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第212話

「………………」


 村の端にある薪が積んである小屋の近くで、アイラは1人で魔力の操作の練習をしていた。

 兄のサウロは先日の人族によって受けた傷によって出血がひどかったため、貧血気味のため家で安静にしている。

 どこの魔人の町や村でも、子供が良く魔物に狙われる。

 それはこの世界ならどこでもあることなのだが、特にこの大陸の魔物は強力な個体が多いため、毎年のように子供が殺されることが起きる。

 しかも、大陸の東側に位置するこの村には、魔人を誘拐しに来る人族まで頻発するようになってきたため、子供が少なくなっている。

 サウロやアイラが生まれた時期は、特にその両方による被害が大きく、同年代の子供が少ない。

 2人に近い年齢の子供となると、かなり年上か、生まれたばかりの赤ん坊くらいしかいない。

 それもあってか、アイラには一緒に遊べる子供がお兄以外にあまりいないため、1人で遊ぶしかないのだ。


「難しいな……」


 思い通りに魔力を扱えず、アイラは思わず呟く。

 先日のこともあって、サウロとアイラはしばらく村から出ることが禁じられてしまった。

 子供が貴重だということは、幼いアイラでも分かっている。

 しかし、何も遊ぶ物がない村で出来る遊びなんてつまらない。

 バスコの所に行って遊んでもらいたいが、村から出るわけにはいかないため、何かできないかと思っていたら、カルメラの顔が浮かんできた。

 綺麗で優しいお姉さん。

 それがアイラのカルメラの印象だ。

 いつも元気な兄のサウロだが、アイラのことを守ろうといつも気にかけてくれている。

 そんな兄のためにも何か身につけたいと思っていた自分に、魔法を使えるようになったらいいと教えてくれたお姉さんだ。

 魔法が使えるようになれば、お兄ちゃんにも心配をかけないで済む。

 そのため、アイラはカルメラに教わった魔力操作を懸命に頑張るのだった。


“ボコッ!!”


「っ!?」


 日が暮れ始めたころ、ずっと魔力操作の練習で集中していたため疲れたアイラは、家に帰ろうと腰かけていた切り株から立ち上がった。

 すると、薪小屋の近くの地面が隆起した。

 何が起きたのか分からず、アイラはビックリして近くの樹に隠れる。


「おぉ、中はこんなんなってたのか……」


「あっ! 俊輔お兄ちゃん……」


 急に隆起した地面から1人の人間が現れた。

 樹の陰からこっそりと覗き込むと、先日カルメラと同様に兄のサウロと自分と遊んでくれた俊輔が立っていた。

 人族でありながら、魔物や人攫いの人族などから救ってもらったこともあり、どことなく今まで見た人族とは違う雰囲気を持った俊輔に、アイラは脅威のようなものは感じなくなっている。

