第224話
「で? これからどこに向かうんだ?」
襲撃者を打ち払ったことで平和を取り戻し、村は祝いとして祭りを開くことになった。
急ぐ旅でもないので、俊輔たち一行も参加することになった。
というより、そもそも人族を打ち払った俊輔たちのために開かれた祭りのため、主役にいなくなってもらっては困るだろうと、バスコに止められたという所がある。
折角だからと、俊輔はこの大陸に来て襲い掛かってきたのを返り討ちにし、念のためと収納していた魔物の肉を祭りのために使うように提供した。
その肉の量が半端ではなく、村人は多くの料理で腹をいっぱいにしていた。
大人たちは、村で作った酒をこの日ばかりはと飲みまくり、泥酔している者もチラホラと見受けられる。
飲めや歌えの祭りも進んで行く中、今回の功労者の一人として村の者たちに捕まったバスコが、俊輔の隣へ座ってきた。
そして、俊輔のコップへ酒を注ぎつつこれからの行き先のことを尋ねてきた。
「まずは、ここから南にある村へ向かうかな……」
「南の村というとモンテルか……」
手に入れた魔人大陸の地図を見ると、ここから一番近いのが、バスコの言ったモンテルという村だ。
魔人大陸は危険な魔物が蔓延っているため、村を作ることも困難になっている。
そのため、大陸の中にある町や村は数少ない。
この村から南にかなり行ったところに村が存在しているらしいので、まずはそこへ向かうつもりだ。
「……っていうか、この村アルボリソって名前だったのか?」
「知らなかったのか?」
地図を手に入れて、俊輔はようやくこの村の名前を知ることができた。
名前のことなんて聞かれなかったため、バスコは俊輔の質問に質問で返した。
「入れてもらえなかったからな」
「そうか……」
この村の名前を尋ねようにも、誰も俊輔の話なんて聞いてくれなかった。
そのため、村の名前を知ることができないでいた。
バスコたちと仲良くなった時には、もう名前なんてどうでもよくなっていたので、聞くこともなくなっていた。
そもそも、村の名前なんてそれほど重要なことではない。
知った所で何か変わる訳でもない。
俊輔の返事で何となく興味が無いことがわかったのか、バスコも軽い感じで受け流した。
「近くの村を回って、最終的にはエナグアって国に向かうつもりだ」
ここを含めても、魔人大陸で町や村と呼べるのは数えるくらいしかないため、移動距離だけ長い旅になってしまいそうだが、それはそれで楽しめばいいこと。
エナグアという大きな国をゴールとするように設定して、魔人大陸を回るつもりだ。
「エナグアか……、あそこはこの大陸で一番でかい国だからな……」
「……何でエナグアは発展しているんだ?」
エナグアと聞いて、バスコは思い出すかのように感想を述べる。
もしかしたら、行ったことがあるのかもしれない。
それにしても、強力な魔物が跋扈する魔人大陸で、どうしてエナグアだけが発展しているのかが気になる。
「エナグアの南にある島が理由だ」
「南の島?」
俊輔の問いに答えるように、バスコは俊輔が出した地図の一部を指差す。
エナグアの南を指さした場所には、確かに島が存在している。
しかし、その島が何でエナグアの発展に関係しているのか分からない。
「ドワーフたちが住む島だ」
「おぉっ!! ドワーフ!?」
バスコの説明を聞いていると、俊輔としては聞き逃せない情報が出てきた。
異世界と言ったらやっぱりドワーフにエルフだろうと、俊輔はテンションが上がった。
この大陸の最終目的地を決めて間もなく、その次の行き先まで決まってしまった。
「ドワーフ族は、今から何代か前の王様が天才魔道具開発者でな、その時からずっと世界の魔道具開発のトップを走り続けている」
「そうらしいな……」
異世界物のラノベならお決まりのように、この世界でもドワーフは手先が器用で有名だ。
