状況を変えようと、一旦魔物たちから距離を取った。
明らかに何かをおこなおうとしているブラウリオを、ピエロの魔族はどこか期待するかのように成り行きを見つめている。
邪魔をしてくる気はないようだ。
「ハァ……!! ハッ!!」
「まさか魔法陣を……」
離れた位置に離れたブラウリオは、右手に魔力を集め始めた。
そして、そのまま集めた魔力を使って巨大な火球を放った。
その火球が飛んで行った方角を見て、ピエロの魔族はブラウリオの狙いに気付いたようだ。
多くの魔物たちを炭化させながら、その火球は魔法陣へと向かって飛んで行き大爆発を起こした。
「ハッ! これで魔物の出現も治まっただろだろ?」
「随分と力技に出ましたね……」
大爆発によって巻き起こした土煙によってどうなったかは分からないが、魔物の出現が見受けられない所を見ると、狙い通り魔法陣を地面ごと吹き飛ばせたようだ。
魔力を使うことになってしまったが、これで魔物の相手をしなくても良くなった。
地面を吹き飛ばて魔法陣ごと吹き飛ばそうとするなんて、かなりの威力の魔法でも放たないと不可能な行為だ。
あまりにも無理やりな行為に、思っていたよりも大雑把な性格をしているのだと、ピエロの魔族は知ることになった。
「残りはお前だ! 余裕かましていないでかかってこい!」
「……魔法陣をまた作れば良いだけの話ですが、しょうがないですね……」
魔法陣を吹き飛ばされても、また作れば問題ない。
しかし、ブラウリオがそんなことをさせてくれるわけもない。
そのため、これまで座っていた魔物の死体の山から降り、ピエロの魔人はブラウリオに対面するように立ち、仕込み杖を鞘から抜こうとした。
「おっと! そう言えば、名乗るのが遅れました。私ブーオと申します」
仕込み杖から抜く前に、ピエロの魔人はあることを思いだした。
会ってから時間が経っているというのに、自分が名乗ることを忘れていたのだ。
すると、ピエロの魔人ことブーオは、名を名乗ると共に恭しくブラウリオに頭を下げた。
「……今更何のつもりだ?」
「いえ、あなたが戦う相手の名前くらいは知っておきたいだろうと思いましてね……」
魔法陣から出て来ていた魔物との戦いでアドレナリンが出ていたのに、一気に冷めてしまいそうになる。
頭を下げるなんて、そんな隙だらけの行為を平気でしてくると調子が狂ってしまいそうだ。
「その名を覚えたころには貴様は死んでいるだろうがな……」
「ハハハ……たいした自信ですね」
名乗りを上げたブーオに対し、ブラウリオは挑発的な言葉で煽る。
腹を立てて視野狭窄になることを狙っていたのかもしれない。
魔物が進化したのが魔族ということは、思考ももっと短絡的なのかと思っていた。
しかし、その挑発もたいした効果を示さず、暖簾に腕押しといったように冷静に返事をしてきた。
「ハッ!!」
「おわっ!」
特にたいした合図もされず、ブラウリオは地を蹴る。
魔闘術による身体強化によって、これまでとは比べ物も無いような速度でブーオの剣の間合いへと侵入していった。
そのまま首を斬り飛ばして、終わりにしてしまおうとブラウリオは考えていた。
しかし、首へと迫った剣には何の感触も伝わってこなかった。
ブーオがしゃがみ込むことによって、クラウディオの剣を躱したのだ。
「反応が速いな……」
「お褒め頂きありがとうございます」
別に褒めたつもりはなかった。
ただ単純に思ったことを口に出しただけなので、感謝されるいわれはない。
初撃を空振りに終わり、そのまま2人は睨み合う形になった。
「「ハッ!!」」
お互いが隙を見つけるように睨み合い、お互い同じタイミングで跳び出すことになった。
同時に跳び出した2人は、そのまま鍔迫り合いの形へとなった。
「クッ!」「グッ!」
お互いの武器が当たる音が鳴り響くと共に、2人は衝撃に声を漏らす。
そのまま力比べのような状況へと変わり、ギリギリと音を立てながら鍔迫り合いが少し続いた。
「速度も力も互角か……」
少し続いた鍔迫り合いはお互い押し合う形になり、そのまま力を受け入れるように後方へと跳び退いた。
離れた距離から同時に跳び出し、ぶつかり合った場所は丁度中間地点で、更に押し合いも動かない状況だった。
敵がどれほどの割合の力を発揮したのかは分からないが、身体能力に関しては差がないということは分かった。
「なら、後は魔力か……」
「魔族の私に魔力勝負ですか?」
「だよな……」
残りは魔力の勝負かと思ったのだが、魔族はかなりの魔力を有しているというのが知られている。
魔力量に定評があっても、さすがに魔族よりも上と言い切れる自信はない。
戦闘において魔力量は、勝敗を左右する重要なものだ。
当然魔力量が多い方が有利だが、それだけで強さを判断するのは早すぎる。
魔力を使いこなす能力次第で、勝負はどちらに転がるか分からないものだ。
なので、ブラウリオは魔力量で劣っているとしても焦る気持ちはない。
「ハッ!!」
「くっ!!」
全身しなやかに動かすことにより、ブーオの突きがブラウリオへと接近する。
見た目とは違い、かなりの威力をもった攻撃だ。
それを、ブラウリオは剣を使って弾くことに成功する。
「セイッ!!」
「っと!!」
攻撃を弾かれたことで、ブーオの態勢が僅かに崩れる。
そこを狙って、ブラウリオは剣を振り下ろす。
その攻撃を、ブーオは大きく跳び退くことで回避した。
「想像以上に時間がかかるかもしれないですね……」
跳び退いて距離を取ったブーオは、ブラウリオの強さに高評価を与えていた。
少ないぶつかり合いだが、人化状態での戦いは互角といったところだろう。
「できれば生け捕りが理想なのですがね……」
「……何だ?」
距離を取ったブーオは、決着を早々につけるために魔族としての本性を晒すことにした。
本性などと言う事が分からないブラウリオは、どんどんと魔力が膨れあがるのを止めることも出来ずに見ているしかなかった。




