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第218話

「みんな! 何としてもここを死守するぞ!」


「お、おう!」


 サウロたちの伯父であるタバレスも、防衛のために村に残った者の一人だ。

 数の上では圧倒的に不利の状態のため、残った他の村人たちは腰が引けているようにも感じる。

 斯く言うタバレスも、近付く人族の集団の数に、死ぬ覚悟をまだ決めきれないでいた。


「何だ? 随分少ない出迎えだな?」


 村の少し手前で陣取ったタバレスたちを見て、人族の先頭を歩いていた者が足を止めて呟く。

 周囲に隠れている村人たちの位置を確認しながら、タバレスたちに問いかけてきた。


「な、何しに来た人族ども!?」


「何しにも何も、俺らの仲間が世話になった礼をしに来ただけだ」


「仲間だと……」


 村人の一人が尋ねると、先頭の男は分かりきった事のように答える。

 たしかに、つい先日サウロが襲われた者たちをバスコが殺したが、それは誘拐を計った人族どもの自業自得だ。

 仕返しに来るなんて、ただの言いがかりでしかない。


「恐らくはバスコの野郎が殺ったんだろ? バスコの野郎を出しやがれ!」


「ここにはいない!」


 ある意味正解だ。

 正確には、バスコとおかしな人族たちによって仕留められたのだが、バスコが殺したと言えばたしかに間違いではない。

 それに、出せと言われてもこの村の近くに住んでいるだけで、バスコはここにはいない状況だ。

 出したくても出せないと言った方が正しいのかもしれない。


「……そういや、お前ら魔人は馬鹿だからあいつのことをハブっているんだったな?」


「あいつにどれだけ救われたと思っているんだよ? 魔人てのは恩知らずって意味なのか?」


 話の内容から、この村へちょくちょく誘拐をしに来ていたのはこの人族たちの仲間だったらしい。

 若い村人たちで構成した数人の隊も追い払うことに成功していたが、何といっても一番人族から守っていたのはバスコだ。

 昔人族の大陸に行っていたこともあったというだけで、村人のほとんどがバスコと人族との繋がりを疑ってしまった。

 それによって村から離れた場所で暮らすことになったバスコ。

 そんなことになっても、バスコは人族から攫われそうになる村人たちを救ってくれた。

 たしかに恩知らずといわれたも仕方がない。


「黙れ! 貴様らには関係ない話だ!」


 人族に言われた言葉が刺さったのか、若い村人の一人が人族たちへ反論する。

 人族のいうことはあながち間違っていないという思いがあるため、タバレスは何も言うことができない。


「そういやそうか……? ここは今日で潰れるんだからどうでも良いことだな……」


 反論をされて逆上するのかと思っていたが、先頭に立つ男は納得をしたように呟く。


「やれ!!」


「「「「「おぉっ!!」」」」」


「くっ!?」


 戦闘の男の言葉を合図にしたように、人族たちは大きな声をあげると共に村人たちへ向かって襲い掛かろうとした。

 その様子に、魔人の村人たちは武器を手に迎え撃とうと構えを取った。


「はい! ストップ!!」


「「「「「っ!?」」」」」「「「「「っ!?」」」」」


 戦闘が開始されると思った直前、魔人たちの陣営の前へ一人の人間がどこからともなく現れた。

 その突然の出現に両陣営とも驚きで目を見開き、動きを止めざるを得なかった。


「おいおい、駄目だろ!? 人族の評価を落とすようなことしちゃ……」


 現れたのは俊輔だ。

 魔人たちに襲い掛かろうとしていた人族たちに対し、腕を組んで説教じみた言い方をする。

 人族たちの数を見ても何とも思っていないかのような態度だ。


「……人族? その恰好は、たしか東の国の奴か?」


「日向の者だ!」


 突然現れた俊輔の姿を見て、人族の先頭に立っている者は意外そうに問いかけてくる。

 見た目は人族のようだが、少し顔立ちが違う上に来ている服装が大陸の物とも魔人たちの物とも違う格好をしている。

 その恰好の特徴から、人族の男はなんとなくの情報から答えを導き出した。


「おぉ、そうだ。……っで? その日向の人間がここにいるんだ?」


「観光に立ち寄っただけだ!」


 東の島の日向という国の者たちが、確かこのような格好をしているということを聞いたことがあった男は、思い出せたことに納得し、その日向の人間が遠く離れたこの地にいることを疑問に思った。

