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第225話

「これはこっちで良いのか?」


「あぁ、そこに置いておいてくれ」


 机を持って問いかける俊輔。

 それに対し、バスコはソファーを運びつつ返答する。

 何をしているかというと、現在俊輔はバスコの引っ越しの手伝いをしている。

 これまで人族との繋がりを疑っていた者たちも、今回の件でその疑いを解消したのか、バスコの入村を禁止しなくなった。

 魔人の誘拐をしていた組織が壊滅したのが理由なのは言うまでもない。

 攻めてきた人族を倒して手に入れた地図には、その組織の拠点らしき場所も描かれていた。

 そのため、俊輔が念のためその拠点らしき場所へ行ってみると、村から連れて来られていた子供たちが数人檻に閉じ込められていた。

 最初俊輔を見た時は怯えていたが、村に返すことを話したら嬉しそうについてきた。

 流石に連れ去られた全員を返すことはできなかったが、子供が戻ってきた親たちは涙ながらに俊輔に感謝の言葉をかけてきた。


「それにしても、ここの人間は調子の良い連中だな……」


「んっ?」


 平気で入村できるようになったのは俊輔も同様だが、そのことで俊輔はちょっと納得できない思いがあった。

 その言葉に、家具の配置をしながら聞いていたバスコは首を傾げる。


「村を救ってくれたから村に住んでもいいなんて……」


「そう言ってやるな、今回のことはかなり危険だったんだから」


 俊輔の言いたいことも分からなくない。

 これまで何度自分は人族との係わりは無いと言っても、バスコは疑いの感情からか入村を断られ続けていた。

 友人の子であるサウロやアイラのことを守るためにはできれば村の中にいたいのだが、それができないのでやむなく村から少し離れた場所に住むことしかできなかった。

 ただ、今回の人族の侵攻を阻止したことで、手のひらを返したように村人たちはバスコを否定しなくなった。

 その手のひら返しが、俊輔の言う所の調子がいいという所なのだろう。 


「サウロたちの近くにいられるなら俺はそれでいいさ……」


「……あっそ」


 死んだ友人に頼まれたからサウロたちの面倒を見るようになったのだが、今では自分の子供のように思ている節がある。

 2人がちゃんと大人になるまで見届けたいという思いがあるため、バスコとしては近くで暮らせるなら理由はどうでも良い。

 バスコが良いというなら、俊輔としてもこれ以上言うつもりはない。


「一番文句を言ってた奴もおとなしくなったしな……」


「あぁ、あいつな?」


 元々、バスコが村人全員から否定されていたという訳ではない。

 ならば、どうして入村できなかったかというと、村長の息子が原因だった。

 同い年の村長の息子は、昔から知識以外でバスコには勝てないでいた。

 もしかしたらそれが理由なのかもしれないが、村に戻ってきたバスコを難癖付けて村に入れないように画策した。

 村人たちには若きリーダーとして人気があったため、多くの村人が彼の考えに流されてしまっていた部分があった。

 それも、今回人族の撃退に成功したことで一気に吹き飛んだ。

 村のために戦ってくれたバスコのことを、批判する方がおかしいという風潮に変化したのだ。

 そのため、村長の息子も何も言えなくなってしまったというのが現状だ。


「あっちの家はあのままで良かったのか?」


「あぁ、時折見にいくつもりだ」


 俊輔たちも宿泊した、村から離れた場所にあるバスコの家はそのままに、今は村の中に俊輔が作った地下通路の入り口の所に家を建てた。

 魔法を使って俊輔があっという間に作った家だ。


「今回の時のように非常事態が起きた時の避難場所にもってこいだからな」


「通路の創作者としては無駄にならずにありがたいよ」


 どうやら、これまでバスコが住んでいた家は避難場所としてそのままにしておくつもりらしい。

 あそこも一応強力な魔物が出現しない地域になっているので、滅多なことでは壊れはしないだろう。

 それでも弱い魔物が住み着いてしまうかもしれないので、バスコは点検のために時折見に行くつもりだ。

 膨大な魔力を使って作った通路も、このままバスコが維持することになった。

 折角作った通路が、村に戻れたからもういらないと言われる可能性もあったため、俊輔としては頑張りが無駄にならなかったことに安堵した。






「フンッ! フンッ!」


 バスコと俊輔が引っ越しの作業をしている家の外では、サウロが剣の素振りをおこなっていた。

 重いものを運ぶのに子供がいると危ないので、剣の訓練を京子に任せた。


「剣が下がってきてるわよ!」


「ハイッ!」


 京子の指導により、だいぶ素振りも様になっているように思える。

 どうやら、バスコや俊輔より京子の指導の方が上手いようだ。

 上達を実感できているからか、ヤンチャなサウロも京子の指導を素直に受けている。

 もしかしたら、ただ単純に京子は怒らせると怖いという思いがあるからかもしれないが……。


「エイッ!」


“パシュ!!”