魔道具もそうだが、武器等の鍛冶も得意で、世界で業物と呼ばれる武器は大体がドワーフが制作したものである。
武器や魔道具などを他の国に売ることで利益を得て、平和な暮らしを送っているという話だ。
「魔人族は多くの武器や兵器を与えられ、それによって何とか生き残ってきた。だから魔人族はドワーフ族に会ったら丁重にもてなすのが常識になっている」
「へぇ~……」
人族によって危険な大陸で生きることを余儀なくされた魔人たちは、魔物に対抗する力が弱く、いつも戦々恐々としていた。
そんな時、ドワーフが作った武器を与えられたことで、何とか少しずつ魔物と戦える力をつけて行った。
最初に武器を譲られたのが、現在のエナグアに住む者の祖先だったらしく、その後に余った武器などが大陸中の魔人に届けられ、小さいながらも町や村ができていったとのことだった。
その時の感謝の気持ちが今でも言い伝えられており、ドワーフの島の方角に足を向けて寝れなくなっているのだそうだ。
「今でも近い分、エナグアはドワーフの魔道具を買うチャンスが多い。そのお陰もあって、一番発展しているのだろう」
「なるほど……、行くのが楽しみだな」
ドワーフの魔道具がどれほどのものか分からないが、魔人たちのことを救ったとなると相当高性能なものが多いのだろう。
どれほどの物だか分からないが、武器や魔道具を見て回るのもとても楽しそうだ。
そう思って、俊輔が思わず口にした言葉に、バスコは一瞬固まったような反応をした。
「ドワーフの島へ行く気なのか?」
「……あぁ、魔人大陸を回った後にだが……」
少し真面目な表情になったバスコの問いに、俊輔はさっき決めた進路予定を話す。
「何かまずいのか?」
「ドワーフは昔から人族が嫌いでな……」
「えっ?」
バスコの表情が少し曇っているような感じがしているので、なにかあるのかと思って尋ねてみると、返ってきた答えに俊輔は驚いた。
「何で?」
「大昔、人族は魔人や獣人だけでなくドワーフにも迷惑をかけていた。そのことで、ドワーフ王国内では今でも人族はいい顔されていないらしいぞ」
聞いてみれば、人族の者によって迷惑をかけられたことによって、今でもドワーフの印象が最悪な状態で固定されてしまっているようだ。
大陸間の条約によって人族側からの侵略行為はおこなわないようになったのだが、それでも今回のように揉め事を起こしてくる者が多い。
国単位から比べれば小規模になったとはいっても、いまだに人族は他人種へちょっかいを出している。
それがあるからイメージが変わらないのは仕方がないことかもしれない。
「昔からおかしいのが多いんだな……」
今回のこともそうだが、昔から人族には迷惑な者が多かったようだ。
そのことに、俊輔は人ごとのように感想を述べる。
「……お前も人族だろ?」
「まぁ、そうだが、日向の国出身だからな……」
バスコの言うように、確かに俊輔も人族の部類に入る。
しかし、ここから遠く東の地にある日向は、他の種族に迷惑をかけることなんてなかったはず。
そのため、同じ人族でも違うという思いが強いのだ。
「日向か……、そうだ! それなら獣人大陸に行ってみれば良いんじゃないか? 獣人は種族に関係なく強い者を好む。昔自分たちと互角に戦った日向のことは認めているという話だぞ」
「獣人大陸か……、いつかいってみたいな」
獣人大陸と人族大陸の間で起きた戦いで、日向の国は人族側で参戦を余儀なくされた。
その時、魔闘術を使う多くの剣士たちによって、獣人と互角に戦ったというのは有名な話だ。
敵だったから嫌われているのかと思ったら、獣人はさっぱりした性格なのかそうではないらしい。
魔人大陸の次は獣人大陸へ行くつもりでいるので、ドワーフとは違い望みがありそうな話に、俊輔は頭の中で未来を想像したのだった。




