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第226話

「ここの大陸は本当に魔物が多いよな……」


「そうだね。魔素が強いからね~……」


 突如現れた巨大なワニを仕留め、俊輔は一息つきながら感想を述べる。

 それに対し、京子も俊敏な蝙蝠の魔物を倒して同意する。

 アルボリソの村を出発してから、色々な魔物が俊輔たちに襲い掛かってくるので、身体的にというより精神的に疲労が重なってくる。 


「………………」


 俊輔と京子の会話を、カルメラはただ茫然とした表情で聞いている。

 2人が仕留めている魔物は、どれも人族大陸では高ランクで危険と認定されている。

 そんな危険な魔物でも、2人にかかると普通に会話をしながら相手にしているのだから、何を言って良いか分からず言葉も出なくなってくる。

 この大陸に来てから、2人の非常識さは慣れたつもりではいたのだが、こうもあっさりと高ランクの魔物を苦も無く倒しているのを見ていると、自分の感覚が狂ってしまいそうになる。


「どこに向かってるの?」


 行き先は俊輔に任せているため、京子は道が合っているのかすら分からない。

 道も有ってないようなもので、人が進める道を選んで進んでいるだけでしかない。

 ダチョウ型の魔物であるアスルがいるので馬車で一気にと行きたいところだが、そんなことしたら幌の中で上下に飛び跳ねることになってしまう。

 なので、地道に足を使って進むしかない。

 アルボリソの村からもう1週間近く経っている気がする。

 しかし、いつまで経っても人の住んでいるような場所が見えてこない。

 夜は野営をして過ごしているのだが、さすがにゆっくりと布団で寝たい気持ちになって来ため、京子は今更ながら行き先を聞くことにした。


「ここだ!」


「……この村に何かあるの?」


 京子の質問に対し、俊輔は魔人大陸の地図を開いて説明をする。

 その指先には、サムティという名の村が描かれていた。

 場所は分かったが、何か行く目的があるのかと思って京子は問いかけた。


「ここは、昔人族の国が拠点として作った基地跡を町へと作り変えた所らしい」


「人族が?」


 アルボリソの村を出る前に、バスコに他の村のことを尋ねた。

 あまり他の村のことは詳しく知らないと言っていたが、少しだけ教えてもらうことができた。

 何でも、サムティという村が今ある場所は、昔人族の軍事拠点として切り開かれた場所だったという話だ。

 国ではないが、アルボリソでも多くの人族が攻め込んで来た。

 同じようなことが昔にも起こっていたらしいことに、京子は若干眉をひそめる。


「魔人だけでなく獣人にも迷惑かけてたって話だよね?」


「あぁ……」


 京子の言うように、人族は魔人だけでなく獣人にも迷惑をかけていた。

 獣人大陸は、人族大陸とは距離があるということもあって、魔人大陸程ではないが、それでも幾度となく人族の国が攻めてきたという話だ。 


「人族は昔からおかしいのが多いってことだな……」


「本当だね……」


 人族の者たちは、今と変わらず他人種に迷惑をかけていたということになる。

 今ではお互いに攻め込まないように大陸間で条約を結んでいるが、それでも細かいことで迷惑をかけている状況だ。

 一応同じ人族なので、俊輔たちとしても考え物だ。


「……そんな村に行っても、また追い返されるだけだろ?」


「かもな……」


 俊輔たちの会話を黙って聞いていたカルメラは、正論をぶつけてきた。

 確かに、アルボリソでも最初は人族の俊輔たちをかなり警戒していた。

 問答無用で襲い掛かて来たほどだ。

 サムティでも同じようにされることが予想される。


「じゃあ、どうするんだ?」


「……何とかなんじゃね?」


 予想できるなら何か対策でも考えているのかとカルメラが問いかけるが、俊輔からは確証のない答えが返ってきた。

 いきなり攻めかかられても何とかできると思っているのだろう。

