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第221話

「数が多いな……」


 足下周りを死屍累々にしておきながら、俊輔はダルそうに呟く。

 結構な数を倒したというのに、まだ多くの侵入者が残っているからだ。


「な、何なんだこいつ!!」


「魔物の方がまだマシだ!!」


 時間がかかっているのは、敵が俊輔の強さに恐れをなし、なかなか攻めかかって来ないというのも原因になっている。

 攻撃をして来ないので俊輔の方から近付いてみるのだが、その分囲んでいる者たちも下がっていくので距離が縮まらない。

 これでは全員倒すのにどれだけの時間がかかるか分かったものではない。


「組長!! あんなの相手にやってられないですよ!!」


 ジリジリ下がる敵たちの中には、完全に俊輔にビビッている者が複数おり、組織のトップであるボリバルへ泣き言のようなことまで言っている者まで存在している。

 しかし、この場から逃げ出そうものなら、今度は組織からの報復に怯えることになると分かっているからか、誰一人逃げ出さないのは大したものだ。


「うるせー!! 奴たった一人に何やってやがんだ!! 一斉にかかってぶっ殺しやがれ!!」


 後方で控えているボリバルからは、仲間が壁のようになってい俊輔の動きが見えない。

 しかし、相当強いようでも所詮相手は1人の子供。

 組織の連中は手こずっているようだが、その内疲れて仕留めることができると思っているようだ。

 弱音を吐く部下たちに、大きな声を出して無理やり俊輔へ向かって行くように命令する。

 

「そう、そう! こっちから攻めると家とか壊しちゃうから、一斉にかかって来てよ」


 後方で叫んでいるボリバルの命令は、俊輔にも届いている。

 その命令に賛成するように、俊輔はかかてくるように催促する。

 俊輔から攻撃をしかけてもいいのだが、そうすると周辺の家が無事で済まない。

 元々、こいつらのせいで自分たちも魔人の者たちに警戒されることになったのだ。

 これ以上悪感情を与えないためにも、なるべく村の中を壊したくない。

 だから、ボリバルの言うことは俊輔にとってもありがたいことだ。


「こ、このやろう!!」「よ、寄るな!!」


 ボリバルの命令が出ても、誰も俊輔に襲い掛かって来ない。

 あまりにもあっさりと殺し過ぎてしまったようだ。

 完全にビビッて、腰が引けている者ばかりだ。


「しょうがない……。ちょっと疲れるけど仕方ないか……」


 別に俊輔から攻撃をする方法もあることはある。

 そうするにはちょっと魔力を消費しなければならないため、ここまでその選択をしなかった。

 しかし、敵がかかって来ないのではどれだけ時間がかかるか分からないため、俊輔は仕方なく行動を起こすことにした。


「魔壁!!」


 攻めてこないから魔力を溜める時間は十分に取れ、俊輔は溜めた魔力を広範囲に広げる。

 そして、自分を囲んでいる敵全員がその魔力内に入ったのを確認すると、魔力を広げるのを止めた。


「何だ!?」「魔力の壁!?」「こんな広範囲に!?」


 俊輔の広げた魔力内の敵たちは、何のためにこんなことをしているのか分からず、疑問の声が飛び交った。

 魔導士系の者たちは、魔力を扱うのが得意な自分たちとは比べ物にならないほどの量と精度で、俊輔が魔力を使いこなしていることの方に引っかかっているような口ぶりだ。


「ハァ~……、じゃあ、ちょっと飛ばすか……」


 魔力を広げ終えた俊輔は、一息吐き出す。

 敵たちが驚いたように、周辺に張られた魔力は壁のようになっており、そこまでの強度を出すために結構な量の魔力を消費した。

 そのため、俊輔には疲労感が襲ってきた。

 しかし、この程度の疲労は、これまで幾度となく体験してきた。

 なので、すぐに慣れて普通の状態に戻った俊輔は、準備が整った魔力内で行動を開始することにした。






“ガキンッ!!”


「あんまりドタバタしてんじゃねえよ!! 村の景観が崩れるだろ!!」


「そんなこと知ったことか!!」


 俊輔がちょっとやる気を出した頃、バスコはアドリアンと大剣をぶつけ合っていた。

 周辺には家などがない広場のようなところで戦っているのだが、動き回る二人によって地面はボコボコになっていく。

 俊輔同様、村の中を壊すのは控えたいバスコは、そんなことお構いなしで斬りかかって来るアドリアンに文句をつける。

 逆に、アドリアンの方は文句を付けられても関係ない。

 以前つけられた顔の傷の恨みを晴らそうと、バスコを殺すことにしか目が行っていないようだ。


「オラッ!!」


「くっ!!」


“ガキンッ!!”


