第207話
投稿する前に書いた分が全部消えた。バックアップも無し。
もう今日は投稿止めようかと思った。思い出した分だけ投稿します。
「じゃあ、すまんが留守番を頼む」
「あぁ、分かった」
剣の訓練をしていたサウロ、体内の魔力感知をしていたアイラ。
それによって、2人はだいぶ疲れているようだ。
日も傾きだしてきたので、このまま帰すのは心配になったバスコは、今日会ったばかりの俊輔に留守番を頼み、2人を村の側まで送って行くことにした。
「じゃあな、俊輔!」「バイバイ、京子おねえちゃん!」
「またな、ガキンチョ!」「バイバイ、アイラちゃん!」
男は男同士、女は女同士で仲が良くなったのか、サウロは俊輔に、アイラは京子に手を振って別れの言葉を告げ、バスコの後ろについて歩き出した。
しかし、アイラは一旦戻ってきて、俊輔のたちの少し後ろにいたカルメラに近寄って行った。
「「……?」」
俊輔と京子が何かと首を傾げる。
「カルメラおねえちゃんバイバイ!」
「……バイバイ!」
カルメラの側に寄ったアイラは、笑みを浮かべてカルメラに手を振った。
兄妹が背中を見せた時は、恐らく兄のシモンと自分の幼少期を思いだしてどこか寂しげな表情をしていたが、アイラの笑顔を見たカルメラは、無理やり口角を上げて手を振り返した。
カルメラから挨拶を受けたアイラは、嬉しそうにバスコとサウロの所へ戻っていた。
そして、3人はそのまま村の方へと歩き出したのだった。
「…………」
3人の姿が見えなくなると、カルメラは一人先にバスコの家の玄関へと向かって行った。
自分に重なるアイラが、楽しそうにしていることが嬉しい気持ちにさせるのか、カルメラの表情はさっきまでより柔らかくなっていた。
「……さて、世話になる礼に夕飯でも作っておくか?」
「そうね!」
もう日が暮れるので、この後俊輔たちはバスコの家で世話になる予定だ。
断られる可能性もあるが、その場合は庭を借りてテントで一泊すればいい。
どちらにしても、美味い飯でも作って待っていることにした。
俊輔と京子は、サウロとアイラの相手にして疲れて寝ているネグロとアスルがいるバスコの家へと向かって行った。
「んっ? どうした?」
「それアイラちゃんの手袋じゃ? 体を動かして熱くなったから外してたっけ……」
玄関にたどり着くと、カルメラが小さい手袋を持って立っていた。
その手袋には見覚えがる。
アイラがこの家に来た時に着けていた手袋だ。
体内の魔力感知訓練をした後、ネグロたちと遊んで体を動かした時、熱くなったためか外していたのを京子は思いだした。
ポケットに入れていたが、それが落ちてしまったのかもしれない。
「……渡してくる」
ここは魔人大陸でも北の方。
そのため、朝夕になれば結構冷えて手袋が必要になる。
バスコに頼んでおけば、そのうちアイラに返してもらえるだろう。
しかし、早く返すのに越したことがないため、カルメラは慌てるようにバスコたちを追いかけて行った。
「あっ! おい、魔物に気を付けろよ!」
慌てて行ってしまったカルメラの背中に向かって、俊輔は注意喚起の声をかけた。
「大丈夫かな? カルメラ」
「あの兄妹と自分たち兄妹が重ねているからか、あのアイラって娘が気になって仕方ないんだろ?」
ここに来て、カルメラはどこか気持ちが不安定な感じになっているように感じ、京子は心配になる。
カルメラ自身から話を聞いている俊輔は、あまり考えないようにしていたシモンのことが、何度も浮かび上がってきているせいだと思っている。
こればかりはどうしようもないので、俊輔たちはそっとしておいてやることにした。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!」
「くそっ!!」
俊輔たちを置いて村へ戻っていたはずのバスコたちだったが、その途中で最悪なアクシデントが起こっていた。
