第209話
明けましておめでとうございます。
新年初投稿です。
「俊輔、カルメラありがとう。助かったぜ!」
まさかの人族との遭遇により、危うくサウロを死なせ、アイラを攫われるところだった。
そうなれば、自分は守り切れなかったことを一生後悔する所だった。
そうならなかったのは、俊輔とカルメラが来てくれからだ。
感謝してもしきれない。
バスコは、心の底から俊輔たちへ感謝の言葉を伝えたのだった。
「2人ともありがとう!! うぅ……」
兄のサウロが助かったこと、それに攫われそうになっていた自分を救ってもらえ、アイラはカルメラに縋りついて大泣きしながら感謝を述べてきた。
嬉しさや恐怖などの感情が入り混じり、気持ちの整理がつかないのもあるのだろう。
「……いや、私は……」
「おうっ! 良かったな!」
バスコと足にしがみついて泣き止まないアイラに感謝されたが、カルメラの表情は浮かない。
そのまま何かを言いそうになるが、俊輔がそれを遮るように感謝の言葉を受け入れた。
「おいっ、バスコ!! いったい何が……」
戦闘音で気付いたのか、数日前に俊輔たちと一戦交えた村人たちがこちらへ向かって来ていた。
そして、バスコを見つけると話しかけてきたが、人族たちが転がっていることに目が移った。
「何だこの人族は? それとそいつらは……」
「あぁ、この転がっている奴らは人攫いに来た連中だ。サウロが殺されかけ、アイラが攫われかけた」
説明を求められたバスコは、先程までピンチだったことを説明した。
「何っ!?」
その説明を受けて、村人たちは驚きバスコに背負われたサウロの顔を覗き込む。
大量に血を流し顔色が少し良くないが、規則正しく呼吸をしている所を見ると一応サウロは無事なように見える。
アイラの方は大きな声で泣いているくらいで、怪我している様にも見えない。
「彼らは、それを救ってくれた者たちだ」
「………………、そうか……」
一度伸され、彼ら村人たちは俊輔たちの実力は分かっている。
なので、この人数相手にしても倒せたというのは彼らも納得できた。
しかし、転がっている者と同じ人族という考えがよぎるのか、なんとなく感謝しづらいといった表情をしている。
「みんなが来てくれたのなら大丈夫だろ。2人は任せるよ」
そう言って、バスコはサウロを村人に預け、ようやく泣き止んできたアイラのことも頼む。
村に送る所だったのだから、確かに彼らに任せるのが手っ取り早い。
「じゃあ、俊輔、カルメラ家に戻ろう」
「あぁ……」「えぇ……」
2人を任せたバスコは、それ以上要はないと言うように村人たちに背を向けた。
そして、そのまま俊輔たちを伴って自分の家へと向かって行ったのだった。
村人たちとあまりうまくいっていないと言っていたが、両者の間には完全に壁ができている様だ。
「バスコ! もうこの2人と関わるな!」
「お前に関わったからサウロが怪我をしたんだ!」
自分の家へ帰ろうとしたバスコの背中に向かって、村人の数人から心無い言葉が投げかけられた。
サウロが怪我をしたのは、全部転がっている人族たちのせいだ。
バスコには何の非もないように思われる。
しかし、完全にバスコのことを認めないと決めているのか、感謝の言葉はないまま村人たちは去っていった。
「……あんなこと言われて何とも思わないの?」
「いつものことだ。あいつらは俺を認めるなんて絶対したくないんだよ」
たしかにカルメラが言うように、2人を守ることに必死に戦ったというのに村人たちの言い分は酷いものがある。
腹を立てるのも仕方がない。
しかし、バスコからするといつものことなのか、たいして気にしていないように見える。
それもカルメラが引っかかっている所なのかもしれない。
「でもっ……」
「それにあながち間違っていない」
バスコも腹が立たない訳ではないが、彼らのいうことも納得できた。
だから、カルメラのいうことも分かるが、文句は言えない。
「何が……」
「あれが人族じゃなくて魔物だったとしたら?」
せめて反論だけでもしてくれれば、カルメラも納得できたのかもしれない。
しかし、それを言おうとしたカルメラに、バスコが急に話を変えてきた。
「人と魔物では違うわ!」
「同じだよ。今回のことは遅かれ早かれ起こる可能性があったんだ。今回のことであの2人はもう来ないでほしい……」
今回は人だったから起こったこと。
カルメラはそう思っているが、バスコの方は違う。
たしかに、ここは魔除けの樹によって強力な魔物が入って来ないようになっている。
しかし、弱い魔物がたまに入ってくることがある。
その魔物が集団で襲ってきたら、もしかしたら同じような展開になっていた可能性はある。
今回がたまたまだったで済ませられない。
同じようなことが起きないように、2人には自分の所に来るということを本心から止めてもらいたい。
「そんな……」
「2人のためだ」
カルメラからすると、あの2人はバスコのことが大好きだ。
父の友達というのもあるが、それと共に父の影を感じているという部分もある気がする。
2人にとっても、バスコにとっても会わなくなるのは寂しすぎる。
バスコも強がって言っていると、表情を見れば分かる。
「…………」「…………」
それから2人は無言になり、何も発しなくったままバスコの家へと戻っていった。
「…………どうしたものかな」
俊輔は黙って2人のやり取りを見ていた。
お互いの気持ちが分かる。
だからこそ何も言えないでいたのだ。
色々なことが上手くいくには、どうすればいいのか考えながら、2人の後を付いて行ったのだった。




