第219話
「このガキ!」「舐めやがって!」
小さな村に攻め込んで来た大量の人数を前にして啖呵を切った俊輔へ、短気な者たちは我慢できずに剣で斬りかかる。
薄く魔力を纏っている所を見ると、なかなかの実力の持ち主たちなのだろう。
冒険者のランクで言ったらAランク上位、もしくはギリギリSランクといったところだろうか。
そんなのがゴロゴロいる所を見ると、相当力を持った組織なのだと分かる。
「がっ!!」「ごあっ!!」
「ガキじゃねえっての!」
上段から振り下ろされた剣を躱しつつ、すれ違いざま2人の腹を木刀で斬り裂く。
斬られた男たちは大量に血が撒き巻散らしながら、倒れて動かなくなる。
俊輔はそんな2人に、成人しているにも関わらずガキ扱いされたことを気にしたような反論をする。
「このっ!!」
間髪入れず、槍を持った男が俊輔へ突きを放ってくる。
「むんっ!」
「ぎっ!!」
その突きを躱し、俊輔はそのまま男の首の動脈を斬り裂いて仕留める。
「……こいつ!! 結構やるぞ……」
あっという間に3人が殺されたことで、攻め込んで来た人族たちは先程の怒りが一気に冷めたらしく、俊輔のことを警戒するように睨みつけた。
何の考えもなしに攻めかかれば同じ目に遭うということを想像したのか、迂闊に攻めかかろうとは思わなくなったようだ。
「ハァ、ハァ……、俊輔の奴、もう始めてやがったか?」
俊輔と京子たちが到着して少し経ち、バスコがようやくこの場に到着した。
遅れたとは言っても、かなりの速度で来たにもかかわらず、もう敵を仕留めている俊輔の手の速さにどことなく呆れたように呟く。
「バスコ! あいつらは一体……」
この場に来たバスコに、人族と戦うために残った村人たちは集まる。
大量の人族が攻め込んで来たと思ったら、少し前にバスコの所に来た人族が戦い始めた。
どうしていいか分からなくなったからか、村人たちはこの状況を理解しているだろうバスコへと問いかけたのだ。
「安心しろ! あいつらは敵じゃない」
「しかし……」
サウロたちの伯父であるタバレスをはじめとした村人たちが、俊輔たちの出現に戸惑っているとすぐに分かったバスコは、安心するように説明する。
だが、人族は人族でしかないので、敵でないと言われても安心することができない。
「それより、お前たちは地下からみんなのところへ行ってくれ!」
「バカを言うな! あれだけの人数相手にこんな少数でどうしようって言うんだ!?」
村を守るために残ったが、とてもではないが数が違い過ぎる。
死も覚悟していたので、人族だからと言っても味方が増えるのはありがたい。
しかし、それでも数で劣るというのに、自分たちに避難しろというバスコの考えが分からない。
「大丈夫だ! いいから行け!!」
「…………分かった!」
「「「「「タバレスさん!?」」」」」
何か考えがあるのか分からないが、バスコの目は自信が満ちているように感じる。
その目に一切の迷いも感じなかったタバレスは、バスコの言うことを受け入れることにした。
その判断に、他の村人たちは慌てる。
どう考えても、バスコたちだけに任せて大丈夫なはずがないと思っているからだ。
「これは俺の判断だ! もしもの時は俺を責めてくれていい!」
「「「「「………………」」」」」
このまま残って戦った方が、僅かな可能性とは言っても村を守ることができるかもしれない。
しかし、タバレスは村でもみんなに信用されている人間。
そのタバレスが言うのだから、他の者たちは何も言えなくなってしまった。
「行くぞ!」
「「「「「お、おうっ!!」」」」」
タバレスの説得によって、村人たちは戸惑いながらも受け入れることにした。
そして、バスコと俊輔たちにこの場を任せ、自分たちは先に避難させた村人たちと同じく地下通路がある方向へと走り出したのだった。
「野郎!!」「逃がすか!!」
攻め込んで来た人族たちを無視するように、タバレスたちは背を向けて離れて行く。
