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第229話

「お待たせしました。先程連絡用の鳥の到着を確認しました」


 連絡の不備によりエナグアに連行された俊輔たち。

 俊輔と京子・カルメラは男子寮と女子寮に分かれ、その日はエナグアの兵に監視されながらの生活になった。

 俊輔が人族でも日向人と言う話から、変なちょっかいをかけてくる者もおらず、静かに暮らした。

 従魔のアルスは厩舎に預けることになったが、ネグロは一緒なので遊び相手がいるので時間はあっという間に過ぎてしまう。

 前世を合わせれば精神年齢はかなりのおっさんの俊輔は、別に大人しくしていることは苦ではない。


「アルボリソの村長からの報告により、皆さんは村人たちを助けてくれた事が分かりました」


 手紙のような物を読みながら、戦闘部隊隊長のブラウリオが俊輔たちに笑みを浮かべる。

 見た感じすらっとした体型の優男に見えるが、隊長と言う地位にまで上り詰めただけあってかなりの実力を秘めているのが窺える。

 俊輔たちの協力によって、アルボリソの村が平穏になったことが手紙には書かれているのだろう。

 どうやら1日で監視生活も終わりそうだ。


「こんな扱いになってしまって申し訳なかったです」


「それは別に構わないのですが……」


 たった1日で、アルボリソまでの遠距離を往復するその鳥のことが気になっている俊輔に代わり、京子がブラウリオに返答する。

 京子とカルメラは一緒の部屋で過ごしていたため、俊輔同様それほど苦に思っていない。

 それよりも、これからのことが気になる。


「俺たち旅行して回っているんですけど、ここを見て回ることってできないですかね?」


「……観光ですか? 珍しいですね……」


 魔人大陸は人族大陸よりも強力な魔物が蔓延っていることで有名だ。

 そんな所へ観光しに来るなんて、俊輔たちがかなりの変わり者なのだということが分かる。


「こちらを見やすいところに付けてください」 


「これは?」


 ブラウリオに渡されたのは、エナグアの国旗に描かれている鷲が大きめに描かれたモチーフをしているネックレスだった。

 何故これを渡されたのか分からず、俊輔たちは首を傾げる。


「大陸外からきた方で、招かれている人間かどうかを示す証明用のネックレスですね。もしも何もしていないのに襲われそうになったらこれを見せてください」


「……なるほど!」


 そもそも、いくら日向の人間だろうと、人族に変わりはないので好き勝手に動かれるのは困るのだが、国内ならすぐに情報を入手することができる。

 その目安という意味でも、これを付けてもらうようにしているそうだ。

 人族の印象が悪いことはアルボリソでも理解しているので、これを着けるだけで良いのなら俊輔たちとしても文句はない。


「そうだ! これから王都内を少し案内させましょうか?」


「えっ? 良いんスか?」


「えぇ!」


 1つの村を救ってくれた恩人たちに、監視付きの生活を送らせてしまったことへの罪滅ぼしだとでも言うかのように、ブラウリオは町の案内をしてくれることを提案してきた。

 俊輔たちからすれば、案内役がいれば更に揉め事に遭うことなく町中を観光できるということもあり、素直に嬉しい申し出だ。

 そのため、俊輔たちはその提案をすぐさま受け入れた。


「マルシアル! 頼むよ?」


「かしこまりました!」


 案内役を頼まれたのは、昨日俊輔たちをエナグアまで先導した男性だった。

 そうやらマルシアルと言う名前らしい。

 彼の案内でエナグアの中を案内してもらえるようだ。






「……ここは?」


「あぁ、ここは町の道場だよ。戦闘部隊の兵に所属したい子供たちはここで訓練しているんだ」


 エナグアの街中は特に人族の町と変わりはない。

 しかし、店に並べられている商品があまり見たこともない物ばかりでなかなか面白い。

 民族品らしきオブジェを置いている店を幾つか回り、武器屋などにも案内してもらおうかと思っていた俊輔は、子供たちの声が聞こえて来た建物のことが気になった。

 それをマルシアルに尋ねると、説明しながら中へと案内してくれた。


「俺も昔はここに通った口だ。見学を頼んできてやるよ」


「頼んます」


 マルシアルも通っていた道場だったらしく、少しの交渉で見学をさせてもらえることになった。

 道場に入ると、人族大陸なら成人したくらいである15歳前後の子供たちだった。

 みんな魔力操作や、剣や武道の指導を受けていた。

 魔法の授業もあり、みんなかなりの威力の魔法を的に当てていた。

 人族よりも魔人族の方が環境の影響からか魔力量が違う為か、かなりレベルが高いように思える。


「みんな気合入ってるな……」


「もうすぐ武術大会があるからな」


 人族である俊輔たちがいることに、最初の内は警戒と珍しい物を見るような目をしていたが、それも招待証のネックレスをしていることから気持ちを切り替えたのか、稽古の休憩時間も各々訓練をしている。