 そのため、隠れていた樹から俊輔の方へ近付いていった。


「んっ? おぉ、アイラだ」


 近付いてきたアイラを見た俊輔は、腰を落として優しく頭を撫でる。

 サウロが怪我を負ってから暗くなっていたアイラだが、俊輔に撫でられて少し嬉しそうだ。


「穴掘って入って来たの?」


「シ~……!」


 ちょっとテンションが上がったからか、アイラは問いかける声が少し大きくなった。

 周囲に探知を広げると、特に誰もいないのは分かった。

 しかし、声はどこまで届いているか分からない。

 そのため、俊輔はアイラに声を落とすようにと、人差し指を口に当てた。


「…………………」


 たしかに、俊輔が村の中に入っていることが他の人にバレたら、また問題になるかもしれない。

 なので、アイラは大きな声を出さないように、両手で口を押さえた。


「実はな、バスコのおっさんの家からここまで地下通路を作って来たんだ」


 チョイチョイと手招きし、俊輔は薪小屋の陰になる部分にある穴の方へとアイラを誘導した。

 俊輔に促されるまま、両手で口を押さえたままのアイラは穴の側へ付いて行った。

 アイラが穴の底を見たのを確認して、俊輔はこの穴のこの事を説明し始めた。


「えっ!?」


「シ~……!」


 バスコの家に続いていると聞いて、アイラは思わず大きな声を出して反応してしまう。

 それに対し、俊輔はまたすぐに声を落とすようにジェスチャーをする。


「ここからバスコさん家に行けるの?」


「あぁ!」


 声を落としたが、バスコに会えるかもしれないということを聞いて、アイラはとても嬉しそうだ。

 その笑顔を見れて、造った俊輔も苦労が報われる思いだ。


「行きたいか?」


「うん!」


 やっぱり子供は笑顔で元気な方が良い。

 嬉しそうなアイラの笑顔に、俊輔はこのままバスコの所へ連れて行こうと思った。

 しかし、それをすぐさまやめた。


「でも、今日はもう駄目だな……」


「……そうだね」


 空を見上げたら、暗くなり始めていた。

 密かに村に進入したことがバレなくなって良いことだが、小さい子供はそろそろ家に帰る時間だ。

 アイラも同じことを思ったのか、ちょっと残念そうに空を見上げた。


「サウロはどうした?」


「血が足りないだけで、大丈夫だって言ってた」


「そうか……」


 先日負った怪我は、俊輔特製の回復薬を大盤振る舞いしたので治ったはず。

 しかし、アイラの側にいないことが今更になって気になったため、俊輔はサウロのことを尋ねた。

 そして帰ってきた答えに納得した。

 たしかに傷は治したが、さすがに流れた血を元に戻すまではできない。

 貧血状態がまだ続いているのだろう。


「俊輔お兄ちゃんとカルメラおねえちゃんとバスコさんのおかげ! ありがとう!」


「……そうか? ハハ……」


 アイラの純粋な瞳で感謝の言葉を言われたことで、俊輔は何だか照れ臭そうに頭を掻く。


「そうだ! バスコのおっさん、サウロが大怪我したのは自分のせいだって思って落ち込んでんだ。サウロが元気になったら2人で元気づけに来てやってくれないか?」


「そうなの?」


「あぁ……」


「分かった!」


 照れ臭さに耐えきれなくなったのか、俊輔は話題をバスコの方へと移した。

 俊輔の言葉に、アイラはそれまでの笑顔が少し曇った。

 村の人はバスコのことをあまりよく思っていないようだが、サウロが怪我したのは誘拐しようとした人族の者たちが悪いのであって、バスコのせいではないことはアイラは分かっている。

 いつも面倒を見てもらっているバスコが、元気が無いと聞いて戸惑っているようだ。

 しかし、会えばきっとまたいつものように遊んでくれるはずだ。

 そのため、アイラは元気づけることを約束した。


「じゃあ、俺はおっさんの所に戻るな? アイラも早く帰れよ!」


「うん!」


 アイラの返事を聞いて満足した俊輔は、通路に穴の下にある通路に下りようと、穴の側面にある梯子に手をかけた。


「あぁ、それと……」


「?」


 このまま穴に蓋をして帰ろうとした俊輔だったが、注意しなければいけないことを思いだしてアイラに話しかけた。

 何を聞かれるのか分からないアイラは、首を傾げる。


「サウロ以外にここのことは離さないようにな! バレたらうるさいだろうから」


「うん!」


 こんな所にバスコの家に続く通路があるなんて分かったら、村の人間がまた何を言うか分からない。

 そのため、アイラは俊輔の言ったことに頷く。


「バイバイ!」


「おう! じゃあな!」


 手を振るアイラに返事をして、俊輔は穴の奥に入って行った。

 穴にはちゃんと村人にバレないための対策として蓋のようなものが作ってあり、俊輔がその蓋を閉めると、どこに穴があるのか分からないようにカモフラージュされた。

 場所を覚えるようにその蓋を軽く叩き、アイラは兄の待つ家へと帰っていったのだった。



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