第200話
「えいっ!」
「ぐえっ!」
京子の木刀が魔人の男の横っ腹に入る。
攻撃を食らった魔人の男は、腹を抑えて蹲る。
その痛がり方からアバラが折れたのかもしれない。
「ハッ!!」
「ゴハッ!」
京子が敵を伸したすぐ側で、カルメラも敵を倒す。
槍術の訓練用の棒で、敵の攻撃が届かない距離を保って間合いを制し、隙を見て放った突きが腕をへし折る。
武器を落とした男は、腕を抑えておとなしくなった。
「……終わったみたいだな?」
「あっ! 俊ちゃん!」
早々に5人の魔人を気絶させた俊輔が、魔人たちを少し引きずりながら運んできた。
彼らを気絶させ、そのままにして置いたら魔物の餌になってしまう。
ちょっと扱いが雑だが、その辺は勘弁してほしい。
その俊輔を見て、京子は元気に手を振る。
「ピ~!」「………………!」
「ネグたちも来たか……」
京子とカルメラが、倒した男たちを一ヵ所に集めているところに、ネグロたちが倒した者たちをアスルの背に乗せて運んできた。
元気そうなところを見ると、2匹とも怪我はしていないようだ。
「……すまんな。すぐ治すんで……」
合計25人の魔人たちを、気絶している、していないに関係なく、俊輔は土魔法で動けなくする。
京子とカルメラの相手をしていた者たちは、みんな痛手を負っており、動けなくするのに若干気が引けた。
骨が折れている者たちをそのままにしておいたら、さらに恨みが膨れそうなので、捕まえて動けなくしてから俊輔が回復魔法で治してあげた。
「貴様ら! また我々をさらいに来たのだろう!?」
「何人も、つれて行きやがって!!」
「子供まで連れて行きやがって!!」
俊輔が怪我を治してあげたら、魔人たちが騒ぎ始めた。
思っていた通り、俊輔たちを人攫いだと思っているような口ぶりだ。
「……いや、違うけど?」
「嘘つけ!」「そうだ!!」「信じられるか!」
ガンガン文句ばかり言って来るが、俊輔には関係ない。
なので、否定をするのだが、聞く耳持たずといった感じで叫んで来る。
これでは何を言っても無駄だと、俊輔も困ってしまう。
「彼らに言っても無駄だ。それだけ人族は彼らを傷付けて来たんだ」
「みたいだな……」
俊輔が困っていると、カルメラが話しかけてくる。
魔人族との係わりは、その血を引くカルメラの方が良く知っている。
奴隷にされた魔人たちを何人も救い、何度か大陸に戻したりしていた。
こちらに来るのは初めてだが、魔人族のことは俊輔たちよりかは詳しいつもりだ。
そのカルメラが言うように、彼らがこうなるのは人族が相当ひどいことをしてきたからだろう。
聞く耳持たないのも仕方がないかもしれない。
「全員気が付いたみたいだな……」
しばらく魔人たちを放置していると、気を失っていた者たちが意識を取り戻し始めた。
そのたびに文句を言う声が増えていき、全く収拾がつかない。
俊輔たちに対して色々言って来るが、俊輔たちは完全に無視して軽食を食べ始めた。
この大陸に来て見つけたフルーツだ。
樹になっていたトゲトゲの実なのだが、見た目に似合わずみかんに似た味が美味かった。
「もういいだろ? 村に帰れば?」
言いたいことを粗方言ったからか、ようやく魔人たちは静かになった。
ジッと睨んでいる彼らの拘束を解き、俊輔は彼らに解散を告げる。
それを聞いた彼らは、ポカンとして動かなくなった。
「俺たちを拐いに来たんじゃないのか?」
「いや、最初から違うって」
解放されたことが理由が理解できないのか、全員戸惑ってオロオロしている。
その中の一人が、俊輔に問いかける。
それに対して、解放したのに彼らがいつまでもいることが分からない。
いられても困るので、さっさと帰ってほしい。
なので、俊輔はさらっと受け流す。
「そうだ! どっか観光できるとこないか?」
「し、知るか!」
最後の一人が移動を開始しようとした時、俊輔は無駄だと分かっていても一応聞いておこうと問いかける。
彼らの村へ行くのは無理だとしても、どこか景色の良い場所とかないのか気になる。
しかし、案の定魔人の男は答えることなく去って行ってしまった。
「あ~ぁ、行っちゃた」
全員いなくなってしまい、京子は残念そうな声をあげる。
感情としては、魔人の村がどういう感じなのか見てみたかった。
「どうするんだ? このまま村に行ったらまた同じ目に遭うぞ」
彼らを解放したので、人攫いではないと思ってもらえたかもしれないが、これでまた行ったらカルメラの言うように何しに来たとなるだろう。
さっき以上の人数に襲い掛かられるかもしれない。
「ん~、あっ、あそこ景色良さそうじゃね?」
「そうだね! 行ってみよう!」
村には行けないので、俊輔はどこか景色の良いところへ行こうと考えた。
そして、その時遠くにそびえ立つ山が目に入り、そこへ向かうことにした。
俊輔の意見には大体賛成の京子は、その俊輔の意見に乗っかる。
「高いところが好きって……バカなのか?」
「ひでえな……」
たしかにこの世界でも馬鹿は高いところが好きだと言われたりするが、面と向かって言われるとちょっと傷つく。
カルメラの言葉に文句を言いつつ、俊輔たちは登山を開始したのだった。