 なんとなく空気がピリピリしているように感じた。

 そのことを俊輔が感心していると、マルシアルがその理由を教えてくれた。


「武術大会すか?」


「トーナメント方式の大会で、上位の人間には戦闘部隊への仮入隊ができるようになる」


 どうやら、エナグアの戦闘部隊は市民にとってかなり人気の職業らしく、その部隊へ入隊するための登竜門となる大会がもうすぐ開催されるらしい。

 そこで上位に入り、仮入隊し、そのまま正式に入隊するのがコースとなっているとのことだ。


「強くないと魔物の餌食になってしまうからな」


「なるほど」


 ここの大陸の魔物は強力だ。

 生半可な強さではすぐに命を落としてしまうことになる。

 そうならないためにも、実力重視で選ばれるようだ。


「楽しそうだな……」


「観戦したいのか?」


「できるんすか?」


 子供たちとは言っても、なかなかレベルが高い者たちの戦いが行われるなんて面白そうだ。

 人生かけて一生懸命に戦う姿は、きっと見ている者にとっても何かしら胸に訴えかけるものがあるはずだ。

 そんな大会があるのなら、俊輔としてはできれば観戦したい。


「う~ん。多分可能だと思う」


「じゃあ、頼んます」


 戦闘部隊への入隊のための大会なのだから、戦闘部隊の面々も観戦に行くことができる。

 市民だとチケットを入手しないと観戦できないが、戦闘部隊の者ならフリーパスだ。

 俊輔たちは客人と言う扱いなので、戦闘部隊の者が同伴すれば入ることは可能のはずだ。

 隊長のブラウリオにも確認するが、恐らくは可能なはずだ。

 観戦できるというマルシアルの発言に、俊輔たちは頼ることにした。


「ん?」


「うぅ……」


 訓練の見学を終え、宿探しをする前に俊輔は小便をしにトイレへ向かった。

 道場の端にあるトイレから帰る途中、ある少年が俊輔の目に入った。

 こんな道場の隅で、所々汚れて怪我をしている。

 稽古で負った怪我のようには見えない。

 恐らく、他の者にいじめられていたのだろう。


「くそっ!!」


 いじめられている自分が許せないのか、少年は地面を拳で叩きつけた。


「少年! 一人で訓練とは偉いな!」


「っ!! あ、あんたは、招待証持ちの……」


 いじめられていた所を直接見たわけではないが、この少年からしたら誰にも見られたくないことだっただろう。

 しかし、実は俊輔はこの少年を稽古中から気になったので、一人の今話しかけることにした。

 少年の方も、珍しい見学者である俊輔のことを覚えていたような反応だ。


「見てたのか?」


「…………いや、直接は見ていない。まぁ、何をされたのかは予想できるが……」


 招待証を持っているとは言っても、所詮は人族。

 そんな人間にいじめを受けていたところを見られたのかと、少年は俯きながら問いかけてきた。

 そんな少年に対し、俊輔は正直に話すことにした。


「君は稽古中から表情が暗かったな?」


「……頑張っても戦闘部隊入りは無理なんだ。僕は魔力が使えないから……。きっと今度の武術大会も、きっと初戦で負けちゃうんだ」


「…………少年! 俺が指導してやろう!」


 魔法が使えていないのは稽古を見ていて分かっている。

 恐らくいじめられている理由も、それなのだろう。

 魔力が使えなければ、魔闘術どころか魔法も打てない。

 それでは全く戦力にならないため、確かに大会では勝てる見込みはないだろう。

 このままなら……。


「えっ? いや……」


「明日の早朝5時に、ここから少し離れた所にある広場に来なさい!」


「えっ!? ちょっと……」


 急な俊輔の提案に、少年は面食らう。

 そもそも、俊輔のことなんてただの人族としか理解していない。

 そのため、指導してやるなんて言われても何を言っているのか分からない。

 少年は断ろうとしたのだが、断る前に俊輔は言いたいことだけ言って去っていってしまった。



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