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第227話

「お前たちがアルボリソに現れた人族か?」


 サムティと呼ばれている村にたどり着くと、俊輔たちは周囲を囲まれた。

 とりあえず手を出してくる気配はないが、かなり警戒しているように見える。

 門番の男が連れてきた村長らしき老人が話しかけてきた。


「あぁ……って、俺たちの情報が入っているのか?」


「アルボリソの村長より伝書鳥によって手紙が届いている」


 どうやら俊輔たちがここに来ることは、アルボリソの村長が知らせてくれていたらしい。

 それならそうと言ってくれればと思わなくはないが、情報が入っているのなら問題ない。

 

「不審な人族がうろついているから、確かエナグアの兵が進軍しだしたという話だ」


「えっ!? 何でそうなってるの!?」


 話しの内容がおかしい。

 俊輔たちが現れた時に連絡したっきりで、もしかしたら襲い掛かってきた組織から村を救ったということが伝わっていないようだ。

 しかもエナグアの兵が動いているというのはどういうことだろうか。


「兵が動いているってどういうこと?」


「人族が何の狙いもなく魔人大陸に出現するなどあり得ん。アルボリソはどうしたのだ?」


 どうやら予想通りのようだ。

 魔人を攫う組織の壊滅を俊輔たちが行ったということは伝わっていないようだ。

 アルボリソの村長は何をしているのか。


「緊急時の伝書鳥が来ていないということは、滅ぼしたという訳ではあるまい?」


 詳しく聞いてみると、アルボリソの村が何かしらの原因で滅んだ場合、サムティの村に報告が来るようになっていたらしい。

 しかし、その報告が来ていないため、村が滅んだわけではない。

 そのため、俊輔たちがアルボリソに入れず、こっちに狙いを変えたのだろうと、ここの村長たちは思っているのかもしれない。


「……特に何もしていないけど?」


 自分から村を救ったなどと言って、英雄気どりをするのはなんとなく恥ずかしい。

 別にアルボリソに迷惑はかけていないので、俊輔は当たり障りのないように言った。

 何の危害も加えていないのだから間違いではない。


「人族は我々魔人が何もしていなくても攻め込んでくるもんだ」


「なるほど……」


 そう言われてしまうと何と言い返していいか分からない。

 アルボリソに攻め込んで来た者もそうだし、昔は魔人領に攻め込む人族の国も居たという話だ。

 大抵が自分勝手な侵略行為だったらしく、全部人族側が敗北したとの話だ。

 毎回追い出したとは言っても、ただ暮らしていただけの魔人たちからしたら迷惑以外の何物でもない。

 それが何度も起こったのだから、魔人からしたら人族は何の狙いもなく魔人大陸に来るようなことは無いと思っているのかもしれない。


「エナグアの兵が来たら私たちはどうなるのですか?」


「連れていかれて色々聞かれるんじゃないか?」


 報告が来ていないのではどうしようもない。

 エナグアの兵も動き出しているということだし、大人しくしているのが一番だろう。

 それよりも、京子の言うようにエナグアの兵が来てからのことが気になる。

 京子の問いに対し、村長はあっさりと返事をする。

 俊輔たちの行く末なんてあまり興味が無いから適当なのかもしれない。


「折角魔人大陸に来たのに人族大陸へ戻されるのは勘弁だな……」


「そうだね……」


 村長たちと話を終えると、俊輔たちはある建物に案内された。

 この建物内でエナグアの兵が来るまでの大人しくしていろということらしい。

 エナグアの兵に引き渡されるとなると、もしかしたら強制送還されるという可能性もある。

 まだたいして魔人大陸を回った訳でもないのに、戻されてしまうのは面白くない。

 俊輔の呟きに京子も同意する。


「監視も少ないし、ここから脱出するか?」


 どうやらこの村の者たちは俊輔たちをあまり脅威に思っていないらしく、建物付近には監視が少ない。

