第242話
「何っ!?」
「どうした? マルシアル!」
突如魔物の集団が出現し、俊輔たちはこの場に避難してきた住民をを守るため、戦闘部隊の者たちと共に魔物の対応をしていた。
出現するのは鳥系の魔物ばかりで、戦闘部隊の面々も頑張っているが、空中から攻撃してくることは結構苦戦しているように感じる。
しかし、それをフォローするかのように俊輔たち一行が動いているため、今の所市民に被害が及ぶのを阻止できている状況だ。
そんな中、戦闘部隊の中でも俊輔たちと面識のある隊員のマルシアルが、何か驚いたような声をあげたため、気になった俊輔はすぐに理由を尋ねた。
「ブラウリオ隊長が魔族と戦っていると……」
「魔族……か」
驚いた理由を聞いて、俊輔は一瞬眉間にシワを寄せた。
魔法陣により出現する魔物たち。
その現象は昔から知っている。
そのため、魔族がいる可能性も考えられたため、俊輔はそれ程反応を示さなかった。
「じゃあ、そいつがこれを起こしてるのか……」
魔族が出現したということは、この魔法陣もその魔族が設置したのかもしれない。
しかし、魔族が1体だけとも限らない。
念のため、俊輔はこの周囲に魔族がいないか探知を広げて確認してみる。
「この周辺にはいないようだな……」
俊輔の探知に引っかかる存在は見つからない。
とりあえずこの周辺に魔族はいないようだ。
「あの子供を相手にしている割には遅いと思ったが、そういう理由だったか……」
ヘロニモとか言う少年の膨らんだ魔力はかなりのものだった。
しかし、俊輔が見た限り、ブラウリオが負けるような相手ではないと思っていた。
殺さないように倒せないかと、時間をかけて戦っているのかもしれないと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
ただ、これでここに来ない理由が理解できた。
「隊長なら大丈夫でしょう! それよりも、この魔物たちを何とかしないと……」
「ブラウリオ隊長がその魔族を倒さないと治まらないんじゃないか?」
自分たちの隊長のことを尊敬しているようで、マルシアルはブラウリオが魔族に勝つと信じているような口調だ。
相手次第だが、俊輔もブラウリオなら何とかなるとは思うのだが、ここの安全のことを考えると一刻もはやく倒してもらいたいところだ。
「では、誰か隊長の所へ援護に……」
「俺が行く!」
「俊輔殿が!?」
ここの魔物を少しでも早く抑えるためにも、ブラウリオの所へ援護要員を送りたいところだ。
その援護要員を誰にするか考え始めたマルシアルに対し、俊輔がすぐさま立候補する。
今さらなのだが、マルシアルをはじめ戦闘部隊の者たちは、客人として招いている俊輔たちに協力してもらって感謝している。
しかし、魔族と言う危険な存在の近くに客人を送っていいものかと、マルシアルはためらってしまう。
「どういう訳か魔族とは縁があるみたいでな。旅行先に現れるんで何体も倒してきた」
「魔族を……、しかも何体も……」
魔族は1体存在するだけで膨大な被害をもたらすということは、魔人大陸内でも知られている。
それを何体も倒しているということは、俊輔は相当な実力の持ち主ということになる。
ここに出現する魔物を苦とせず倒している様を見れば、実力があるのは理解できる。
しかし、魔族を倒せるほどまでかと言われるとよく分からない。
そのため、マルシアルは僅かながら疑いの気持ちが浮かんでいた。
「魔族は大量の魔物を従えていることが多い。ブラウリオ隊長さんも魔物も出されたら、そう簡単に魔族を倒すなんてことはできないだろ。その援護なら任せとけって!」
「…………では、お願いできますか?」
「あぁ、任せとけ!」
客人を危険な地へ送るのは気が引けるが、自信満々の俊輔を見ていると大丈夫そうだと思えてきたため、マルシアルは援護に向かって貰うことに決めた。