その姿を確認した敵たちの数人が追いかけようとする。
「京子! カルメラ! そっちは任せた!」
「任せて!!」「了解!!」
俊輔の言葉を受けて、タバレスたちを追おうとした敵の邪魔をするように、京子とカルメラが立ち塞がる。
魔法で一気にこの場を大爆発させて、敵をある程度一掃しようと思えばできるが、そんなことをしたら村の家々も巻き込んでしまう。
村人の中には、思入れのある家を渋々諦めるように避難した者もいるだろう。
そういった者たちのためにも、出来る限り家に被害を出さないように敵を倒すしかない。
そうなると、俊輔の手をすり抜ける者も出てくるかもしれない。
そういった者たちの相手は、京子とカルメラに相手にしてもらうしかない。
2人とも、俊輔の短い指示でそれを理解したのか、武器を出して警戒をしている。
「ボリバル! バスコは俺にやらせてもらうぞ?」
「あぁ、好きに殺れ!」
組織の長であるボリバルに対し、副長のアドリアンはバスコしか目に入っていないようだ。
自分の頬に大きな傷を負わせたバスコのことが許せないのだろう。
完全に俊輔たちのことは無視している。
そんなアドリアンを止めることは難しいので、ボリバルは好きにさせることにした。
「お前ら! あのガキはなかなかやるぞ、気を付けろ!」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
先程3人を一刀の下に斬り伏せた実力から、かなりの実力を有しているということをボリバルは理解している。
しかし、所詮相手はたった4人。
それに、彼らが出るまでに至らないだろうが組織の中でも実力のある者は後ろに控えている。
負けることはあり得ないだろう。
「女たちは痛めつけても殺すなよ!」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
魔人の血を引いているということがあるとは言っても、カルメラはスタイルもいい。
そのため、ボリバルは以前から目を付けていた。
それに、もう一人の日向の女もなかなかいい女だ。
多少痛めつけてでも捕まえ、自分の手に入れたいという欲求が湧いてきた。
そのため、攻撃を開始しようとする部下たちに対して、そのように指示を出した。
「バスコのおっさんは適当に頑張ってくれ!」
「……俺だけ指示が雑だな」
俊輔からすると、バスコは適当に敵の数を減らしてくれればいいと思っている。
なので、指示が雑になってしまった。
その指示を受けたバスコも、ちょっとショックを受けたように呟く。
「やれっ!!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
そんな俊輔たちのやり取りを無視し、ボリバルの指示を受けた敵たちは大きな声をあげて俊輔たちへ向かって襲い掛かっていった。
「死ね! オラッ!」
我先に功を上げようとしたのか、筋肉隆々の長身の男が斧を俊輔へ振り下ろしてきた。
さっきの俊輔の攻撃を見ていなかったのだろうか。
たしかに威力もあり、食らえば危険かもしれないが、そんな大振りの攻撃が俊輔に通用する訳がない。
その攻撃を躱した俊輔が攻撃しようとした時、何で自信満々に大振りの攻撃をしてきたのか分かった。
この男の胴には、防御用に厚めの金属が巻かれていた。
「……お前バカか?」
それがあるから攻撃してきたのかもしれないが、はっきり言ってバカとしか言いようがない。
「っ!?」
「胴以外を狙えばいいだけだろ?」
血を噴き出し、自分が崩れ落ちて行くことが理解できない男に対して、俊輔答えを言ってやる。
その言葉の通り、胴を固めているなら他の部分を攻撃して仕留めれば済む話だ。
男が斬られたのはアキレス腱。
そこを斬られたことで、立っていることができずに地面に崩れ落ちたのだ。
「がっ!!」
四つん這いになってしまえば、身長差があろうと関係ない。
そのため、俊輔はその男の首を斬って止めを刺した。




