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第220話

「ほら! 次かかって来いよ!」


 襲い掛かる敵たちを容赦なく斬り殺し、俊輔は囲んでいる者たちを煽りながら視線を向ける。

 囲んでいる者たちは、俊輔に攻撃をすればそこいらに転がっている仲間と同じく、物言わぬ骸と化す未来が見えているのか、なかなか襲い掛かろうとしない。


「このっ!!」「でやっ!!」「うらっ!!」


 右手に持つ木刀を敵に向けて俊輔がぐるりと回りに視線を向けていると、背後から3人の男が攻めかかった。

 背後から集団でかかれば一太刀入れられるとでも思ったのだろうか。


「うっ!!」「がっ!!」「ぐあっ!!」


 俊輔にそんな甘い考えは通用しない。

 男たちの攻撃は俊輔には当たらず、逆に男たちは反撃を受けて様々な個所から血を噴き出して崩れ落ちた。


「はっ!!」


 野生動物でも獲物を狩る瞬間こそが無防備になる時。

 3人の男を斬ったすぐ直後の俊輔に対し、1人が背後から密かに襲い掛かる。


「へぶっ!!」


 襲い掛かった男からしたら、ギリギリまで声を殺して狙った攻撃だったのだが、俊輔は背後を見ることなく僅かに横へ動くことで回避する。

 そして、攻撃してきた男へ回し蹴りをして蹴り飛ばした。


「野郎っ!!」


“バッ!!”


