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第231話

「あの、先生……全然動かないです」


「ん~……」


 俊輔が魔人の少年ビダルを指導し始めて2週間が経った。

 魔力があると分かって喜んでいたビダルだが、自身の特異な魔力に四苦八苦している。

 体内の魔力を感じるだけで1週間かかったのには頭を悩ませた。

 流れる魔力があまりにも遅すぎて、ビダルも確信がなかなか持てなかったのだ。 

 一応魔力を感じ取れたのだから良しとして、次のステップである魔力の操作の訓練を始めたのだが、1週間経っても何の変化も起きていない。

 大会まで残り2週間も無いというのに、このままでは魔力無しと言われていた頃と何も変わっていないも同じことだ。


「相当粘着力の高い魔力だな……」


「えぇ……」


「意識しても、ほんの僅かしか速くならないうえに、意識を集中していないとすぐに元のノロノロになっちまうな」


 ビダルが操作を試みるのだが、流れが速くなっている様子が見えない。

 意識を集中している時は僅かに速くなているが、本当に僅かと言った感じ。

 その僅かな加速も、集中を切らせばまた元の速度に戻ってしまう。

 進歩が感じられなければ頑張る気持ちも持続しない。

 ビダルは以前のように表情が暗くなっている。


「何だか、頑固汚れみたいだな……」


「酷い言い方ですね……」


 少しでも気分を和らげようと軽いジョークを言ったのだが、ビダルに半眼で睨まれてしまった。

 それでも少しは暗い表情が治ったので良しとしよう。 






「どうしたもんかな……」


「もう1週間しか残ってないんですけど……」


 数日経つが、やはりビダルの魔力の操作速度に変化がない。

 流石に大会1週間前でこれでは、俊輔が指導する意味がない。


「最終手段でいくか……」


「えっ?」


 俊輔の中にはビダルの魔力操作を向上させる考えがあった。

 しかし、それは最後の手段として取っておいたのだが、残りの日数を考えるとそれをやるしかないようだ。


「お前の体内の魔力を、俺が魔力で無理やり動かす。その時の感覚を覚えて魔力が動く感覚を掴め!」


「わ、分かりました!」


 ビダルが自身の魔力を動かせないのなら、無理やり動かしてみるしかない。

 赤ん坊のころから練習している俊輔なら、それをおこなうことができる。

 これで何かしらのきっかけでも掴んでくれれば、もしかしたら間に合うかもしれない。 


「……でも、何でこのやり方を試さなかったんですか?」


「……軽く考えるな!」


「えっ……」


 光明が見えたからだろうか、ビダルは嬉しそうに俊輔へ問いかける。

 しかし、その問いに対し、俊輔は真面目な顔で諫めた。

 俊輔のシリアスな反応に、ビダルは少し面食らう。


「最終手段だと言っただろ? 他人の魔力なんて毒みたいなもんだ。体に入れた魔力をコントロールミスすれば、お前死ぬ可能性もある」


「えっ……」


 まさかそこまで危険なことだとは思っていなかったビダルは、俊輔の説明で顔を青くした。

 大会で良い成績を残したいという思いがあったが、魔力無しの自分では不可能だと思っていた。

 しかし、偶々出会った俊輔に魔力があることを教わり、それを感じられた時は嬉しくて仕方がなかった。

 最初はそれだけでもう良かったのだが、魔力があると分かると自分でも欲深いと思いつつも大会への意識が向いてしまった。

 本来は魔力無しで戦って予選で負けるはずだったのだから、魔力があるというだけで満足した方が良いのかもしれない。

 流石に死という言葉が深く刺さったのか、ビダルは頭の中で自問自答し、しばらくの間茫然としてしまった。


「まぁ、俺なら失敗しないだろうがな」


「えっ……?」


 ミスれば死ぬというのは本当だが、そんなミスを犯すほど俊輔の技術は低くない。

 それでも危険性を減らすためには、ビダル自身にこの訓練のことをしっかり理解してもらいたかったのだ。


「これをやっても絶対に良くなるとは言えないし、体に相当な負荷がかかるが、お前は俺を信じるか?」