 戦い始めてから何度も武器をぶつけ合っているが、どうやらアドリアンの方が力が強いらしく、バスコの方が少し押されている。

 アドリアンの上段からの振り下ろしを、バスコは剣を盾にするように受け止める。


「フゥ……、たしかアドリアンとかいったか?」


 何度目かの膠着状態を嫌ったのか、2人はお互い距離を取り合う。

 お互い動き回ったことで少し息切れしている中、バスコは急に話かける。


「何だ? 昔のことを思いだしたか?」


 これまでのふざけた口調でない声のトーンに、アドリアンは昔のことを思いだしたのではないかと考える。

 戦う前は全く知らない様子だったので、思い出してもらえたと思って、内心では若干嬉しい気持ちになってしまう。


「いや、まったく思い出せないが、お前なかなかやるな?」


 アドリアンが少し期待したにもかかわらず、バスコから出たのは全然違う内容だった。

 バスコからしたら、昔のことなんて完全に記憶にないのだろう。

 しかし、今目の前にいるアドリアンの強さは、感心する程の高い。

 そのため、バスコは昔よりも今のアドリアンの事を褒めた。


「顔に傷を負ってから魔物の討伐をしまくったからな!」


「なるほど……」


 覚えてもらっていないことに折角期待した気持ちがしぼんでしまったが、今の自分のことは褒められているため、アドリアンは複雑な思いをしつつ言葉を返す。

 その言葉に、バスコは納得したように呟く。

 前回がどれほどの実力だったか分からないが、今の実力から考えるとこの大陸に来たばかりの頃でも相当な実力の持ち主だったのだろう。

 それがここの大陸の魔物を相手に戦ったのなら、実力が上がるのも納得できる。

 人族大陸に比べれば、ここの大陸の魔物は強さが一桁違うものばかりだからだ。


「今日この場でてめえを殺す!!」


「そりゃ無理だな……」


 自分が押しているという実感があるからか、アドリアンは自信ありげに大剣をバスコへ向ける。

 両者の攻撃力はかなりの威力を有しているので、直撃すればどちらも一撃で決着がつく。

 素人が見たら、剣技は互角でもパワーにおいて有利なアドリアンの方が確かに勝つと判断するだろう。

 しかし、バスコは慌てた様子がない。

 言葉の通り、負けると思っていないようだ。


「随分な自信だな!? お前は昔と比べてたいして変わってねえじゃねえか!!」


 押されているにもかかわらず、自信ありげなバスコにアドリアンはイラ立つ。

 この状況なら、もう少し焦るバスコの顔が見れると思っていたからだ。

 折角バスコ以上の力を手に入れたのに、涼しい顔をしているのが気に入らない。


「生憎、最近になって知り合った奴に色々と教わってな……」


「……何のことだ?」


「独り言だ。お前が知る必要はない」


 自信ありげなバスコが独り言のように呟くのを聞いて、アドリアンは首を傾げて問いかけるが、バスコとしてはある人物のことを思いだして勝機を見出したのを呟いただけだ。

 これから死ぬ人間にわざわざ説明する気はない。


「フンッ!! まぁいい、死ねや!!」


 バスコの呟きを、恐怖によるものと勝手に解釈することで納得したアドリアンは、大剣を担いだまま地面を蹴る。

 相当な重量がある大剣を持っているのにもかかわらず、かなりの速度でバスコへと接近した。


「ハッ!!」


「なっ!? て、てめえ!! 魔法なんて……」


 大剣が届くギリギリ手前にアドリアンが迫った所で、バスコは右手を突き出して魔法を放つ。

 アドリアンもそうだが、力自慢の戦闘スタイルの人間は魔法を使うという戦闘が苦手だ。

 そのため、バスコが魔法を放つとは思っていなかったアドリアンは、サッカーボール大の火球が突然全顔面に飛んできたことで、慌てて前進する足にブレーキをかける。


「最近は魔法の大事さに気が付いてな!!」


「うがっ!!」


 ギリギリで火球の攻撃を躱したアドリアンだったが、その瞬間を待っていたバスコからしたら隙だらけの状態だ。

 予想通りの反応をしたアドリアンに、バスコは持っていた大剣を横薙ぎした。

 その攻撃を躱すことができず、アドリアンの胴は斬り裂かれる。


「残念だったな!!」


「おの……れ!!」


 体を上下に斬り裂かれたアドリアンは、地面に倒れ伏すと一言呟いて動かなくなった。


「はぁ……口だけじゃなかったな」


 はっきり言って、バスコとしては結構追い込まれていた。

 しかし、色々なことで俊輔の魔力の操作を見て、魔法を使うことも考えた方が良いと感じていた。

 そのため、最近魔法の練習をしていたのが功を奏した。

 魔法を使わなかったら勝てたか微妙な相手だったため、若干俊輔に感謝したバスコだった。



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