 接近戦では技術に差があると理解したのか、1人の男が両手に集めた魔力を使って魔法を放とうとしてきた。

 その男の魔法の巻き添えにならないために、敵たちは左右に分かれて綺麗に道ができた。

 両手を前に出し、そのできた道の先にいる俊輔に対して魔法を放とうとする。

 しかし、


「がっ!?」


 男の両手から魔法が放たれる直前に、俊輔が向けた木刀の先から強力な魔力弾が発射された。

 弾丸のように回転と、風魔法による加速を付けて発射されたその魔力弾が、魔法を放とうとした男の脳天に風穴を開けて命を奪い去る。

 攻撃を受けた男は、何が起きたのか分からないまま、その場へと崩れ落ちて行った。


「魔法を使うんじゃねえよ!! 家に被害がいったら迷惑だろ!?」


 男が動かなくなったのを見ながら、俊輔は周囲の人間に言うように声をあげる。

 多少壊れたとしても魔法で治せば済む事だが、それとこれとは話が違う。

 何の被害も出さずに仕留めたいというのが俊輔の希望だ。


「このガキ!!」


 今さっき言ったばかりだというのに、他の魔導士風の男が魔法を放とうとする。

 魔力を練る速度などからいって、その男もなかなかの実力だというのが分かる。


「ごあっ!!」


「……だからガキじゃねえっての!!」


 しかし、俊輔に比べればスローモーションかと言いたくなるような速度だ。

 男の魔力が溜まり切る前に俊輔の魔力弾が発射され、魔力を溜めていた男の心臓を撃ち抜いた。

 日向の人間が年齢よりも若く見られるとは言っても、さっきからガキと言われて腹が立つ。

 前世の年齢を合わせたら、俊輔はかなりのおっさんだ。

 何ならここにいる全員より年上の立場の自分がガキ呼ばわりされると、どうしても反論してしまいたくなるのだ。


「……ガキ呼ばわりするなら、ビビっていないでかかって来いよ!」


 さっきからガキ呼ばわりしている奴に限って、少し後ろの位置に立っている。

 口を動かすだけの男にイラ立つが、あまり動き回ると村の家々に被害が及ぶかもしれないため、好きかって動けない。

 俊輔の強さに手がなくなったのか、周囲の者たちはなかなか攻めて来なくなってしまった。


「ハァ~……」


 このままだと長くなると思った俊輔は、思わずため息が出てしまったのだった。






「久しぶりだな……バスコ!!」


 俊輔が集団を相手しているのに対し、バスコは離れた場所で一人の男と鍔迫り合いをしていた。

 その相手は副長のアドリアンだ。

 接近した状態のバスコに対し、アドリアンは笑みを浮かべながら話しかける。

 因縁の相手との一騎打ちができるこの機を待っていたので、アドリアンは嬉しい思いが沸き上がってきている。

 ただ、


「……すまんが、誰だ?」


「っ!? てめぇ……!!」


 話しかけられたバスコの方は、アドリアンのことなど覚えていない。

 昔人族大陸に行っていた時に知り合った男だろうか。

 しかし、覚えていたとしても、敵となった人族のことなんてどうでも良い。

 そのバスコの思いを読み取ったのか、アドリアンは覚えていてもらえていないうえに興味が無い態度に一気に怒りが吹きあがった。


「この傷を付けたのを忘れたか!?」


「……さぁ? 何で魔法で治さないんだ?」


 これを見れば思い出すだろうと、アドリアンは顔に付いている斬り傷をバスコへと見せつける。

 だが、バスコからしたらそれが何なのか分からない。

 そのため、思わず正論で返してしまった。


「この野郎!!」


 顏どころか、傷跡を見せてもバスコは思い出さない。

 因縁があるのは自分だけで、更にはバスコに正論を言われたアドリアンは、何だか恥ずかしい思いも加わって顔を真っ赤にした。


「……そう言えば、お前の武器は見た覚えがあるな……」


 何だか怒らせてしまったようだが、記憶にないのだから仕方がない。

 鍔迫り合いの状態から、お互いバックステップして距離を取ると、バスコはアドリアンの全身を眺め見る。

 お互い手にしているのは大剣。

 しかも、大剣にしてもかなり大きな部類で、そこら辺の人間が振るには重量があり過ぎる。

 そんな武器を片手で振り回すような人間は、自分だけだと思っていた。

 それを考えると、バスコの記憶の中に同じような武器を振り回していた人間がいたような気がしてきた。


「……武器の方は覚えていたのか?」


 顏よりも武器を覚えられていたことに、アドリアンはショックを受ける。

 こんなことなら、顔の傷なんてさっさと治しておけばよかった。

 何だか傷を残しておいたのが、バカらしく思えてくる。


「まぁいい……。はっきりと思い出せないが、今回は逃がさん!! ここで死ね!!」


「舐めんな!! 前回のようにはいかんぞ!!」


 武器は見た覚えがあるが、顔を見ても思い出せない。

 アドリアンの話振りだと、昔一度戦ったらしい。

 戦って生きているということは、逃げられたということだろうと考えたバスコは、今回は仕留めることにした。

 バスコの舐めた態度に我慢できなくなったアドリアンは、大剣を構えて魔力を高めだしたのだった。






「へっへっへ……なかなかの上玉じゃねえか!」


「捕まえたら味見してもいいのか?」


「バカ! 組長に殺されるぞ!!」


 場所は変わって、京子とカルメラはバスコの家へと続く地下通路を守っていた。

 その2人の所へ、10人程度の敵たちが追いかけてきた。

 そして、京子たちのことを改めて見て、下品な会話を繰り広げていた。


「……カルメラは見張っててくれる?」


「……1人でやる気か?」


「私、あぁいった目で見られるの本当に不愉快なのよね……」


 日向の戦姫隊に所属していた時、この男たちのように品定めをしているような視線してくる者は多かった。

 その時も、本当は斬って捨ててやろうかと思っていたのだが、さすがに組織に所属していたので我慢していた。

 しかし、今はもう我慢の必要はない。

 そのため、京子は目の前の男たちを殺っていまうことにした。


「お前なら大丈夫だろうが、気を付けろよ!」


「任せて!」


 京子が出す殺気を受けて、カルメラは敵たちの相手を任せることにした。

 というより、手を出したら自分も巻き添えを食らうのではないかと思ってしまったからだ。

 一応念のため注意を促しつつ、カルメラはその場から少し下がった。


「あぁ? 嬢ちゃん一人で相手してくれんのか?」


 木刀を抜いた京子がゆっくり男たちに近付いて行くと、一人の男が手を伸ばしてきた。


“ゴトッ!!”


「……う、うぎゃぁー!!」


 しかし、伸ばした手が京子に触れる前に、いつの間にか地面に落下していった。

 自分の手がいつの間にか落下したことが理解できず、一瞬間が空いた後に痛みに気が付いた男は悲鳴を上げる。


「な、なにを……」


 斬られた人間どころか、他の男たちも何が起きたのか分からない。

 そして、全員が京子がやったことだと思って武器を構えたころには、全員が全身を斬り刻まれて血を噴き出した。

 京子が自慢の速度を生かして瞬く間に斬り刻んだのだ。


「相変わらず速いな……」


 10人をあっという間に倒した京子に、以前戦った経験のあるカルメラは、改めて恐ろしい思いがしたのだった。



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