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第214話

「組長!!」


「どうした? そんな慌てて」


 俊輔が、バスコの家からサウロとアイラが住んでいる村まで通路を作っている頃、北にある洞窟内の一室で、多くの男女が飲み食いをしていた。

 その中でも、様々な料理が置かれている所に座り、女性を侍らせている男の側に、一人の男が慌てて駆け寄ってきた。

 酒も回り気分が良くなっているのか、組長と呼ばれた男は軽く聞き返す。


「オルランドたちが帰ってきません!!」


「何!?」


 部下らしき男の報告を聞いて、組長の男は酒が注がれているコップを机に叩き置いて立ち上がった。

 ここの大陸は危険なため、夜の行動は控えるように部下たちには伝えている。

 夜行性の魔物は昼の魔物よりも危険な種類が多いので、当然の指示だ。

 日が暮れるまでに帰らないというのは、大体の場合が命を落としているというのが彼らにとっての常識になっている。


「魔物にやられたのか!?」


「10人全員が戻って来ていないので、原因が分かりません!!」


 組長の男以外の者も、その報告を聞いて立ち上がる。

 戻ってこない仲間を心配しての反応のようだ。

 オズワルドをリーダーとする10人は、全員が冒険者のランクで言えば(シングル)レベル。

 ここの魔物を相手にしても、この人数ならそう簡単に殺られるようなことはない。

 危険だと感じれば、集団で連携して逃走を計ることも容易なはずだ。

 1人も戻ってこないというのは相当危険な魔物に遭遇したか、もしくは何か人為的な要因により捕まったか殺られた可能性がある。


「オズワルドの奴らの担当ってどこだ?」


「たしか、南にある村だったような……」


 室内にいる者たちもザワザワと話し始める。

 その中で、オズワルドたちが今日どこへ向かったのかを確認するような話が交わされ始めた。 


「南の村までの魔物の調査はしっかりしていたはずだよな?」


「はい! なので魔物による全滅の可能性は低いかと……」


 組長の男の言う通り、この拠点としている洞窟から周辺にある村々までの進路はちゃんと調査されている。

 魔物と遭遇することは危険だし時間も浪費する。

 それを回避するためにも、調査は毎週のように行われている。

 その調査を怠ることは他の仲間にも被害が及ぶ可能性が生じるため、手を抜くことはまずありえない。

 組織ができたばかりの頃はそういった者もいたが、仲間による粛清でこの世から消された。

 それを知っているのもあり、調査を怠るような物はこの中にはいない。


「そうなると、あの村の住人にやられたって言うのか?」


「アドリアン?」


 組長と呼ばれた男の側でここまでの話を黙って聞いていた男が、報告に来た男へ問いかける。

 細身の長身で、頬に大きく切り傷が付いているその男の低い声に、室内の者たちは空気が一瞬にして冷え込んだような思いがして、全員が黙り込んでしまった。

 その反応の仕方が、少し他の者以上の怒りに満ちているように感じ、組長の男は意外そうに問いかけた。


「ボリバル、あそこにはバスコとか言うのがいる。そいつならもしかしたらオルランドたちを殺せるかもしれない」


 組長の男のことをボリバルと名前で言う関係を考えると、このアドリアンという男は、この中ではかなりの地位にいる男なのかもしれない。

 そのアドリアンのいうことに、組長のボリバルは真剣に耳を貸す。


「お前が1人で戦った時に深手を負わされたって奴か?」


「あぁ……」


 ボリバルの問いに、アドリアンは頬の傷を撫でながら頷く。

 どうやらその傷を付けたのがバスコのようだ。

 アドリアンはその傷が忌々しく思っているのか、昔を思い出してますます眉間にシワが寄ってきている。

 それと同時に部屋の中の空気が重くなり、室内にいるボリバル以外の者はドンドン気が重くなってきた。


「お前はそのバスコって奴に10人がやられたって言いたいのか?」


「奴1人に全員がやられたという可能性もあるが、1人も逃げられないというのはあり得ない。もしかしたら村の者の協力を受けたのかもしれない」


 アドリアンの予想は遠からず当たっていた。

 しかし、バスコが村の者の一部と対立しているということを知らないため、他に協力者がいるということは予想できないでいた。

 

「じゃあ、あの村の奴らも同罪だな……」


「どうするんですか? 組長……」


 どうやら、ボリバルの中でどうするかは決まったようだ。

 オルランドたちが魔物にやられたというよりも、アドリアンに深手を負わせるような奴が村人と共に罠にかけたと考えた方が納得がいく。

 仲間殺しには報復するのがこの組織の決まり事。

 報告に来た男の問いへの答えは決まっている。


「皆殺しだ!!」


「捕まえる商品が減ってしまいますが宜しいのですか?」


 ボリバルの答えに、1人の部下が問いかける。

 報復は分かるが、魔人は組織の資金となる商品だ。

 それが減ってしまうのは、資金源が減るということになる。

 そう問いかけたくなるのも仕方がないことだ。


「あそこは高値が付く商品が少ない。それに、あそこ1つ減った所でどうにかなる」


 そう言って、ボリバルは一枚の地図をみんなの前に広げて見せた。

 そこには、この洞窟から離れた場所に、大きな印がつけられていた。


「これって……」


「でっかい町を見つけた」


 その地図を見て、室内にいる者たちは息をのんだ。

 地図が持つ意味を理解しての反応だ。

 その反応を待っていたかのように、ボリバルはドヤ顔で笑みを浮かべた。

 バスコのいる村を潰そうとも、その町をターゲットにすれば商品は手に入れることができるということだ。

 しかも大きな町となれば、選び放題といったところだ。


「おぉ!!」


「さすが組長!!」


 新しく魔人たちが住む集落を探すのはかなりのリスクを伴う。

 どんな魔物が生息しているか分からない所を突き進んで行かなければならないからだ。

 そんなリスクを冒しながらもでかい町を探し出したボリバルに、室内の者たちは大きな歓声を上げた。


「これで村1つ減った所で構わないだろ?」


「「「「「はい!!」」」」」


「仲間の死には報復だ!!」


「「「「「おう!!」」」」」


「待ってろよ!! バスコ……」


 これからさらに儲けることができると分かったからか、ボリバルの言葉に室内の者がテンション上げて大きな声で叫び返す。

 まるでフェス状態だ。

 そんな中、アドリアンだけは冷静にバスコへの報復を狙っていたのだった。



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