 俊輔たちの実力からいって返り討ちにすることはできるのだろうが、それではとても観光なんて言っている場合ではない。

 行ったところで、また魔人たちから見た人族の印象を悪くさせるだけのように思える。


「……そんな適当なことで大丈夫なのか?」


「アルボリソでも結果的に大丈夫になったし、大丈夫だろ?」


 たしかに、俊輔の言うように、最初入村拒否していたアルボリソでも村の中を見て回ることはできた。

 しかし、それは攻め込んできた人族たちから村を守ったというハプニングを、解決したことによって信用されたからだ。


「たまたまだろ?」


「……まぁ、行き当たりばったりで行こうって話だ」


 アルボリソの時のようなことが、頻繁に起こることはあり得ない。

 毎回同じような結果になることは限らないため、カルメラは俊輔に策を考えてもらいたいところだ。

 しかし、俊輔からしたら相手がどう反応をしてくるのか分からないため、考えた所でどうしようもない。

 考え過ぎて変な態度をとってしまうよりも、いつも通りの感覚で行った方が分かってもらえるのではないかと思う。

 カルメラの言いたいことも分かるが、結局俊輔は無駄に考えないことに決めた。






「あっ! あった!」


 何度も魔物の襲撃を食らいながらも進んで行っていると、ようやくサムティの村の入り口らしき場所を発見することができた。

 久々に人間を見ることができた京子は、思わず声をあげた。


「っ!!」「……人族!?」


 村の入り口らしき場所で周囲の警戒を計っていた2人の門番は、俊輔たちの姿を見て驚きの表情に変わる。 

 いつもと変わらない日々に、いきなり問題ばかり持ってくる人族が姿を現したのだ。

 当然のように門番たちは俊輔たちへの警戒を強め、武器の槍を構えた。


「やっぱりそんな反応するよな……」


 武器を向けられた俊輔たちは、攻撃の意思が無いというのを示すように両手を上げて、門番たちから少し離れた場所で立ち止まった。

 いくら何でも、人族なんてそうそう会うことなどないだろう。

 急に現れたら警戒するのは当然だ

 門番たちの予想通りの反応に、俊輔はどうしたものかと考えをめぐらす。


「あの~……、我々は旅行者なのですが、村に入れてもらうことってできますか?」


 武器を向けられて、両手を上げたままでいる俊輔は、とりあえずは下手に出てみた。

 魔人大陸に旅行に来るなんて、それだけでおかしな者だと思われるだろうが、ヘタに嘘を吐いてバレた時の事を考えると正直に話した方が良いだろう。

 俊輔は門番の2人に入村の許可を求めた。


「……そこで待っていろ!」


「入れるのかな?」


「もしかしたら捕まるかもしれないぞ」


 門番の内の一人が俊輔たちに指示を出すと、村の中へと姿を消していった。

 もしかしたら、村の誰かに相談しに行ったのかもしれない。

 抵抗の意思がないことを言ってもらえれば、村の中に入れる期待が出てきた。

 京子が少し嬉しそうに言うが、慎重なカルメラは忠告をしてきた。


「俺たち何もしてないけど?」


「我々は何もしてなくても、人族はこれまでの歴史上幾度となく魔人族へ迷惑をかけて来たとお前も言っていただろ?」


「なるほど……」


 カルメラの言うことはもっともだ。

 これまでの歴史を考えれば、有無を言わさず捕まるということもあり得る。


「流石に捕まったりするのは嫌だな……」


 たしかに捕まってしまうという可能性もあるが、問答無用でとなると俊輔としても困る。

 俊輔だけならまだ我慢できるかもしれないが、京子たちまでとなると話は別だ。

 もしも京子たちの命に危機が迫るようなら、俊輔は人族の印象なんて気にすることなく大暴れするつもりだ。


「あっ! 誰か来た……」


 俊輔がもしもの時の事も考えていたところへ、先程待つように言った門番の一人が、老人と数人の若者を引き連れて戻ってきたのだった。


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