 アルボリソの村人同様に、この村の若者たちはある程度訓練を重ねているらしく、体つきはなかなかしっかりしている。

 俊輔たちが逃げ出そうものなら捕まえられる自信があるようだ。

 そんな監視の少なさに、カルメラが脱走の提案をしてくる。


「……やめておこう」


 たしかに、俊輔たちなら数人しかいない監視を撒くことなんて難しくないだろう。

 しかし、そんなことをして指名手配されるようなことにでもなったら、魔人大陸を回ることは難しくなるかもしれない。

 逃走は、エナグアでのやり取り次第の最終手段として取っておく。

 そのため、俊輔はカルメラの提案を却下した。


「それよりも……」


「ん?」


 俊輔には、この村に入った時から気になっていたことがある。

 確認するため、今いる建物の窓からそれを眺める。


「なぁ、あそこにあるのは温泉か?」


「んっ? あぁ、その通りだ」


「やっぱり!」


 窓を開けて建物の出入り口付近にいた監視役の男に、俊輔は問いかける

 思った通りの答えが返ってきて、俊輔は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 俊輔が気になっていたのは、湯気が上がっていた建物だ。

 村を歩いている時にその建物が目に入り、何の建物かと思って目を向けてみると、前世でも見た温泉マークが看板にか描かれていた。

 この世界でもそのマークは使われているが、日向だけだと思っていた。

 しかし、まさか魔人大陸でも使われているとは思わず、二度見してしまった。

 もしかしたら違う意味をしているのかと思って監視の男に聞いてみたのだが、やはりあのマークは同じ意味のようだ。


「昔、エナグアの宰相になった人が、教えてくれたのだ」


「おぉ! まさか予想外な場所に……」


 どうやら、ここの住人の半分近くはエナグアに住んでいた者が移り住んだ場所で、距離的にもそんなに離れている訳でもないため可能だったらしい。

 エナグアの要人も、村の発展のために温泉発掘の助力をしてくれたようだ。

 そのお陰もあって、この村は少しずつ発展してきていて、まだ村と言ってはいるが、もう数年すれば町と呼べるほどに人も増えてきているとのことだ。

 この大陸に来て予想外の温泉に、俊輔は驚くのと同時にどんなお湯なのか気になって来る。


「俺たちも入っていいか?」


「……監視付きで良いなら構わんぞ」


「よっしゃ!」


 監視の男は俊輔の質問に対し、少し考えたあと条件付きで了承した。

 エナグアの兵に受け渡しするまで、この人族たちを何もせずに建物内に閉じ込めて置いたら暴れる可能性がある。

 そのことを危惧したのか、温泉に入るぐらいは許可しようと思ったのかもしれない。

 理由はどうあれ、俊輔からしたら久々の温泉が入れるなら気にしない。

 許可が得られた俊輔は、思わずガッツポーズをして喜んだ。


「楽しみだね?」


「あぁ!」


 京子たちを監視する女性を呼び、男性の監視員と共に温泉施設へと向かう途中、京子と俊輔は楽しそうに会話をしていた。


「温泉てそんなにいいものなのか?」


「ほっこりして気持ちいいよ!」


「入ったらわかるって!」


 カルメラは温泉は初らしく、ただの風呂と違うのか疑問に思っている節があった。

 そんなカルメラに、京子は笑顔で温泉の良さを説明した。

 しかし、言葉だけではいまいち良さが伝わるとは思えない。

 そのため、俊輔は物は試しとカルメラを温泉に誘った。


「言っておくが、混浴ではないぞ」


「……失礼な。そんなこと期待していないよ!」


 監視の男性は、俊輔が若いのにもかかわらず温泉の良さを理解しているのが何かあると思ったのか、混浴ではないと忠告をしてきた。

 元々そんなこと考えていなかったが、そんな風に見られていたのかと思うとちょっと気分が悪い。

 だが、混浴だったら良かったのにという思いもなくはない。

 そのため、監視の男に言い返す俊輔の言葉はそれ程強いものではなかった。



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