その頼みに対し、俊輔は頷いて了承の意を示した。
「そうと決まれば、ちょっと仲間たちに言って来る」
「はい」
俊輔がいなくなる分、ここに向かって来る魔物たちを倒す労力が上がることを仲間たちに伝えておきたい。
マルシアルから一旦離れ、俊輔は京子たちの所へと向かって行った。
「京子!」
「どうしたの? 俊ちゃん」
声をかけた時、京子は木刀で魔物を叩き伏せていた。
上空からの急降下攻撃も、京子自慢の移動速度を利用すればそこまで苦にならないようだ。
「魔族が出たらしい。ブラウリオの隊長さんが競技場に残り、1人で相手しているそうだ」
「魔族!?」
「また? でもこの感じはそうかもしれないね……」
俊輔の言葉に、近くで聞こえていたカルメラが反応する。
しかし、それは無視して京子は納得したように返事をする。
子供の頃に故郷の村で同じようなことが起きた。
その時のように出現する魔物たちのことを考えれば、魔族がいるという方が納得できるというものだ。
「1人じゃ大変だろうから、俺が援護に行って来る」
「分かった!」
「えっ?」
ここに出現する魔物を抑えることができるかもしれないため、魔族を倒すというのは分かる。
なので、京子はあっさりと俊輔の考えに賛成した。
どれも危険度の高い魔物たちばかりで苦労しているため、カルメラはその会話にツッコミを入れたい気分だ。
魔族も危険だし倒せるなら倒してほしいところだが、俊輔が抜けたらもっと大変になるのではないかと考えたからだ。
しかし、それにツッコミを入れる前に俊輔はまたマルシアルの所へと行き、彼に簡単な挨拶をした俊輔はそのまま競技場の方へと走って行ってしまった。
◆◆◆◆◆
「ハァ、ハァ……」
競技場の方のブラウリオだが、軽く息切れを起こしていた。
その足元には、彼が倒したのであろう多くの魔物が横たわっており、どれも絶命している。
どれも危険度が高ランクの魔物たちばかりだが、ブラウリオは無傷で魔物の血で剣を赤く染めていた。
「素晴らしいですね! 大量の魔物相手に無傷とは……」
ピエロのメイクをした魔族の男は、ブラウリオの戦闘に拍手を送ってきた。
自分の魔物が大量に殺されたというのに、何とも思っていないかのようだ。
それもそのはず、倒したばかりだというのにまた魔物が大量に出現してきたからだ。
「これは、息つく暇がないな……」
倒しても倒しても何度も出現してくる魔物に、ブラウリオは辟易してきた。
しかし、魔族の狙いはブラウリオの体力を削ることが目的だろう。
息を整える暇もなく、魔物たちはブラウリオへと迫っていった。
「ハァ、ハァ、いつになったらストックの魔物が尽きるんだ?」
「フフ……、秘密です」
「やっぱりか……」
迫り来る魔物を斬りつつ、ブラウリオはピエロの魔族に問いかける。
答えが聞けるとは思っていない問いだったが、案の定ふざけた答えしか帰って来なかった。
「お前の……お前らの狙いは何だ?」
「狙い? ……ですか?」
魔族はいつも人間の国に被害をもたらす存在。
そんなことをして何が目的なのかと、ブラウリオは昔から疑問に思っていた。
今回、望んだわけではないが目の前に魔族もいることだし、その行動理由を尋ねることにした。
「魔王様復活です!」
「……魔王?」
この質問にも答えがあるとは思ってもいなかった。
しかし、その予想に反して、ピエロは真面目な顔をして答えを返してきた。
ただ、答えが返ってきたこともそうだが、その答えの内容も理解しがたいものだった。
「……クッ!!」
ピエロに続きを聞きたいところだが、段々魔物の攻撃を躱すのに疲れてきた。
話している余裕もなくなってきたブラウリオは、話を中断して魔物の相手に集中するしかなくなってきたのだった。