「はい!!」


 少しの間とは言っても、他人の魔力を体に流し込んだら何かしらの反動が来る。

 それでも強くなりたいというのなら、俊輔に身を委ねてもらうしかない。

 俊輔のことを信じず体に抵抗を感じれば、その分ビダルの魔力を動かす時間と体への影響が出てしまう。

 少しでも長く動かし感覚を掴むためにも、俊輔を信じてもらうしかない。

 説明を受けてそのことを理解したのか、ビダルは覚悟を決めて力強く頷いた。


「よし! じゃあ、いつものように心を落ち着かせて魔力を感じるんだ」


「はい!」


 俊輔の指示を受け、ビダルは座禅を組んで目を閉じて自分の体内の魔力に集中する。

 背後に立ち、俊輔もビダルの魔力に意識を向ける。


「お前の体のことを考えると、そんな長い間動かせない。死ぬことはないがもしかしたら疲労で数日寝込むことになるかもしれない」


「……大丈夫なんですか?」


 いざという時に怖いことを言う俊輔に、ビダルは少し不安になってきた。


「気を失っても大会までには目を覚ますだろ…………多分」


「今多分って言いました!?」


「大丈夫だって! 行くぞ!」


「……はい!」


 本人が協力してくれるのだから、俊輔なら他人の魔力を動かすことも出来るだろう。

 しかし、死なないにしてもどんだけの反動が来るかは予想できない。

 もしかしたらしばらく寝込むことになるかもしれない。

 流石に1週間寝込まれたら、完全に終わりだ。

 いくら何でもそれはないだろう。

 そう思った俊輔が曖昧な返事になってしまったため、ビダルは不安になって慌てだした。

 そんなツッコミを無視して、俊輔は再度ビダルに集中するように指示する。

 いまいち納得できないが、ビダルは渋々指示に従うことにした。


「せ~の! ムンッ!」


「がっ!!」


 ビダルの魔力を感知した俊輔は、調整した魔力を流し込んだ。

 他人の魔力が流れ込んだことと、自分の魔力が動き出したことで、ビダルは一気に体が重くなった。

 その感覚に耐えきれず、ビダルは思わず声が漏れた。


「苦しいだろうが落ち着け! 体内に意識を向けて流れを感じろ!」


「ぐっ!!」


 体内で自分の魔力が暴れているような感覚と、それによって押し寄せる疲労感に、ビダルの集中力が乱れる。

 これではやっている意味が無くなってしまう。

 そのため、俊輔はビダルに喝を入れる。

 それを受けたビダルは、言われた通りに体内の魔力を感じようと集中しなおした。


「そうだ! 自分でこの流れを作るイメージをしろ!」


「……うっ…………」


 疲労感で気が遠くなる感覚に逆らって、なんとか魔力の流れを感じようと集中しているせいか、ビダルは俊輔の言葉に返事ができないようだ。

 それも仕方がないので、俊輔は黙って魔力を動かす。


「終了!」


 少しの間ビダルの粘着質の魔力を動かし、体を巡らせる感覚を分からせると、俊輔は自分の魔力をビダルの体内から取り出した。

 一度流れ出した魔力は、慣性の法則に従うかのように少しの間流れ続けると、少しずつまた速度が落ちて行った。


「うっ!!」


 懸命に耐えていた疲労感に限界が来たのか、ビダルは頭をフラフラとさせて気分が悪そうな表情へと変化していった。

 気を失う寸前なのかもしれない。


「今の感覚忘れるなよ!」


「は……い…………」


 この状態で多くのことを言っても理解できないだろう。

 俊輔はビダルに対して短い言葉をかける。

 その言葉にギリギリ返事をすることができたビダルは、そのまま意識を手放したのだった。


「さてと、起きたらどれだけ魔力を使いこなせているかな……」


 魔力枯渇で気を失っても1週間寝込むことはないから、そんなに気を失ったままでいることはないだろう。

 問題は、目を覚ました時にビダルがどれだけ魔力を動かせるようになっているかだ。

 干渉して魔力の質を確認したことで、俊輔は元々考えていたビダルの戦闘方法が間違いないと確信し、その訓練を突貫で教えることを決定した。



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