 京子とサウロから少し離れた場所で、アイラの指先から小さな魔力の玉が飛んで行き、木に吊るされた的のようなものに当たった。

 飛んで行ったと言ってもかなりスローモーションで、小さな虫を狙っても避けられてしまいそうな弱い威力だ。


「………………」


「……一応成功ね」


 的に当たったのを見たアイラは、すぐさま側に立っていたカルメラの方に振り向く。

 キラキラと音がしそうなほど輝いた目で、とても嬉しそうな表情をしている。

 その目に見つめられたカルメラは、にっこりと微笑みながらアイラの魔法の成功を認めた。


「やった!」


 カルメラに認められたアイラは、その場で嬉しそうにバンザイした。

 これまで何度か練習しても、狙いを付けた場所へ魔力を飛ばすことができなかった。

 手から離れた魔力をコントロールすることが、上手くできなかったのだ。

 それがようやく成功したので、これまでがんばったのが報われた思いで嬉しくなったようだ。


「おめでとう!」


「えへへ……、ありがとう。お姉ちゃん!」


 喜んでいるアイラの頭を撫で、カルメラはこれまでの頑張りを褒める。

 はっきり言って、カルメラの採点は甘い。

 あんな威力では、身を守ることになんて使えるレベルではない。

 しかし、元々兄のために魔法を使えるようになりたいというアイラの気持ちが昔の自分に思え、厳しく言うことができなかった。

 成長速度からいっても、アイラはまあまあ才能があるかもしれない。

 京子のような化け物にはなれないだろうが、きっといい魔法使いになれるはずだ。

 魔物の被害を警戒して、子供を村から離れさせないという考えは正しいが、女性も戦いに参加させないという考えはいただけない。

 魔人族全体がそうなのか、それともこの村だけの考えなのか分からないが、今回のことでアイラ同様、村で少し魔法が使える女性たちが京子やカルメラに指導をしてほしいと言ってきた。

 彼女たちは、前々から女性も危険な目に遭った時のために魔法が使えるようになっているべきだという考えを持っていたらしい。

 村の男性たちも、外に出て狩りに出る訳ではないのだからと、賛成するように変わったのだそうだ。

 その申し出に、それならばと簡単な魔力操作の訓練を進めておいた。

 いつかは女性が狩りに出ることがあるかもしれない。






「……本当に出て行くのか?」


 バスコの引っ越しが終わった翌日、俊輔たちは村から出て行くことにした。

 見送りはいらないと村の者たちにも言っておいたが、それはできないとバスコたちだけは見送りに来ていた。

 村の入り口で、バスコは俊輔たちが行ってしまうことに寂しい思いがしていた。

 そのため、最後にもう一度と、俊輔の気持ちを確認した。


「……あぁ、世界を見て回るって決めてるからな」


「そうか……」


 俊輔としても折角仲が良くなったのだから分かれるのはつらい。

 しかし、世界旅行の旅はまだまだ終わっていない。

 その答えを聞いて、バスコは寂しそうに眉を下げる。


「まぁ、一周したらまた来るかもしれないけどな」


「……そうか」


 分かれるのはつらいが、これが今生の別れになる訳ではない。

 来ようと思えばまたいつか来れる。

 そのことを告げると、バスコも寂しく分かれるのは違うと思い、下げた眉を元に戻した。


「俊輔……」


「何だ? サウロ泣いてるのか?」


 バスコの近くにはサウロとアイラも一緒に来ていた。

 2人も俊輔たちを見送りたいとバスコに頼んだらしい。

 初めて会った時は人族として警戒していたが、何度か会う内にその思いも完全に消え去ったようだ。

 同じ人族でも、俊輔たちだけは違うという認識になったのかもしれない。

 仲良くなったのに別れの時が来て、いつもはヤンチャなサウロが目に涙を浮かべている。

 こう言ったところは子供らしく、俊輔は何だか嬉しくなる。


「な、泣いてなんかない!」


「そうか。流石男だ!」


 少しからかうような俊輔の問いに、サウロは強がって目をこする。

 やっぱりサウロはこんな風な態度の方が合っている気がする。

 そのため、俊輔は泣くのを我慢したサウロを褒めて頭を荒っぽく撫でる。


「いつかまた来るから、それまでに強くなってろよ!」


 バスコにも言ったように、サウロにもまた来ることを約束する。

 それが嬉しいのか、サウロはされるがまま俊輔に撫でられた。


「あぁ!! 俊輔より強くなってやる!!」


「そうだ! その意気だ!」


 以前も言ったように、いつか俊輔のように強くなる。

 それをもう一度約束をするようにサウロは言ってきた。

 俊輔もそれを否定する訳でもなく、素直に応援するように笑った。


「……京子お姉ちゃん!」


「泣かないで、アイラちゃん!」


 子供好きの京子は、泣いているアイラを見てオロオロしている。

 どうしていいか分からないと言ったような表情だ。


「……カルメラおねえちゃん!」


 京子の慌てように、少し泣くのが止まったアイラは、カルメラにも目を向ける。


「あなたなら練習すればきっと強くなれるから、もしもの時はお兄ちゃんを守ってあげてね?」


「そうよ! 何ならお兄ちゃんより強くなっちゃいなさい!」


「うん! 2人ともありがとう!」


 俊輔もそうだが、魔法の練習に何度も付き合ってくれた2人との別れに、アイラは悲しくなる。

 しかし、2人に教わって少しだけ自分も強くなれた気がする。

 その感謝の言葉を告げようと見送りに来たのだが、しっかりと言えてアイラは笑顔になった。

 その笑顔だけで、京子とカルメラは教えた甲斐があったと嬉しくなった。


「じゃあ! またな!」


「あぁ! またな!」


 サウロとアイラがネグロとアスルにも別れを告げたのを確認し、俊輔は最後に別れと再会の挨拶をして握りしめた拳をバスコへ向ける。

 その意図を正確に理解したバスコも、同じように拳を握り俊輔の拳へくっ付ける。

 グータッチで別れを終えた俊輔はバスコたちに背を向けて、魔人大陸最初の村であるアルボリソから離れて行ったのだった。



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