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第215話

「おっちゃん!!」


 バスコの家の一室へと繋げられた通路から、サウロが元気よく飛び出してきた。

 その後を追うようにアイラも姿を現す。

 家の近くで薪割をしていたバスコは、家の中から声が聞こえたのでいったん仕事を中止して、声のした部屋へと戻ってきた。


「サウロ!? もう大丈夫なのか?」


「あぁ!! 元気だぜ!」


 数日前に人攫いの人族によって大怪我を負ったサウロ。

 俊輔の治療によって怪我の方は治ったが、出血が多すぎたためにしばらくの間安静にしていた。

 それによって貧血状態も改善されたらしく、いつもの元気いっぱいのサウロに戻ったようだ。


「おっ? ボウズ治ったか?」


 誰か来たことに気付いた俊輔も、サウロを見つけて声をかけた。

 地下通路を造った時、たまたまアイラに会った俊輔は、サウロが安静にしていると聞いていたので特に心配していなかったが、やっぱり元気な姿を見ると安心した。


「俊輔!! 傷治してくれたんだってな? ありがとな」


「おう! 怪我には気を付けろよ」


 アイラから成り行きを聞いていたのか、サウロは俊輔に感謝の言葉と共に頭を下げた。

 生意気なガキンチョではあるが、こういった礼儀のようなことはキチンと出来るようだ。

 内心意外に思いつつ、俊輔はサウロの頭を乱暴に撫でてやった。


「お姉ちゃん!」


「アイラ? どうしたの?」


 アイラの方は、外にいるカルメラの所へ向かっていた。

 俊輔の従魔であるアスルの体を洗ってやっていたところに来たアイラに気付き、カルメラは手を止めた。

 魔法で作った温水をかけられてほっこりしていたアスルは、カルメラが手を止めたことに不服そうだ。


「あの時助けに来てくれてありがと!」


「……気にしないで」


 先日助けられた時は泣きながらだったため、アイラはきちんとお礼を言いたかったらしく、カルメラに改めてお礼を言ってきた。

 カルメラはそれに対し表情を変えないで答えを返したが、内心ではめちゃめちゃ嬉しかったのか、アイラの頭を撫でまわした。


「お姉ちゃん! また魔法教えて!」


「いいわよ!」


 京子とカルメラに魔法を教えてもらってから、アイラは暇さえあれば練習していた。

 兄のサウロを守るために始めたことだったが、今は単純に魔法を使う事が面白くなっている。

 そのため、もっと使えるようになりたいと指導を求めてきた。

 小さくかわいい女の子に頼られて嬉しくなったカルメラは、すぐにそれを了承した。






「じゃあな! おっちゃん!」


「バイバイ!」


 サウロはバスコと俊輔に剣や武術を教わり、アイラは京子とカルメラを相手に魔法の練習を見てもらっていると、あっという間に時間が経過した。

 帰るのが遅くなると、村の人間が怪しがる可能性がある。

 そのため、まだ日も暮れていないが、2人を村へ帰すことにした。

 2人もそれに納得し、バスコや俊輔たちに見送られて元気に地下通路へ降りて行った。


「良かったな?」


「あぁ……」


 サウロの終始元気な様子を見て、バスコの表情が嬉しそうに見えた。

 きっと先日のことで、サウロの精神に何かしらの支障をきたしているのではないかという不安がずっと残っていたのだろう。

 それが、今日の訓練の中で全く感じられなかったため、安堵したのかもしれない。

 俊輔もその思いがあったので、バスコの気持ちは分からないでもない。

 そのため、確認の上でも俊輔が問いかけたら、バスコは素直に頷いたのだった。






「ただいま! 母ちゃん!」


「ただいま!」


「2人ともおかえり!」


 夕飯の支度を始めていた母の所に、サウロとアイラは元気に戻ってきた。

 その元気な表情を見て、2人の母も笑顔になった。

 先日、サウロが大怪我を負ったと聞いた時は気が気じゃなかったが、戻ってきた時は傷もなく貧血状態だというだけだったため、心底安堵した。

 貧血状態もすぐに治り、いつものサウロに戻ってくれたのがとっても嬉しいのだ。


「バスコさんに遊んでもらえたの?」


「「うん!!」」


 地下通路のことは黙っているように言われていたが、アイラは母に話してしまった。

 長時間どこにもいないのを心配されたら、すぐに村の人たちにバスコの所に行っていることがバレてしまうと思ったからだ。

 バスコは2人の父親の友人で、昔から2人の面倒を見てくれていた。

 そのため、彼女としても忌避する感情は持っていない。

 なので、ちゃんと報告してくれれば、2人がバスコの所へ遊びに行くことを反対していない。

 村の者の中にはバスコを毛嫌いしている者もいるので、村から出ることを禁止されてしまっているが、バレなければ大丈夫だろう。

 それよりも、バスコの所に行けずに元気のない2人を見る方が母としては心苦しいのだ。


「よかったわね!」


「「うん!!」」


 自分たちが元気だと、母も嬉しそうにしてくれる。

 それが分かっているのか、2人は元気に返事をしたのだった。





“カーン!!”“カーン!!”


「っ!?」


「何だ!?」


 みんなで楽しく夕食を食べた後、サウロたちが眠りについていると、大きな鐘の音が聞こえて来た。

 その音に驚き、サウロとアイラは布団から跳び起きた。

 この鐘の音は、緊急事態の時に鳴らされる音だ。


「母ちゃん!!」


 自分たちの部屋から出た2人は、すぐに母親のもとへと駆け寄った。


「敵だ!! 人族の集団が迫ってきている!!」


 3人が何が起きたのかと戸惑っていると、近所の住人の男性が外で大きな声をあげていた。

 その内容から、ここにいるのはいけないと、3人は身の回りの物を集め出した。


「2人とも村役場へ逃げるわよ」


「「うん!!」」


 非常用の荷物を入れたバッグを背負い、サウロとアイラは母と共に避難場所である村役場へと向かったのだった。



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