 その疑問を尋ねると、俊輔からはあっさりと答えが返ってきた。


「……魔人大陸を観光って、バカか?」


「うるせえ!」


 聞いていた両陣営の者たちは、ごもっともな意見だと思っただろう。

 魔物が強力で危険だということは、どこの大陸の子供でも知っていることだ。

 それが分かっていながら、観光という目的のためだけで上陸するなんて普通ならたしかにバカだ。

 しかし、バカ扱いされるのは俊輔としては不本意だ。

 特に、魔人を誘拐して金を稼いでいるような者たちに言われたくない。


「んっ!? 上玉が来たな……」


「俊ちゃん速いよ!」


 俊輔に少し遅れて、京子とカルメラが追い付いてきたのだ。

 その二人を見て、先頭に立つ男は値踏みするような視線を向ける。


「……ボリバル、アドリアン……」


「んっ? ……お前、ベンガンサのカルメラじゃねえか?」


 着いた早々、先頭の男とその隣に立つ男を見てカルメラは呟く。

 どうやらその2人の名前を知っているようだ。

 それは相手も同じだったようで、カルメラの顔を見た先頭に立つボリバルが問いかけてきた。


「相変わらず魔人狩りをしているようだな?」


「金になるんでな……」


「……屑が!!」


 ボリバルの言葉に、人族の者たちがざわめく。

 裏の世界にいる者たちからしたら、ベンガンサという組織のことはよく耳にしているはずだ。

 特に、ボリバルたち魔人を狙う組織の人間からすると、何度か揉めたこともある組織なため、知らない方がおかしい。

 魔人を助けることを目的にするベンガンサと、真逆の組織がボリバルたちだ。

 彼らのせいで、カルメラたちが魔人たちの保護へ動かなければならないのことになっているのだから、どちらかというとカルメラたちの方が恨みが強いようだ。


「お前らベンガンサはたしか魔人の血を引いた者たちの集まりだったな? だから邪魔をしてきていたんだっけ……」


「何が言いたい?」


 カルメラを見て、ボリバルは笑みを浮かべる。

 恐らく、ベンガンサという組織がもう壊滅したことを知っていて話をしているかのようだ。

 そのにやけた顔に、カルメラはいら立ちが募る。


「お前の兄貴のシモンも死んだってな? 何なら俺がお前の面倒見てもいいんだぞ?」


「誰が貴様なんぞに!!」


 魔人の血が流れているとは言ってもスタイルが良いカルメラは、女性として利用価値がある。

 そんな思いが透けて見えるボリバルの勧誘に、カルメラは眉間にシワを寄せて拒絶した。


「あっそ……まぁいい。それで? まさかお前ら魔人の味方に付くとでも言いたいのか?」


「そうだと言ったら?」


 予想通りの返答だったのか、あっさりとカルメラの答えを受け入れたボリバルは、俊輔に目を向けて問いかける。

 腰に木の剣を差しているだけの目の前の日向の男が、まさかこの人数の自分たちを相手に敵対することが信じられず、ボリバルは確認のつもりで俊輔に問いかけた。

 その問いに対し、俊輔は質問し返す。


「……死ね!!」


「そうだよね?」


 質問をし返した時点で、そう言って来ることは分かっていた。

 と言うより、この場に来た時点で戦うつもり出来たので、今更な質問だ。

 ボリバルの言葉が合図になったのか、俊輔の登場で足を止めていた人族の者たちは武器を手に動き出した。


「言っとくけど、こんな好き勝手して、お前らが殺される覚悟があってのことだろ?」


 まずはこの日向の男を殺そうと、人族たちは俊輔へ襲い掛かる。

 しかし、多くの人間の攻撃が迫る中、俊輔は冷静に腰の木刀を抜きつつ言葉を投げかける。


「うがっ!!」「へぶっ!!」「がっ!!」


 俊輔が木刀を一振りすると、襲い掛かって来た者たちは一人残らず首や胴を斬られ、血を噴水のように噴き出し、そのまま倒れて物言わぬ骸と化した。


「「「「「っ!?」」」」」


「向かって来るなら一人残らず殺す!! 死にたい奴からかかってこい!!」


 その結果に人族の者たちは驚き、またも足が止まる。

 もしも襲い掛かったのが自分だったら、同じようになっていたと思うと人族たちは一気に血の気が引いた。

 そんな彼らに対し、俊輔は血が滴る木刀を掲げて啖呵を切ったのだった。



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