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第210話

「うぐっ……!」


「ピ~……」


【旦那! もうやめた方が……】


 顔を青くし腹を抑える俊輔。

 それを従魔の2匹が心配そうに見つめている。

 アスルの方は念話で忠告をしてくる始末だ。


「俺が任せたのが失敗だったんだ。ちゃんと責任を持たないと……」


「ピ~!!」


【旦那!!】


「何だかすごい嫌な気分なんだけど?」


 長い付き合いから、俊輔と従魔たちがどことなくわざとらしいやり取りをしていることに気付いたのか、京子が腹を立てたように話しかける。


「そんなに美味しくない?」


「そ、そんなことないよ……」


「いや、マズイだろ!! 嬢ちゃんよくこんなの作れたな!?」


 京子から不穏な空気を感じ取ったのか、俊輔は言葉を詰まらせながらも答えを返す。

 しかし、そこまで京子のことを知らないバスコは、ストレートに答えた。


「あ゛っ!?」


「…………いえ、美味しい……です」


 しかし、その答えを聞いた京子に睨まれると何も言うことができなくなり、つい嘘を言うしかできなくなった。


「………………」


 カルメラはというと、以前バスコのように有無を言えない状況に陥った経験から、何も言わず自分のノルマを懸命に消化しているという状況だ。

 何が起きているかというと、アイラの忘れ物を渡すためにバスコたちを追ったカルメラがいなくなってすぐ、俊輔は探知で異変を感じた。

 そして、サウロが怪我をしたのを感じたため、俊輔も助けに向かうことにした。

 その時、「()()()()()()()()!」という京子の言葉に、安心して出発したのだが、帰ってからすぐに後悔することになった。


「おかえり!」


 迎えの言葉を言う京子の手元には、お玉。

 鍋には何かを煮たような形跡。

 明らかに料理をしていたようだ。

 それを見て、俊輔とカルメラは一気に顔を青くした。

 任せてというのは留守番のことなどではなく、料理のことだったらしい。


 京子の料理、それは食べ物というより劇物なのではと聞きたくなるような味に何故か仕上がる。

 しかも、食べてまずいと言った時には京子からの無言の圧力によって、まさに蛇に睨まれた蛙といった状況になってしまう。

 こういう時は、黙って精神を保つように我慢するしかないのだ。





「それにしても、酷いわね……」


「確かにな……」


 色々あったが、何とか夕食も終わり、話は村の魔人たちがバスコに言った言葉のことになった。

 村からこのバスコの家までは、少し距離がある。

 行き来する時、今回のように何かに襲われる可能性はあった。

 そうなった時のためにも、自衛の手段として訓練を始めたというのに、それを始めたその日に今回のようなことになったのは、本当に運がなかったというしかない。

 しかし、それが起きたからと言って、バスコが悪いという話になるのはなんとなく納得いかない。

 悪いのはアイラたちを攫おうとした人族たちであって、決してバスコではないように思える。

 そもそも、人族との繋がりを疑われ、仕方なくバスコは離れて暮らさなければならなくなったというのに、村人たちは今回のことでその疑いを取り消すようなことは一切言わなかった。

 俊輔たちは、そのことがどうしても引っかかっている。


「………………」


「カルメラ! 村に行って村人たち説得しようなんて考えるなよ!」


 一番引っかかっているのは、黙ってずっと眉を寄せて考えこんでいるカルメラかもしれない。

 サウロとアイラの、兄妹という関係がどうしても自分と重なるのだろう。

 兄のシモンを亡くして、まだそれほど経っていない妹のカルメラ。

 だから兄のサウロを亡くしかけたアイラのことがどうしても心配で仕方がないのだろう。

 村人たちの態度は気に入らないが、彼らがバスコに危害を加えてきたわけではない。

 今にも村へ乗り込みそうな雰囲気に、カルメラを抑えるように俊輔は言った。


「……分かっているわよ!」


 俊輔に止められるまでは、力尽くでどうにかしてやろうという考えも少しはあった。

 裏社会に足を突っ込んでいた時の自分ならそういったことも出来たが、今はそんなやり方があの兄妹のためにならない事ぐらい分かっている。

 そのため、力尽くという考えは俊輔に言われるまでもなく頭から消去した。


「要するに、あの兄妹が来れるように、村からここまでの道のりを安全にすればいいんだろ?」


「何か策でもあるのか?」


 カルメラとしては、あの兄妹がこれまでのようにここへ遊びに来れるようになってほしいと思っているのだろう。

 サウロとアイラが、ここに来て今日のように笑顔でいてくれる。

 そうなるように何かできないか、それがカルメラの頭をグルグル回っている。

 そんなカルメラに、俊輔は何か考えがあるかのような物言いだ。


「魔物も人族もそう簡単に入れないような壁でも作っちまえば良いんじゃないか?」


「そんな簡単に……」


 簡単そうに言う俊輔に、京子が渋い顔をして話しかける。

 俊輔からしたら大したレベルではないが、村人たちは魔闘術を使っていたように見えた。

 ならば、魔法も使えるということなのだろう。

 その魔法で作った村の壁はかなり薄い。

 魔物に頻繁に壊されるから最低限で抑えているのかもしれないが、むしろしっかりした強力な壁を作るべきだ。

 しかし、俊輔たちがそんなこと言ったって彼らは聞いてくれるわけがない。


「簡単だよ。ここと村までの道のりにだけ壁を作るだけだから」


 そっちが話を聞かないなら、こっちも聞く必要はない。

 理屈としてはかなり強引だが、所詮俊輔は一時しかいない旅人でしかない。

 文句は無視すれば気にならない。

 だから勝手にやらせてもらう。


「ガキみたいな物言いだな?」


「うるせえよ!」


 理屈はまるで子供の用だが、俊輔が言うように、つまりは安全に行き来できるようにしてしまえば、文句を言われる筋合いはない。

 カルメラはその策に乗ることにした。

 悩みが吹き飛んだことで、ようやく笑みを浮かべ、俊輔へとツッコミを入れる。

 俊輔もカルメラが少しスッキリしたような顔になったので、そのツッコミに笑顔で否定した。


「お~い! 風呂空いたぞ!」


 明日からのことが決まったすぐ後、風呂に入っていたバスコが出てきた。

 ここはバスコが自作で作った家らしく、すこし大きく作り過ぎたのか部屋が余っているとのことだ。

 そのため、俊輔とネグロとアスルで一部屋、京子とカルメラで一部屋を貸してもらえることになった。

 庭もまあまあ大きいので、庭を借りられれば良かっただけなのだが、部屋を借りられるならそちらの方がありがたい。

 バスコからしたら、自分と兄妹を救ってもらった礼もあるのだろう。

 しかも、昔人族大陸に行っていた時の経験からか、この家には風呂場まで作ってあった。


「あいよ! ネグ! アスル! 洗ってやるから一緒に入るぞ!」


「おいおい! そんなにうちの風呂はでかくねえぞ!」


「え~! マジかよ!」


 魔人大陸に入って初めての風呂に、俊輔はテンションが上がっていた。

 いつも魔法できれいにしているが、ネグロとアスルもたまには洗ってあげたい。

 そのため、2匹を誘ったのだが、バスコに止められ、結局は1匹ずつ洗ってやることになったのだった。



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