サウロの腹がバッサリ斬れ、大量の出血をして倒れている。
アイラはそんな兄を気遣って、大きな声で呼び続ける。
「あ~ぁ、1人殺っちまったじゃねえか!」
「悪い、このガキが邪魔しやがったもんだから……」
バスコたちを囲むように、人族の者たちが話し合っている。
サウロを斬ったのも、この者たちの一人だ。
姿を見せている者だけで10人程はいるだろう。
「まぁ、もう1人いるからいいか……」
「ガキとは言っても女の方が、変態貴族に高く売れるからな」
現れた人族の集団の会話の内容から察するに、どうやらどこかの貴族の依頼で、魔人の誘拐に来たようだ。
しかも、狙いは子供。
サウロを斬ってしまったため、ターゲットは完全にアイラに向いている。
「くっ!! 寄るな!!」
現れた人族の集団は、その隠密行動などから考えるとかなりの実力の持ち主たちだ。
1人、2人ならバスコでもどうにかできるが、周囲を囲まれた上程では完全に不利な状況だ。
斬らえて動けないサウロと、そのサウロに縋って泣き叫んでいるアイラを守りながらでは、逃げることすらできそうにない。
ジワジワ包囲を狭めてくる男たちに、常に装着していた腰の剣を振り回して何とか近付かせないようにするのが精一杯だ。
「アイラ! 俺が道を作る。お前だけでも逃げろ!」
「いや! お兄ちゃんをおいてなんていけない!」
斬られて腹から大量の出血をしているサウロ。
人族の者たちはもう死んだと思っているが、サウロはまだ息がある。
逆にそれがアイラを引き留めている原因でもあるが、子供のアイラに諦めて逃げろとは言いにくい。
説得している時間も与えてもらえるわけでもないため、バスコは頭を悩ませた。
「ハッ!!」「ダッ!!」
「くそっ!!」
敵もこの状況になれているのか、バスコに向かって2人同時に襲い掛かる。
その攻撃を剣で受け止めることしかできず、アイラがガラ空きになってしまった。
「さぁ、来いよ!」
「いやっ!! はなして!! お兄ちゃんが……!!」
仲間がバスコの邪魔をしているうちに、一人の男がアイラへと歩み寄る。
そして、サウロをさすっていた手を掴まれ、アイラは引っ張り上げられる。
子供の力では抵抗しても意味を成さず、アイラはサウロから引きずり離されそうになる。
「……んっ?」
「…………アイ……ナを……放…せ!」
アイラを引っ張る男が、足に違和感を感じて下を向くと、薄く目を開いたサウロが男の足を掴んでいた。
薄れゆく意識を懸命に保ち、何とかアイラを救おうとしている。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!」
「うるせえ!! もうこいつは助かんねぇんだよ!!」
「アウッ!!」
サウロの必死の抵抗も、男が足を振るだけであっさりと剥がされた。
兄はまだ動いている。
アイラは懸命にサウロに声をかけるが、男の力に抗えるわけもなく、サウロからドンドン離されて行く。
泣き叫ぶ声を不快に思ったのか、男はアイラを黙らせようと平手打ちを放った。
「うぅ……お兄ちゃん……」
子供のアイラが男に殴られて無事なわけがない。
アイラは吹き飛ばされ、頬を腫らして口から血が流れる。
そんな状態になっても、アイラは涙を流しながらサウロを案ずる声をかけた。
「黙ってついてくればいいんだよ!」
「ヒッ!!」
そう言って、男は地面に倒れているアイラに向かって手を伸ばした。
殴られたことによる恐怖で、アイラは目を瞑って身を縮める。
「うぎゃっ!!」
「…………?」
目を瞑っていたため何が起きたか分からないが、アイラの前にいる男が悲鳴を上げた。
そして、その悲鳴が何だったのかアイラはゆっくりと目を開く。
「カルメラおねえちゃん!!」
その姿を見たアイラは、嬉しそうにパッと目を見開く。
そこに居たのは先程分かれたばかりのカルメラが、アイラに迫っていた男の腕を斬り落とし、アイラを庇うように立っていた。




