第203話
「っで? おっ……バスコさんはここで1人で暮らしているのか?」
自分たちを襲った魔人たちが住む村から、離れた場所にポツンとあった家に来た俊輔たち。
そこで知り合ったバスコという老け顔の男の招きを受け、俊輔たちは中へと入る。
少し散らかっているところを見る限り、どうやら一人で住んでいるように思える。
老けているので最初おっちゃん呼ばわりした俊輔だったが、20代だと聞いたので呼び方を変えた。
それに慣れていないせいか、俊輔は呼び方を間違えそうになった。
「お前またおっちゃん呼ばわりしようとしただろ?」
「ハハッ……」
俊輔が呼び間違いをしたことに敏感に反応したバスコは、半眼で俊輔に問いかける。
気付ないと思ていたのに、そのことを指摘された俊輔は、頭を掻きながら誤魔化すように笑った。
「ったく……、まぁ、ここに住んでるのは1人だな……」
俊輔に悪気が感じられなかったので、バスコは仕方なく先程の答えを返したのだった。
しかし、それは何とも歯切れの悪い返答だった。
「何でだ?」
バスクのその返答に、俊輔はたいして気にすることなく問いかける。
「気を利かせて聞かないという選択をしないのか? お前は……」
「まぁまぁ……」
空気を読まない俊輔に、バスコはまたも半眼になる。
歯切れの悪さから、これ以上聞くなと言う空気をわざと出していたのに、まさか聞いてくると思わなかった。
「俺たちはどうせ長い間ここにいる訳でもないし、話したところで何も変わんないって……」
「……それもそうだな。まぁ、たいした話でもないし、話してもいいか……」
俊輔たちからすれば、バスコとの出会いは旅の途中の一コマでしかない。
何か弱みを手に入れたからといって、何かしようとする思いなどない。
バスコの方にしたって、話すのは面倒だから言いたくないという思いの方が強いので、重そうな空気を出していたが、実際の所はたいした内容ではない。
ここに来る客も珍しいのもあって、バスコはここに住む理由を話すことにした。
「俺がここで1人暮らししているのは、村の者に俺が人族の手引きをしていると思われていてな……、要するに入村禁止されたんだ」
「えっ? 何でそんなことに?」
見た所、バスコは俊輔たちを襲った魔人たちと変わりない普通の魔人のように見える。
ただ少し老けた顔をしているように見えるだけで、何故そのようなことになるのか分からない。
魔人は警戒心が強いとは言っても、排他的な種族だとは思っていなかった。
なので、俊輔は意外な感じがした。
「疑われる理由があるの?」
もしかしたら、何かバスコが村人を勘違いさせるような事でもしたのかと思い、京子が問いかけた。
「ちょっと長くなるが良いか?」
「「「うん」」」
バスコの前置きに、俊輔たち3人は頷きで返す。
ネグロとアスルは、俊輔の足元でのんびりウトウトしている。
「俺は1人で人族大陸に行っていた事があってな。元々腕っぷしには自信があったし、悪さばかりしていたから村人は喜んだだろうな」
人族から呪われた種族と言われ、危険なこの大陸に追いやられた魔人族の者たち。
実際は滅多に現れない、ただ肌の色が違うだけの人族でしかないのに、このような危険な地で生き抜かなければならなくなった。
その中で何とか生き残り、そして少しずつ数を増やしてきた。
そのせいか、仲間意識が強いのだが、そんな者たちに煙たがられるとは、余程のやんちゃ坊主だったのだろう。
「あぁ……、1つの村に1人はいるよなそういうガキンチョって……」
「……………………」
バスコの話に、俊輔は納得したようなコメントをする。
その内容に、隣に座る京子は、俊輔を無言でじっと見つめた。
俊輔や京子が住んでいた官林村のことを考えると、そのガキンチョといったら俊輔が当てはまるような気がしたからだ。
まさにブーメランと言うようなことを言っている俊輔に、ツッコミを入れようか迷うところだ。
「しかし、人族大陸に着いたら、奴隷にされそうになってばかりで、腕っぷしを使って裏家業をして何とか暮らしていたんだが、さすがに疲れてこの村に戻ってきたんだ」
「裏家業……」
バスコのその言葉に、同じく裏の世界で生きてきたカルメラは反応する。
何か心当たりがあるように小さく呟くと、カルメラは考え込むようなポーズを取った。
「その返ってきたタイミングが良くなかった。俺が戻って来てから、ちょうど人族が村の住人を攫い始めたんだ」
「俺たちも人攫いに間違われたっけ……」
何人もの村人が連れ去られ、帰って来なくなってしまった。
急に家族を失った者たちからしたら、怒りを何かに向けるしかないとなった時、人族の大陸に行っていたバスコが、たまたま標的になってしまったのかもしれない。
何度かそういうことが起き、村人からしたら人族=人攫いという式が出来上がっているのだろう。
「まぁ、ここはまだ魔物もあまり出ないし、出たとしても俺一人で対処できるレベルの魔物だ。そいつを狩ったりしていれば食に関しては問題ないからな。畑で野菜も作ってるし」
「いや、それにしても……」
“トン! トン!”
この家にあるものを見ると、誰かが来ているような形跡がある。
そう思った俊輔が、問いかけようと思った時に、家の扉がノックする音が聞こえたのだった。




