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第201話

「おぉっ! 思った通り良い景色だ!」


 魔人族の村人の襲撃を受け、迎撃して村に返した後、俊輔たちは近くの山へと昇り始めた。

 そして、登っていくと、眼下を眺めることができる場所へと辿り着いた。

 登る前からここに当たりを付けていたが、予想していた通り絶好の景色が広がている。

 深い緑色の樹々は、長い樹齢を示しているのかもしれない。

 そんな樹々を見ていると、酸素まで濃く感じるから不思議だ。


「ほんとだね!」


「ピー!」「…………!」


 俊輔の隣に立つ京子も、その景色に高い声をあげる。

 そして、俊輔の従魔のネグロとアスルも気に入ったようだ。


「……お前たちは本当に呑気だな」


 そんなメンバーを見て、カルメラは呆れたように呟く。

 ここまで来る間も、人族の大陸ならかなり危険と言われるような魔物が頻繁に姿を現した。

 それを苦も無く倒してしまう人間と、景色を眺めてのんびりしている人間が同じだというのだから、不思議で仕方がない。


「愚痴ってないでお前も見てみろよ」


「………………」


 別に愚痴っていたわけではないのだが、俊輔に促されたカルメラも景色を眺める。

 俊輔たちの言う通り、深い樹々に綺麗な川が流れている良い景色だ。


色々(・・)見下ろせるだろ?」


「……もしかして、村の様子を見るためにここに登ったのか?」


 その言葉を聞いて、カルメラはのんびりしかけた気分が覚める。

 見下ろしている景色の一部に、俊輔たちに襲い掛かって来た魔人たちが住んでいるであろう村が、小さく見えている。

 カルメラは、俊輔は何の考えもなく、ただ山登りを楽しんでいるのかと思ったら、これが目当てで来たかのように思えてきた。


「まぁ、それもあるな」


 やはりカルメラが思った通り、俊輔の狙いは村が眺められるところへ行くことだった。

 村に入るのが無理だというのなら、遠くから眺めればいい。

 そう思ったら、ちょうどいい山が見えたので、すぐに上ることに決めたのだ。


「しかし、この距離から見えるのか?」


「大丈夫だ」


 たしかに、俊輔の思った通り村が見下ろせるとは思うが、かなり遠くに小さく見えているだけで、こちらから望遠の魔術や魔道具で見るには離れすぎているように思える。

 とてもではないが、村の内部を見ることはできない気がする。

 そう思ってカルメラが問いかけると、俊輔はなんてことないように答えを返す。

 黙って俊輔の様子を見ていると、ただ遠くを見るだけだというのに高濃度の魔力が目に集中していく。


「……すごいのか、馬鹿なのか分からないな……」


 そんな難しいことを簡単にやってのけるため、カルメラは背筋に冷たい汗が流れた。

 そして、さっきまで呑気さが何だったのかと思えてくる。


「……あっ、いたっ!」


「んっ? 何が?」


 村の様子を眺めていた俊輔が、何かを見つけたようだ。

 ここまで遠いと見えないというカルメラの言葉は正しい。

 村の様子を見ることができるのは俊輔くらいのもので、京子はまだできそうにない。

 そのため、俊輔が何を見つけたのか気になって問いかける。


「女だろ?」


「っ!?」


 その京子の言葉に、俊輔よりも早くカルメラが答える。

 俊輔しか見えていないので、カルメラが見えているわけないのだが、確かに俊輔が密かに女性を見つけたという可能性もある。

 そう思ったら、京子はすぐに顔色を変えて俊輔の顔を睨みつけた。


「いやいや、違うから! そんなすぐに殺気を飛ばすな」


「………………」


 京子に睨まれた俊輔は、顔を青ざめて否定する。

 しかし、その慌て方が怪しさを増したのか、京子の殺気はなかなか収まらない。


「カルメラ! お前言って良い冗談と悪い冗談があるだろ!」


「す、すまん! 京子! 冗談だ!」


「そう?」


 治まらない殺気に、俊輔は慌ててカルメラに助力を求める。

 カルメラ自身も、自分の軽口にまさかそこまで京子が腹を立てるとは思わず、焦ったように訂正する。

 その訂正を聞いて、京子はようやく怒りを治めた。

 はっきり言って、この大陸の魔物なんかよりも京子の方が恐ろしいかもしれないと、カルメラは密かに思ったのだった。


「見つけたのはあの小っちゃい兄弟だよ」


「「あぁ……、あの……」」


「無事に村に戻れたみたいだな……」


 俊輔が気になっていたのは、魔物に襲われていた兄妹だった。

 もしかして、魔人の男たちが俊輔たちに襲い掛かって来たのは、俊輔と別れた子供たちが怪我でも追ったからなのかという思いもあった。

 しかし、村の中他の子供と一緒に遊んでいるあの時の兄弟を見つけ、俊輔はホッと胸をなで下ろした。

 京子とカルメラも気になっていたのもあって、安心したように微笑んだ。


「……ったく、お人よしめ……」


 口ではなんとなく馬鹿にしたように言うが、カルメラは優しい俊輔を少し見直したのだった。


「しかし、これからどうするんだ? 心配だったあの兄弟の安否も確認できたのだろ?」


 村の様子も俊輔だけだが見れたし、子供たちの安否も確認できた。

 しかし、魔人の彼らの様子だと入るのは無理そうだ。

 もうここにいる理由もなくなったので、次にどこに行くのかカルメラは気になった。


「そうだな……、他に村がないか探すか?」


「それこそ馬鹿か? 探知で探すというつもりか?」


 流石に、大きな大陸にあそこの村しかないという訳ではないはず。

 あそこの村ではだめだったが、どこかに人族でも仲良くしてくれる魔人もいるかもしれない。

 そう思って提案したのだが、カルメラからは冷たい目で見られた。

 どこに何があるかも分からず探し回るなんて、体力の無駄遣いのような気がして、カルメラはきつい言葉でツッコミを入れた。


「……あっ? あの村から離れた所に、ポツンと家のような物が見える」


「えっ?」


 カルメラのツッコミを無視するように、俊輔は指を差した。

 俊輔たちを襲った魔人たちの村から離れた所に、確かに家の屋根のような物が見える。

 もしかしたら誰か住んでいるのかもしれない。


「っ!? 人だ!」


「何っ!? あんなところで1人とは、そいつも只者ではないな……」


 そう思っていたら、その屋根の近くに男性が一人いるのが見えた。

 危険な魔物が多いこの大陸で、一人で住んでいるなんて豪胆な者もいるものだ。

 カルメラからしたら、とてもまともな人間が住んでいる様には思えない。 


「よしっ! あいつに会いに行こう!」


「行こう!」


「ピー!」「…………!」


「なっ!?」


 またも簡単に決めた俊輔に、それに同意する京子たち。

 それに、まだついていけないカルメラだった。



カルメラが完全に突っ込み役になってきている気がする。

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